「あの、この資料なんですけど、藤原物産の商品一覧。」

「ああ。これか、これがどうした?」

「あの、すっごい大量にあるから何でかと思ったんですけど、これ、結構昔の資料まであります。毎年出している資料なので、商品被っていますよ。」

「あん?」

土方さんが怪訝そうな顔で差し出された資料を受け取って中身を見始めた。

「これだけじゃ分からねえ。」

「この年号、これは四年前のです。多分、みんなが持っている資料も年号が違うだけで、結局同じなんじゃないでしょうか?」

「それで、お前たちはこれで何をしてるんだ?」

「え・・・?何って、データに商品登録を・・・。」

「誰の指図だ?」

「誰って、土方部長じゃないんですか?」

お互いが顔を見合わせて眉間に皺を寄せて・・・、うわ、土方部長とこんな表情のやり取りをする日が来るなんて・・・、私もいっぱしの社会人になったものだ・・・。

「俺は、最新の商品の登録をしろって言ったんだぞ。」

「え・・・?」

「そこのダンボールん中から資料持っていって入力しろって、総司に言ったはずだが・・・・・・。」

「あは・・・。」

「あは?」

「あははっ、ま、まさか、そんな・・・ねえ、沖田さんに限って、そんなミスするなんて思えない・・・んですけど・・・。」

「ミスじゃねえなら、新手の嫌がらせだな。」

土方さんがバサリとデスクの上に資料を投げ捨てて、椅子の背に身体を預けて足を組んだ。

目が据わってます、こ、怖いです・・・。

「総司を呼んで来い。それから、今まで打ち込んでもらって悪いが・・・、最新号だけで十分だ、今から最新号以外のデータ、削除してくれ。」

なんですってーーーーーー!!!!!!

き、き、聞き捨てならないんですけど!

どどど、どうゆう事ですか!今までの作業は全て、全て無駄!?

私の心境を顔から悟ったのか、流石に土方部長が申し訳なさそうな顔をして頬をぽり・・・と掻いた。

「総司が・・・悪かったな。まぁ、ゆっくりで良い。まだ売り出すには日があるから、通常業務もあるんだろ、そっちを優先してくれ。」

謝った!あの土方部長が謝ったー!!

けど、ときめかないです!ごめんなさい、いつもなら三時の給湯室ネタとしてほくほく持ち帰るんだけど、今は、今日だけは、ただただ悲しいです!

思い切り肩を落として呆然と土方部長を見つめ続けて、動く事が出来ない私の肩が、ぐらりと揺れた。

「水城ちゃん、どうしたの?待ってても来ないから心配で迎えに来たんだけど。土方さんに酷い事言われちゃった?それとも、口説かれちゃった?ダメだよ、水城ちゃんは僕のものなんだから。」

くすり・・・と、耳に息がかかって、私は別の意味で全身から力が抜けそうになった。

「何くだらねえ事言ってやがる。そいつが放心してるのはてめえのせいだ。」

「へえ。僕の事が好き過ぎて、土方さんと二人きりの空間に我慢が出来なくて放心しちゃったんだね、可哀想。」

「わわっ!!?」

脱力した身体がふわりと温かな腕に包まれて、頭の上に、あ、あ、あ、顎がっ!沖田さんの顎がー!!

何、サプライズ!?会社を挙げてのサプライズパーティー突入!?

私の誕生日だからって、まると久雨が密かに沖田さんにお願いしてくれたとか??って、あの二人が沖田さんにそんなお願いをする勇気がないことは重々承知しているからこれはまさかじゃあ夢?夢ー!?

「水城ちゃん、放心しているところ悪いけど、夢じゃないからね。」

エスパー!!!

「てめえら、いちゃつくのは後にしてくれ。総司、お前そこのダンボールの資料から最新号の商品を登録しろって、俺は言ったはずだが?」

「・・・ああ、それで放心してたんだ、水城ちゃん。」

「そ・・・っ、そうです。」

あぁ、声が裏返るかと思った。

まると同じ過ちを犯さなくて済んだ。

まる、ごめんね、私はあなたの経験を元に、先を行きます!

「それが、どうしてダンボールの資料全部登録してるんだ?」

「何?」

「お前の部所、全員で頑張って全ての資料を登録してくれてんだとよ。何でだ?俺は最新号だと、伝えたはずだぞ。」

「うん、聞いたよ。」

「なら、何でそれが部所内に伝わってねえんだよ!!」

「・・・言わなかった?」

沖田さんが笑顔のまま、しかも私の顔を覗き込むように背後から!見てきてちちちちち近い、近いです、い、息が!!あ、私緊張で息が臭くなってたりしたらもう死ぬるっ!

思い切り首を横に振ろうとして、そうすると髪が沖田さんに当たることに思い当たって、二度ゆっくりと慎重に首を振った。

「そっか、最近みんなが何でそんなに土方さんみたいな形相で必至に仕事してるのかと思ってたら・・・、言わなかったんだ、僕。そっかー、ごめんね。」

「いえ、大丈夫ですっ!」

「大丈夫じゃねえだろうが!お前が気づかなかったらどうなってたか!!迷惑かけられて、何で即座に大丈夫なんて言ってやがる!しっかりと総司に文句を言え!!」

そ、それは条件反射と言うか、そんな可愛らしくごめんねなんて言われたら頷くしかないって言うか・・・・・・。

でも、土方部長は怖い・・・。

「土方さん、水城ちゃんを脅さないでくれませんか?水城ちゃんは僕の為を思ってくれてる可愛い子なんだから。」

かかかか!!?ハイ、ワタシハカワイイコデス!

「総司、始末書も提出しろ。大体、前回のガラスを割ったのだって始末書もんだぞ、経緯が経緯だったから報告書にしてやったってのに・・・。」

「はいはい、それはもう耳にタコです。さっさと部所のみんなに仕事を止めるように言わなきゃいけないんで、もう行きます。」

土方さんの返事なんか聞かずに、私を抱きしめたまま方向を転換させられて、私たちは土方部長の奥の間を出た。

カチンコチンの私と、それを楽しそうに見守っているのだろう沖田さんの、社内にあるまじき抱きしめられながらの歩行に、みんなの視線が痛い・・・。

あ、のゆ先輩が目を丸くしてこっちを見て・・・あ、お、親指立てないで下さい、ば、バレますからっ、私が沖田さんを好きだって!!

あぁ、そんな暖かい眼差し、今はめちゃくちゃ不要ですってばっ!!


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