お昼休憩の後から、私はソワソワしていた。

なんだってこんな日に限って・・・・・・。

流石に、社のパソコンから個人的なメールをするのは憚られたけれど、送った後に削除してしまえば、万事オッケー?

なんて思って、メールをしてから・・・、返事が無い。

誰に何をメールしたのかって?

ふっふっふ。

藤原物産の泰衡社長に宛てて、今日は携帯電話を家に忘れてきてしまいました・・・という、何とも情けないメールです。

社長個人宛のメールアドレスが有って良かった、と思うけれど、これは若干ルール違反のような気がして、とても気が引ける。

それなのにお返事も無い。

今日は社に居ないんじゃないかとか、パソコンに触れる暇が無いほど忙しいんじゃないかとか、色々と考えてしまうけれど・・・。

そもそも、あまり筆まめな人では無いので、こっちからのメールに対して、返事は半分以下。

だから、いつもお返事をしなきゃな、と思わせるような文章構成にしていたんだけど・・・、今日はしくじった。

動揺していて、忘れてきちゃいました・・・としか送らなかった。

そりゃ、相手は読んでいたとしても、パソコンの前で「そうか。」と納得して、閉じてしまったに違いない。

うん、そうだ、きっとそうだ、だって泰衡さんだもの、感情の起伏を人に悟られるのを嫌うような人だもの。

大丈夫。

待ち合わせに遅れなければ良いだけよね。

そう納得させる事数度、私は溜息を吐いて立ち上がった。

先ほどまるちゃんが部屋を出て行った事で、三時になっていた事を知って、私の喉も渇きを訴え始めたのだ。

バッグの中から薄い十五センチ四方の箱を取り出して、私も給湯室へと足を運んだ。

給湯室の中からは、楽しそうな雰囲気の声がもれ聞こえてきていた。

「お疲れ〜。」

声を掛けながら中に入り込むと、まるちゃん、水城ちゃん、久雨ちゃんが笑顔で出迎えてくれた。

「まみさん、お疲れ様です。」

「差し入れ付きだよ。」

箱を見せてから蓋を開ける。

中には可愛らしい形のチョコが並べられている。

ところどころ穴あきなのはご愛嬌ということで。

「わ、まみ先輩有難うございます!」

「嬉しい〜、疲れた脳には甘い物ですよね。」

素直に喜びを表して、早速チョコを食べ始める三人を見て、和む。

あぁ、こうゆう素直な感情表現がたまに欲しくなるのよね・・・。

「はい、まみさん。インスタントですけど。」

まるちゃんが手早くコーヒーを淹れてくれた。

三時の休憩の時は、いつも淹れてもらってしまう。

有り難い後輩だなぁ、としみじみと感心。

「有難う。」

受け取って、自分もコーヒー片手にチョコを頬張る。

「今日は何を盛り上がってたの?」

「昨日、とうとう水城が沖田さんと二人きりのデートをしたんですよ!」

「で、どうだったのか聞いても全然教えてくれなくて・・・。」

「あれは別に、デートじゃないってば!単に、沖田さんが残業のご褒美にラーメンを食べに連れて行ってくれただけで・・・。」

「ラーメン・・・。」

「ラーメンなんだ・・・。」

「初デートでラーメン屋を選ぶって、男としてなってないよね。」

「汁が跳ねたり、啜る音を気にしたり、餃子のニンニク臭とか気にしたり・・・。」

酷評を言う二人に、水城ちゃんの顔が曇った。

「思い切り、美味しいってテンションマックスでズルズル啜っちゃった・・・。しかも、餃子普通に一皿食べちゃったよ・・・。うわ、女としてダメだ・・・。さ、最初はね、そりゃ緊張して喉を通らないよ!って思ってたけどね!でも残業で疲れてたし、お腹空いてたし・・・、ほら、私お腹空くと機嫌悪くなるから、それも我慢してたのに美味しいラーメンなんか一口啜ってごらんよ、そりゃ、テンションマックスにもなるでしょ!?」

「・・・ならないよ。」

「久雨はならないだろうね。私、私はどうだろう・・・、でも、水城ほどテンションマックスでズルズル啜ったり出来ないと思う・・・。」

「ど、どうしよう・・・、嫌われたかも!?それとも、女としてみなくなったとか!?」

可愛い論争に微笑みながら、私の中に一陣の空っ風が吹いた。

いいな・・・・・・って、何で羨ましがる事がある!?

でも、恋人になる前は、こうゆうのも楽しかったよね。

なってしまったら、欲しがりになってしまうものなのかな・・・。

愛情表現を欲しがるなんて、贅沢・・・だよね、特に泰衡さんに関しては・・・。

「まみさん?どうしたんですか、溜息なんか吐いて。」

「何でもないよ。コーヒー飲んでホッと一息だよ。」

「まみ先輩、どうしましょう!?」

「・・・沖田君の場合、そっちの方が喜びそうだけどね。自分が美味しいと思っているものを美味しいと食べてもらえて、嬉しくない男は居ないと思うよ。」

「そ、そうですよね!?大丈夫ですよね!?」

泣きそうな顔ですがり付いてくる水城ちゃんに笑顔で頷き返しながら、少しだけ羨ましさが残ってしまった事を自覚しないではいられなかった。


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