赤ちん、俺赤ちんに会えた事が今まで生きてきた中で、一番幸せだったよ


急に何を言い出すんだ、と彼女に言えば彼女はいつものように笑ってまた赤ちんがすきなだけーと間抜けた声で言った。愛おしくて彼女の唇に自分のそれを重ねるとまた嬉しそうに笑うのだ。そんな日々が幸せで、彼女はまた「幸せすぎて、しんじゃうかも」と呟いた事に俺もそうだな、と返す。俺は、彼女の濡れた頬に気付く事は無かった。


次の日、彼女は死んだ。

部室で、ただ一人首を吊って死んでしまった。俺たちが見つけて、急いで降ろしたが既に息はなく、その体は冷たくて触れる事すらも出来なかったのだ、俺は。ただ目の前の光景がまるで他人事のように過ぎて行き、周りの声は聞こえているのに脳内にまでは届かなくて。桃井が泣き叫んでいる、緑間はあんなに大事にしていたラッキーアイテムすら地に捨てて目を見開いた。黄瀬や青峰は紫原を降ろしてから黄瀬は泣いていた。青峰は何か叫んでいる。黒子は声を上げずに泣いて震えていた。俺は、何もできなかった。周りで誰もかも騒いでいるのに、警察も救急車も来て、親まで駆けつけてきて。紫原が冷たい体のままどこかに連れて行かれてしまうのも俺はただ周りの光景として見ていた。夢だと、思った。


「…赤司くん」
「…」
「皆、行っちゃいましたよ」

いつの間にか周りは誰も居なく、ただ静かな体育館に一人座っていた。黒子が居るのは分かるのに、話しかけてきているというのは分かるのに喉からは何も出ない。ただ俺は息を吸うだけだ。それを察した黒子は何も言わずただ一言「紫原さんは自殺、らしいです」と。その言葉に俺は信じられなかった、気づいた時にはするりと喉から出ている。

「…そんなはず、ないんだ」
「赤司くん、」
「そんなはずあるわけないんだ、ありえないんだ、昨日は一緒に笑っていたんだ幸せだなって、言っていたんだ。あいつは、笑って、」

しんじゃう、かも。昨日の言葉を思い出してはっとする。しんじゃうかも、彼女はそう言っていた。笑っていた、笑っていたはずなんだ。なのに違和感があったのを何故今更気づくんだ、あいつは笑っていたか?違う、泣いていたんだ。泣いていたのに気づかずに俺は一人幸せだと、思い込んで、

「…むらさき、ばら」
「赤司くん、…彼女は、クラスの女子からいじめを受けていたそうなんです」
「…」
「それで…一昨日、その女子に頼まれた男の人達、が」

聞きたくなかった、なのにその言葉は今までの言葉よりも簡単に脳内に入ってくる。殺してやりたいと思った。思ってすぐにどうやって殺してやろうと考えたが黒子が「物騒な事をするのは、望んでないと思います紫原さんは」と俺に話を続けた。それでも俺は許せないと言った俺に黒子は静かに紙きれを差し出す。目線だけそれに注目させると黒子がまた口を開いた。

「紫原さんの、遺書です」
「…紫原が?」
「彼女の鞄に入っていたんです」

息がつまるような思いだった。それを見たいと思う反面、見たくないと、認めたくないと思う気持ちもある。その紙を掴もうとする手が震えて情けないと、紫原がここにいたら笑われてしまうだろうか、震える手で掴んだ紙を見つめて思う。苦しい、一呼吸してから恐る恐るとその内容を見た。

「…紫、原」

情けない、涙が止まらなかった。涙を流したのはいつぶりだろうか、止め方が分からず、見なれた紫原の字が書いてあるそれを握りしめて泣いた。紫原らしく、シンプルな内容。それが俺を現実に引き戻しながらしっかりと紫原が居ないという事を実感させられる。好きだともっと言えばよかった、お菓子をもっと与えておけばよかった、もっと一緒にいればよかった。いっそ俺も一緒に連れて逝ってくれればよかった。お前に会えた事が俺も一番の幸せだったんだ。





(赤ちんごめんね。俺赤ちんが好きだから、幸せすぎて死んじゃった。ずっとだいすき。だから大丈夫だよ)






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -