アツシが練習中に倒れた。アツシは確かに朝からぼーっとしていたしお菓子もあまり食べなかった。思えばこの時に気付くべきだったんだ。自分の不甲斐無さに溜息が出る。練習中に2mの巨体が倒れれば注目も集まるわけで、その中で俺は急いでアツシの元へ掛け寄った時には苦しそうに息をしながら体は熱かった。しかし2mの巨体を綺麗に一人で運べるわけでもなく、岡村さんと一緒に保健室へ運んだのだが、キャプテンというのもありすぐに出て行ってしまう。勿論俺は残ってアツシを見ます、と伝えた。バスケも大事だが今はアツシの方が大事だ。未だに息苦しそうにしているアツシに胸が痛む。とりあえず熱があるという事で濡れたタオルを額にかけておいた。薬も飲ませようとしたのだが起こそうとするといやいやと首を振って嫌がる。困った、と思っていると何かを言っているように見える。小さくて聞きづらいため「アツシ、どうした?」と問いかけるとはっきり聞こえるように「あかちん」と言った。その言葉に思考が停止する、赤ちんとは確かアツシがよく言っているキセキの世代のキャプテンではなかっただろうか。ぴたりと止まった思考を溶かすようにアツシが「赤ちん、赤ちん」と縋るように俺のセーター掴んだ。(ああ、俺には見せない顔だ)

「アツシ」
「赤ちん、いかないで」
「…どこにも行かないよ」

俺と赤司くんと間違えているのか、そう理解して言葉でそう言ったものの心では冷めた気持ちでいた。俺は今顔も知らない、名ばかり知っている赤司に嫉妬をしている。(妬ましいな)困った、いつもの表情が崩れそうだ。しかし今のアツシに俺の表情なんて見えていないんだろう。アツシは今俺を見ているんじゃなくて赤司を見ているんだから。

「アツシ」

先程アツシに飲ませる為に用意した水と薬を口に含んだ。未だにセーターを離さないアツシの口を無理やり開いて俺のそれと重ねると、流し込まれた薬をごくりと飲み込んだ。飲み込んだ事が分かったがそれでも離れない俺にアツシは息苦しくなったのかぐいぐいと肩を押される。それを理解してアツシと離れるとぼーっとしていた頭が覚めたのか「……むろちん?」と呟いた。確かにアツシは俺を見ているはずなのにその目がとても不安に満ちていて、俺が今どんな表情をしているのかとても気になるよ。


哀絶


(121015:箱庭)

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