水城の場合

ありえないんですけど・・・、何で最初に営業部?

私、システム希望してたのに・・・。

ま、全部署回るって聞いたから、仕方がないと思うけどさ。

ブツブツと文句を言いつつ、与えられたデスクに座って、ボーっと。

そうなの、ボーっとなの。

何でって?

とりあえず座っててって言われたから!!

仕事しに来てるのに!何で座ってなきゃいけないのぉ!

隣にいる同期は、一人だけ。

そう、もう一人は見事に午前中寝こけてて、午後、会議室に戻ったバカです。

いや、バカなんて言っちゃいけないよね、そうだよね。

でも、バカだよね。

はぁ・・・。

隣の同期は、緊張感も緩和されてきたらしく、足を組んで椅子の背にもたれてダラ〜っとしている。

営業部だけあって、社員は出払っている。

内勤の数名は居るけれど、電話に出たり、何か打ち込んでいたり。

・・・何を打ち込んでいるんだろう?

それを知りたいけれど、座っててって、座ってなきゃかな?

あ〜ん、どうすれば良いのぉ?

と、電話がかかってきた。

内勤全員電話応対中。

出るか?出るしかないな、隣の同期はワタワタした後、こっちを見てるし・・・、こいつも使えないな・・・。

「はい、薄桜会社です。」

『・・・と、誰だ?あー、俺、藤堂だけど、そこに山南さん居る?』

「・・・藤堂様ですね。山南・・・は、ただいま席を外しておりまして。」

誰だ?って・・・、藤堂?お前も誰だ・・・。

『そっか、あーそっかそっか、午後からは居るって聞いてたけど、居ないってことはあれか。分かった、もう少ししたらかけ直すから。サンキュー。』

「はい。かしこまりまし・・・切れたし。」

受話器を置いて、どっと心臓が高鳴りだした。

緊張した・・・、たぶんあの砕けた感じだと、社員の誰かなのかな、うわもう、ヤバかった・・・。

「あー、手が今頃震えてきたし・・・。」

とにかく、ここはほうれんそうだ。

意を決して、席を立つと、電話を終えた人の元へと歩み寄った。

「あの、今藤堂さんという方から電話がありました。」

「藤堂?ああ、なんだって?」

「山南課長に用事だったらしく、今不在だと告げたら、時間をおいてかけ直すと言って、切れました。」

「ああ、分かった。ご苦労さん。」

そう言うと、パソコンに向かう先輩は、そうだ、と付け足した。

「電話に出るときは、会社名の後に自分の名前を名乗ってね。それから、先方の名前、大体会社名の後に名前名乗るから、忘れないようにメモすることを覚えてね。」

「はい、分かりました。」

そういう事は、ここに来てすぐに言ってくださいよ・・・。

そう心の中で毒づきつつ、先輩の仕事をこっそりと盗み見する。

何をしているんだろう・・・?

「あの、何か手伝える仕事、ありませんか?」

「あー、そうだな・・・。報告書の打ち込みは教わった?」

「いえ、報告書の書き方は教わりましたけど。」

「あぁ、そっか。内勤はまだ教えていないのか。んじゃ、いいや。何もない。座ってて。」

「・・・・・・分かりました。」

お前が教えれば良いんじゃないのか!?

と、心の中で再び突っ込む。

なに、この部署、どうなってるの?

私、座ってるために会社に入ったんじゃないんだけど・・・。

同期は、あ、舟漕ぎ出したし・・・。

はぁ・・・、ちょっと他の様子見とか、していいかなぁ・・・。」

「あの、お手洗い、行ってきても良いですか?」

「なに、休憩中に行かなかったの?」

「行ったんですけど、・・・緊張しているせいか・・・」

「あぁ、緊張すると近くなるよな。良いよ、行っても。別に休憩中以外行っちゃいけないことは無いから。」

無いのかよ!

この先輩、はずれだな。

「行ってきます。」

とは言え、ここを離れられるのは有難いので、トイレに行ってきます〜。

ビルのワンフロアがこの会社なので、このフロアを出なければ問題無いだろう。

トイレに行く前に、それぞれの部署を軽く覗いてみたいけれど、扉がしっかり閉じてたりする、う〜ん、残念・・・。

と、よそ見しながら歩いていた水城の前に、スラリと長い手が突然現れて!

「っだ!!いた・・・なに?」

「あれ?」

後ろによろけた水城を、その長い手が捕まえた、というか掴んだ、というか、引き寄せられたと言うか、そのままの勢いで背中に柔らかな感触が・・・

「ぶつかっちゃった?」

「・・・はい」

ええ、思い切りぶつかりましたが、今のこの状況は何?

え、誰?

「そっか。悪かったね。」

「いえ、あの、はい。」

腕に解放されて振り向くと、ネクタイを緩く結んで、ジャケットも着ていないラフな格好の・・・イケメンじゅるり!!

