※先生と生徒パロディ
※紫原が先生


「先生」

放課後、俺ともう一人、先生以外にいないこの教室で小さくそう呼べばいつものように「なあに赤ちん」と答えてくれた。黙って日誌を書く僕に対して暇なのか、机に頭を突っ伏している。暇なら職員室に戻ればいいのに、と思ったが自分自身にも二人っきり、というのは嬉しいものでそう素直には言えないものだ。「暇ですか」「ちょっとねえ」でも、赤ちん見てるのすきだから〜と言う先生はとても可愛いと思う。2m越えの年上を可愛いというのも可笑しいと思うが、そこは先生が特別なだけであるから仕方ない。

「そうだ、お菓子があるんですが」
「え!ほんと?」
「食べますか?」
「うん!あと何度も言ってるけど敬語とかしなくていいしー」
「…流石にそれは」
「むう、昔はあんなに」
「…昔の話はやめてくれ」

悪いが思い出したくもない、と付け足してまいう棒を差し出せば先生の目が輝いて「ありがとー。あと敬語無い方が赤ちんっぽいしー」と言いながらまいう棒を頬張る。昔の話を出されるとどうも弱い。僕と先生は昔ながらの付き合い、というべきなのか。先生、……敦さんが中学のころからずっと一緒にいる。昔の僕はとても敦さんに何かしらありえない事を言っていたような気がする。

「赤ちん昔俺にぷろぽーず?してきたよねえ」
「!敦!!」
「わっ、だってほんとの事じゃん〜。昔ははあ?とか思ってたけど今思ったら赤ちん可愛かったなあー」
「……敦、いい加減にしてくれ…恥ずかしくて死にそうだ」
「へへ」

もう食べ終わったのか袋をぐしゃぐしゃにしてゴミ箱に投げていた。ああ、昔の僕をハサミで八つ裂きにしたい。それくらいには黒歴史と化していたのだ。「赤ちん、やっと名前で呼んでくれたあ」そこでは、とした。しまった、僕としたことが。中学を卒業して、高校の入学式で初めて敦が先生だという事が分かった。中学を卒業する前に敦とはもう会わないと決めていたのに、思いもよらない再会にひどく驚いたのを覚えている。避けていた、というのも僕のこの胸の中にぐるぐると渦巻く普通とは違う敦に対する感情が原因だったのだが。こうして結局担任にまでなってしまって、僕の決意は儚くも崩れ去ってしまったのだが。

「俺、寂しかったんだよー?急に会いに来ないなって思ったら引っ越しちゃうし。メアドも番号も変えて。俺赤ちんに嫌われたんだーって思ったらすっげー悲しくなったし。そこから俺もなんだかんだあって引っ越して、先生になって退屈だなーって思ってたら赤ちんが入学してくるし。俺あの時すごい嬉しかった」
「…そうか」
「今も、また昔みたいに敦ってよんだり、敬語もなくなってすっげーうれしい。前髪は何でか短くなってるけど」

さらりと僕の前髪を撫でるように触れて何が楽しいのか敦の表情は微笑んでいた。それにとても胸が痛んだ。僕は昔みたいにあなたを純粋な目でなんて見ていないんだ、と言ってやりたかった。そんな僕と正反対に敦はとても綺麗で、純粋であるからとても胸が痛む。前髪だって一種の決意で切ったものだ。そんな決意がこんな敦の一言一言で全て崩れ去ってしまいそうになるんだ。何て僕は滑稽なんだろう。

「敦」

がたりと立ち上がり、だらしなく伸びている腕を引っ張りそれに口付ける。敦は僕の行動に吃驚している様子だったがすぐにそれを離して何事も無かったように席に座った。またボールペンを握って日誌を書く。まだ敦は唖然としているようだが、僕も正直何故あんな事をしたのかよく理解が出来ない。ただ頭はやけに冷静だった。敦ならばあれの意味など深く考えないし意味など知らないだろう。若干悔しいな、と思う自分がとても汚く思えてしまう。若干悩んでいるような敦を横目で見やり日誌をぱたりと閉じた。「じゃあ、僕は帰るよ」とカバンを取って立ち上がる。逃げると思われてもいい、この空気だけは耐えられないのだ。

「あのさ赤ち」
「また明日」
「あ、うん」

がらり、教室のドアを開けて出て行く際に「ごめん、敦」そう呟いたのは果たして敦の為なのか、僕自身の為なのか。もう僕には分からなくなっていた。


恋慕


赤ちんが、俺の腕にちゅーをした。おれ、さっちんからこの間「ムッくんきいてきいて!キスする所によって意味があるんだって!」なんて、言って来た時の事を思い出した。俺、半分くらい聞き流してたんだけど腕って恋慕って意味じゃなかった?俺のききまちがい?それはすごくあり得ることだけど。でも赤ちんって恥ずかしいと耳がすっごい赤くなるんだよね。…そういうことなのかなあ。あ、どーしよ俺の顔まで赤くなってきた。やばい。


121018

×
- ナノ -