「まるちゃん、最近どう?」

のゆちゃんが話題を切り出すと、まるちゃんが首を傾げた。

「どうって・・・、普段どおりですよ。」

「あー、敬語いいってばぁ。」

シンクに背を預けて、怠そうに手を振ったのゆちゃんに、まるちゃんが戸惑ったような笑顔で頷いた。

「水城ちゃんも、先輩先輩言うから、それ禁止って昨日言ったばっかり。さすがに先輩はなくなったけど、敬語はなかなか無くならないね〜。」

「ああ見えて、水城は真面目だから。その点、私は大丈夫だ。バッチリ敬語なしでいけるよ〜。」

順応するのが早いな。

さすが、うちの課で鍛えられた事はある。

と思うのは、うちの課がちょっと特殊だからである。

企画を主としているうちの課ではあるけれど、結構色んな仕事をしていて、他の課で出来ない事をオールマイティに引き受けている。

臨機応変や順応が苦手な子には厳しい課で有名で、若い女性が生き残っていくには結構厳しかったりする。

けれど、まるちゃんは生き残っているどころか、この頃は一つの仕事をきちんと任せられるくらいまで成長している。

私の跡取り候補ナンバーワンだ。

「まるちゃん、私太った・・・?」

「え?太ってないと思うけど・・・。裸見たこと無いからどうとも言えないけど。」

「裸・・・!!そうか、裸か・・・!だから・・・!」

「まみちゃん・・・?」

「まみさん?」

思わず重要機密を漏らしそうになった口を引き結んで、私は首を振った。

何でも無いよ、何でもね。

秘密なんだもんね。

私にも言えないことなんだもんね。

言わないよ、大丈夫、裸の付き合いがあるからこそ、そんな発言が出たのかもね・・・なんて、そんなこと。

「太ってないと思うよ。ちょっと言いたかっただけなんじゃない?」

「え?のゆちゃん、そんな事言われたの?誰に!?」

「・・・土方部長。」

「・・・・・・セクハラですね・・・。」

部長の名前を出されて、まるちゃんの声が一気にトーンダウンした。

「さて、課長が呼んでいるから行かなくちゃ。」

「あ、私も行きます。探しに行った私がいっしょに帰らないと、おかしいですもんね。」

「うぅ、二人とも部長が怖いから私に親身になってくれないんだ・・・。」

「ち、違うよ。でもほら、仕事しなきゃ、ね。」

うーん、まるちゃん・・・、その動揺は肯定しているのと同じだと思うんだけど・・・。

ま、いっか。

どうせ、この後きっと部長からの謝罪が待っているんだから。

「ほら、のゆちゃんも部長にコーヒー持っていかなきゃ。」

何だかんだ文句を言いつつも、部長のコーヒーはきちんとマシンでドリップしているのゆちゃんへと笑顔を向けて、私はまるちゃんと一緒にコーヒーの残っているカップを片手に給湯室を後にした。

「土方部長って・・・、社員とそんな話するんですね。」

ポツリと言うまるちゃんに、思わず苦笑した。

「そりゃ、部長も人間だから。」

「でも、普通の会話をしていること自体が珍しいのに・・・、のゆちゃんて結構凄い地位に居たんですね。」

「部長の直属の部に属している部下ってだけで、私たちよりは気が知れているんだろうけど・・・。そんな凄い地位だった記憶は無いけど。」

地位で言えば、私の方が上にあたる。

「部長って、元々の部下たち以外とはあまり交流しないのかと思ってました。」

元々、小さな会社だった頃からの部下たち。

沖田君、斎藤君、藤堂君、原田君、永倉君、そして山南課長に井上課長、近藤社長は勿論だけど。

確かに彼らとの仲は特別深いだろうけど。

「そうじゃなくて、周りが怖がって近づかないだけなんじゃないかな・・・。」

「・・・だって、あの迫力・・・。遠くで眺める、観賞用のイケメンですよね。」

観賞用・・・。

「接する機会が増えれば、案外優しいってわかると思うよ。」

思わず笑って答えると、まるちゃんが目を丸くしてこちらをマジマジと見つめてきた。

「のゆちゃんだけじゃなくて、まみさんも凄い・・・。」

「そんな事無いって。すぐに分かるよ。今度から報告書の提出は、まるちゃんに行ってもらおうかな。」

「うあ!?いや、それは、えっと・・・・・・!!」

「決定ね。」

「ぇえ!?」

泣きそうな顔を向けるまるちゃんに、思わず噴出した。


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