僕と一緒
やばい、忙しい、補給が出来ない・・・。
パソコンを前にして、私の眉間にはきっと深い皺が三本も刻まれている事だろう。
だめだ、これじゃあ土方部長になっちゃう!
そんなの可愛くないんだからっ!
沖田さんに見せられない!
って、だからその沖田さんが朝来たっきり席を外していて居ないんだってば!!
どこ、どこに行ってしまったの、私のエネルギー!!
バチン!!
と、エラく強い音でエンターキーが押されて、私が睨めっこをしていた資料一冊分まるまる、パソコンへと入力が終わった事を告げた。
けれど、うんざりとしながら私は自分のデスクに詰まれた資料を見つめた。
半分は終わったのだろうけれど、未だにこの量・・・。
誰のせい・・・とは、口が裂けても言えないんですけど・・・。
「全く、沖田のせいでとんでもない目にあってるよな、俺たち・・・。」
「本当だよなー。土方部長の事からかったりするから、こんなに大量に仕事が回されて・・・。で、当の沖田はどうしたんだよ・・・。」
先輩、先輩、その頭カチ割ってイイデスカ??
私の沖田さんに向かって、何てこと言ってくれてるんですか!
そうだ、そうなんだよ水城!
これは沖田さんが私へと与えた試練、試練だからっ!
だからこの忙しさも何とか乗り切れるけれど、それはあなたが視界の端に見えてこそなんですー!!
どこですかー、沖田さんーーー!!!
私は、一旦データの保存をして、更にバックアップをとった上で、山積みの資料の中から一つ束を取ると、広げて目を走らせ始めた。
大量の新商品の登録。
仕方が無い、先日藤原物産との取引を成立させたまみ先輩のお陰です。
だけど、これってうちの部所だけで作業する量じゃ無いのは確か。
だから、背後で沖田さんへの悪口を言っている先輩たちの文句も分かるんだけど・・・。
でも、私の聖域、沖田さんへの罵詈雑言は許しません!
しっかし、藤原物産って、本当に大手だったんだな・・・。
これだけの新商品、普通一つの会社と取引が成立したからって、無い無い。
・ ・・・・・ん?
あれ?
おか・・・しい・・・?
私は手元の資料を何ページも捲って中身を確認して、勢い良く椅子から立ち上がった。
「ど、どうした?」
隣の席の同僚が驚いたような顔をして声をかけてくるけれど、それは無視して、その資料を持って走るように部屋から出た私は、土方部長の居る部屋へと飛び込んだ。
「うわっ!ど、どうしたの、水城ちゃん!!?」
「ご、ごめんなさいのゆ先輩!ちょっと、土方部長はどこですか!?」
「奥に居るけど、鬼の形相で沖田さんを説教中・・・。」
「おおお沖田さんもここに!?」
なんたる幸運!
私の栄養はここに居ましたか!!
「す、すぐ行きます!!」
「あ、ちょっと待って。」
顔からつんのめる様に奥へと行こうとした私を、のゆ先輩が引き止めた。
何で邪魔するんですか!!急いでいるんです、私エネルギー不足なんです!!
「水城ちゃん、眉間の皺伸ばして、スマイルで行こうか。」
私の眉間を指で撫で撫でしながら微笑を向けてくるのゆ先輩。
だけど、のゆ先輩、あなたのその余裕が今は羨ましすぎて、急いでいる私からしてみれば、ちょっとウザいやいやいやいや、なんでもないでーす。
「有難うございます。じゃあ、行ってきます。」
とりあえず、一度落ち着く時間が出来たことで、少しだけクールダウン出来た私は、顔から力を抜いて土方部長と沖田さんが居る奥の間へと入っていった。
「あの、土方部長・・・。」
「ああ?何だ、今忙しいんだよ。」
「水城ちゃん、ちょうど良いところに来たね。もう土方さんからの話は終わるから、一緒に部所に戻ろう。」
「あ、はい、ぜひ!」
「はあ?総司!まだ話は終わっちゃいねえ!」
「土方さんの話は長すぎて、僕もう飽きちゃったんですよね。そんなに話を聞いて欲しいなら、さくっと終わらせてくれません?」
「だからさくっと話してやってんだろうが!この報告書は認めないから書き直せって、何度もそう言ってんだろう!」
「だから、書き方を教えてくれれば書きますって、言ってます。」
「ここを書き直せ、とりあえず報告書というよりも懺悔書と言う感じでまずは謝れって何度も言ってるはずだが!」
「はいはい、すいません。」
「口じゃなくてここに書け!」
「嫌ですよ。僕が謝った言質をとられるなんて、しかもそれが土方さんだなんて、絶対に嫌ですね。」
「最終的には近藤さんの下に行くんだっつってんだろうが!」
「例え近藤さんのところに行く書類だろうと、土方さんには見られたくありません。」
「見られたくねえだぁ!?だったら夜中の会社の中で、酒飲んで大騒ぎして電球と窓割った金額、全部給料から天引きだ!」
「謝ればいいんですね、分かりました。」
早っ!変わり身早いです、沖田さん!けど、そこも素敵です!
ところで沖田さん、夜中の社内で何してて電球と窓ガラスを割るんですか・・・?
相変わらず、予想の外を行く人だなぁ・・・。
あぁ、でも、これで話が終わるのかな?
沖田さんと一緒に部所に帰れるんだ、うわ、何このご褒美、るんるんだ!
沖田さんが土方部長から報告書を受け取ると、立ち上がって私に視線を向けてにこりと微笑んだ。
やばい・・・、全身から鳥肌が立った、凄い、かっこいい・・・!!
思わずポーッと見とれてしまった私へと、不機嫌そうな声がかかった。
しかも、思い切り邪魔をする言葉・・・。
「で、お前は何の用だ?さっさと用件を言え。」
くっ・・・、用件なんか何も無いです、帰ります・・・と言いたい。
だけど、このくそ忙しい状況から脱するためには・・・、だって、今夜は私の誕生会!まると久雨が祝ってくれるのよーー!!!
「じゃあ、水城ちゃん。後でね。」
「あ、はい。」
ついていきたい、ついていきたい、ついていきたい。
私、今、発狂しそうです。
軽やかに去っていく沖田さんを名残惜しそうに見つめている私に、土方部長のデスクからトントントントンと小刻みに何かが叩かれる音がしてきた。
指でデスクを叩いてる・・・、あぁ、苛立っている・・・。
こんな時に話したい話では無いなぁ〜・・・。
「早くしろ。」
「はいぃ!!」
全身が緊張で固まった私は、手に持っていた資料をぎくしゃくと音がしそうなほどにぎこちなく土方部長へと差し出した。
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