※紫原が下品

初めて口紅というものを塗ってみた。と、言っても黄瀬ちんからもらったものだけど。塗れと何度も何度もしつこく言うため、仕方なく塗ったが驚く程似合わない。いや、似合わない以前に薄すぎて気づかれない事の方が多いだろう。(やっぱりけそ、)ティッシュを手にとったところで「紫原ー!集合、あと来てないのあなただけよー!」うげ、早く行かないと。手にとったティッシュは丸めてゴミ箱に捨てた。やっぱり口紅の件は気付かれてなかったっぽい(まあ皆が俺に関心がないだけだとおもうけど)どうでもいいや、別にそれについてどうこう思う事はない。そう思いながら精一杯練習をした。バスケは嫌いなのに。



「紫原っちー!」

今日は黄瀬ちんかあ。前にストーカー被害にあったのと同時にキセキの誰かがこうやって紫原を家まで送っていってくれる。そんな事しなくてもいいのに、と抗議もした事はあるがそれは赤ちんの一言で静かにかき消された。それで渋々まあ、了承はした。いつも通りまいう棒を加えて歩き出すと黄瀬ちんが後ろをついてくる。

「紫原っち待ってくださいよー」
「ていうか黄瀬ちん今日仕事って言ってなかった?」
「まあ、そうなんスけど。ちょっとぐらいなら大丈夫ッスから」
「だったら行っていいよー。別に俺一人でも大丈夫だし」
「駄目ッスよ。紫原っちは女の子なんスから」

オンナノコ。そう自分を言ってくれた人に会うのは久々だ。この身長のせいもあってか、胸がなければお前は男みたいだなと言われる事が多い。そんな自分がストーカー被害に合うなんて皆も思いもしなかったのであの時は怒られた。でもその日から一部は俺をオンナノコとして扱ってくれるようになった。黄瀬ちんがその一人だ。今日の口紅も黄瀬ちんが「紫原っち、本当はすっごく可愛い女の子なんスから口紅くらい塗らないッスか?」と言われたのが始まりだ。そこから口紅を5つぐらい出してきて一番シンプルそうなコレを選んだ。その結果口紅を塗ったのか塗らなかったのかすらわかられていないのだが、全然気にしてないというかむしろよかった。

「あ、紫原っち口紅塗ったんスね」

…流石モデルというべきなのか、やはりこういう部類に敏感なのか。「一応もったいなくて塗っただけだし」半分は本当だ。あとの半分は、「似合ってるッスよ」馬鹿じゃねーの。思わずまいう棒を吹き出しそうになった。どうも黄瀬ちんのオンナノコ扱いは慣れない。

「いいよ、世辞なんて」
「世辞じゃないッスよ。紫原っちはすごく可愛いんスよ。その色も紫原っちにピッタリ」

ね?とわざとらしく顔を覗き込んでくる黄瀬ちんの脇腹を殴ってやると黄瀬ちんはぐはっとわざとらしく脇腹を抑えた。ざまあみろ、ってまいう棒を食べながら歩くスピードがはやくなる。黄瀬ちんのばか。顔があつい、なにこれ。黄瀬ちんのせいだ黄瀬ちんのちんこもげろ。

「ヒドイッスよ紫原っち…!」
「黄瀬ちんがばかな事言うからだし」
「あ、照れてるんスか?紫原っちかーわーい、」

い、が発音される前に黄瀬ちんはそのまま固まった。その理由がよく分からなくて俺より若干高い黄瀬ちんの顔を見上げたのだが、黄瀬ちんが見事に固まっていた。「…紫原っち顔真っ赤ッス」いやいやそれ黄瀬ちんじゃん馬鹿じゃないの。俺別に顔真っ赤になんてなってねーしおかしーし。ちょっと顔があついだけだしばかじゃねーの。

「なんていうか、紫原っちほんとに女の子なんスね」
「はあ?黄瀬ちん何なの、」
「割と本気で、可愛いッス」

は、意味わかんない。とにかくはやく帰ってシャワーあびてお菓子食って寝よう、そう決めた途端に黄瀬ちんがほっぺにちゅーをした。意味わかんない。黄瀬ちんにせくはらされた。意味わかんない。ぱくぱくと魚みたいに何も言えずにいたら黄瀬ちんが「なんか、ときめいちゃったッス」やっぱり黄瀬ちんは黒ちんが言った通りしゃららってた。よくわかんない、眩しすぎ。



「(あ〜〜!!何なんスか、誰ッスか紫原っちに口紅なんか渡したの、俺ッスよ!そうッス俺だよ!なんか外暗いし紫原っち怖くないように明るくしてたら紫原っち、いや可愛かったのは本当にそう思ってたし紫原っちちょうかわいいし、そうじゃないッス。なんか紫原っちの顔見たら顔赤いし口紅のせいなのか唇がつやつやしてて色っぽいし、あああもう紫原っちほんと)」

「すきッスよおおおおお!!」
「うるせえ!!」


121016

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