まみさんの勢いに乗せられて、思わず自分も耳をペッタリとくっつけて外の音を聞くと・・・。

『いつまで油うってやがる。』

っと、こ、これは土方部長!?

まるで自分が怒られたような気がして、思わず身体が逃げそうになる私を、まみさんが捕まえて口の前に人差し指を当てた。

まみさん・・・、その仕草、私でも惚れそうです。

『普通です、普通!お茶淹れるのにこれくらいの時間はかかりますって。』

のゆちゃん!?

あの部長に口答えしてるよ!

凄い・・・、同じ課に居ると、あんな風に接する度胸でも出来るの!?

『お前、昨日俺の資料いじったよな・・・。』

『資料?あの雑多に積み上げられた紙の山ですよね?掃除しましたよ。』

『どこにやりやがった!?』

『どこって・・・、それ、私のせいですか?』

『いいから答えろ。大事なもんがいっぱい入ってんだよ!』

『だったら、そんな大事なもんのある机に押し倒さなければ良かっ――――』

「ああ、聞こえなくなっちゃった・・・。」

はぁ・・・と、二人で思い溜息を吐いて、ドアから耳を離した。

なんてこと・・・、私の耳には、おし、おし、おししししし・・・・・・!!

「やっぱり、押し倒されてたね。」

「そんなハッキリ言っちゃいます!?」

ドッキン!!

胸が口から飛び出るかと思うほどにビックリです!

まみさんの口から、そんな、そんな・・・っ!!

「久雨ちゃん、私久雨ちゃんより年上だからね。」

いやぁ、そんな大人な発言!!

今誰も線香用意してくれないのにぶっ倒れそう!!

「いいいいえ、でも、別に、大人な意味の押し倒すじゃないかもしれないじゃないですか。」

「そうだね。でも、大人な意味の方が面白そうだよね。」

「そっ・・・それは、勿論!!」

「でも、これはまだ二人だけの内緒ね。」

悪戯っぽい笑みを浮かべて、まみさんが再び口元に人差し指を持って行った。

はぅ、やっぱりまみさんてば美人です。

そりゃ、あの何事にも動じない冷徹社長だと噂の藤原さんが堕ちるわけです。

「さぁて、約束の時間に遅れちゃうといけないから、行かなきゃ。久雨ちゃんも、調子良くなってきたら、戻りなね。」

「あ、はい。さっきの興奮のお陰で、大分気が紛れてきました。」

「良かった。」

「はい。行ってらっしゃい。」

「行ってきます。」

手を振って給湯室から去っていくまみさんを、ドアが閉まるまで見つめ続けてから、私は温くなったお茶を一気に飲み干した。

はぁ、そっか・・・、のゆちゃんは土方部長と・・・、あの怖い部長と・・・・・・。

ん?

付き合ってるの?

それとも、まさか、か、身体だけ強要されて!?

だ、だから秘密ってこと!?

きゃーーー!!!

私ってば、そんな事考えちゃダメ!

まさかまさか、そんな、オフィスラヴでもそれはちょっと私のジャンルじゃ無いのよぉ!!

「久雨!!!」

「キャーーーーー!!!!!!」

「おわぁ!!?」

突然呼びかけられたことに、思わず悲鳴を上げてしまった自分の口を自分で塞いで、私は今、とても居た堪れない気分を、思い切り味わって・・・いた・・・・・・。

あぁ、朝から最悪だとは思っていたけれど・・・、神様、これは何の仕打ちですか・・・?

まさか・・・まさか・・・・・・。

平助君に声をかけられて、悲鳴をあげてしまうなんて・・・・・・。

あぁ、もう、脱力・・・。


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