けれど、その瞳はどこか硬質で、笑っているのに笑っていないような・・・。

山南課長の笑っていない笑顔とはまた別次元のような。

「君、新入社員だよね。」

「はい。」

「こんな時間に散歩?」

「いえっ!と、トイレに・・・。」

「ふぅん、トイレはあっちだよ。」

来た方を指さされて、私は気まずい沈黙で答えた。

「新人なのに、仕事をボイコット?このまま辞めて帰るの?」

「いえっ、違います!」

その時、私の目には救いが飛び込んできた。

彼が出てきた場所の名前・・・

「給湯室で、お茶でも出そうかと思って」

「トイレは?」

「行ってきました!」

そう、もともと別にトイレに行きたかった訳ではないし、問題なし!

「そう。じゃあ・・・、どうぞ。」

彼が退いてくれた給湯室へと入ると・・

「・・・え!?な、え?何?」

ドアが閉められた・・・。

「で、電気、どこ!?」

しかも、電気点いてない、窓無い、真っ暗。

「あ、開かない!」

そして、ドア、外から重石されてる・・・ぽい?

とりあえず、辺りの壁をぺちぺちと叩いて確認しながら電気のスイッチを探すと、指先に知ったような感触を確認して、押してみる。

が・・・

「点かない〜!?」

慌てて再びドアを、今度は体重をかけて押し開けると、簡単に開いて、体ごと飛び出てしまった。

そして、その勢いのまま今度は長い足に躓いて・・・、こけた。

「・・・・・・」

あまりのショックに、茫然。

「あ、ごめんね、足が長くて。」

「・・・・・・」

「気を悪くした?」

「・・・・・・い、いえ。」

「そ。良かった。」

よくない・・・、よくないー!!

イケメンだから油断した、この人、性格悪いかもしれない!!

「ちなみに、電気はそこだから。じゃ、頑張って。」

ひらりと手を振って、去って行った部屋は・・・システム部!!

あ、あんな人がいるなんて・・・

て、頑張ってってなに?

後ろを振り向くと、蛍光灯が二本冷蔵庫脇に立てかけてあった。

天井を見ると、蛍光灯が刺さっていない。

もしかして、蛍光灯の交換の最中だったのかな、邪魔しちゃった?

・・・あれ?体よく押し付けられた?

しかし、これも仕事だ、うん、何もしないでボーっとしてるより良い。

そして、体を動かすのは好き!

水城は、蛍光灯を持つと、辺りを見回した。

てか、この蛍光灯ほんのり暖かいんだけど・・・、端も少し黒ずんでるし、使用後なのかな?

新しい蛍光灯はどこにあるんだろう・・・。

とりあえず、ごみになるであろう蛍光灯を二本担いで営業部に戻ると、山南課長が戻っていたらしく、水城の姿を見て、首を傾げた。

「ええと、水城くん、それは?」

「あの、給湯室の電気が切れていたらしいので。」

「トイレの電気ではなく?」

トイレに行ったのは伝わっているらしい。

「トイレの後、お茶でも淹れようかと思ったんですけど・・・。」

嘘じゃない、結果的にでもお茶を淹れようと思ったのは本当だ。

「電気が切れていたんですね。」

「はい。新しい電気、どこにありますか?」

「本当に切れていましたか?」

「・・・え?」

山南課長の笑顔が怖い。

さっきの彼とまた違う怖さが・・・

「ねえ、沖田くん?」

え?と思う水城の後ろから、吹き出すような忍び笑いが聞こえてきた。

振り向くのとほぼ同時に、持っていた蛍光灯が奪われる。

「あ〜あ、残念。やっぱり山南さんにはすぐに見抜かれちゃったか。」

さっきの彼!!

「さ、戻しに行こうか。えっと、水城ちゃん。」

私の腕をとり、強引に引っ張りながら営業部から引き離される。

「おやおや、水城くんは今日は営業部ですよ。」

「良いじゃない、どうせ今日は仕事にならないんでしょう、内勤のみんなは仕事を教える気ないし。だったら、うちを手伝ってもらってもいいじゃない。新人三人、使えなくて。水城ちゃんはどうかな。」

「新人なんだから、使えなくて当たり前ですよ。とは言え、まぁ、君が使えないと言うなら、本当なんでしょう。一人でも増えれば気が済むなら、どうぞ。私もこっちにかかりきりになれますから。」

そう言う山南さんの後ろには、寝ていた同期と、ボーっと座っていた同期が、顔を青ざめさせて佇んでいた。

なに・・・いったい・・・。

「さ、水城ちゃん、行こう。ああ、蛍光灯は置いておこうか。」

「沖田くん、蛍光灯はきちんと戻しておいてくださいね。」

「・・・チェッ。じゃあ、僕が抱き上げてあげるから、水城ちゃんが挿してね。」

・・・はい?

ヤバい、違うって、脳内どうした!

抱き上げるとか言われるから、さすって、変換間違いだってば、コラッ!

さっき、性格悪い人だって酷評した私、どこに行った!

「さ、早く行こう。」

腕を引かれながら、高鳴る鼓動に、

あ、堕ちたかも・・・

と、思った水城であった。


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