「いてててててっ・・・。」
スピードに乗って走っていた車からはじき出されて、名前は地面に滑り込んでうつ伏せになった状態で唸った。
何故車からはじき出されたのだろう・・・と、後ろを振り返ってみれば、そこには車など跡形も無く消え去っていた。
否、そこにあるのはカボチャ、そしてころころと丸まって転がってくる二匹のネズミ。
「斎藤、山崎、大丈夫ですか!?」
自分のところまで転がってくるには勢いが足りなくて、足元で止まった二匹は、どうやら目を回しているらしく頭を揺らしている。
「ちぅぅ・・・。」
「チュ・・・〜。」
それでも返事をしてくれるところが可愛いと思ってしまうのは、人間の姿ではなくネズミの姿だからだ。
魔法が解けた・・・。
十二時を回ったと言う事だ。
自分の格好も、掃除婦になっている。
マスク、サングラス、三角巾の三種の神器も揃っている。
そして、何故かオプションのようにモップがついているのはご愛嬌。
って、ご愛嬌とか馬鹿じゃないですか!?
こんなもん、邪魔以外の何物でもありませんよ!
それなのに、思わず手にとって持って帰ってしまうのは、掃除屋で生まれ育ってしまったが故です。
掃除道具は三種の神器と同じく、大事なものです。
汚い家は汚い心の現われです。
と言うことは、シンデレラの家の継母と姉たちは、やはり心が汚いと言う事なのですね。
それを綺麗にしているシンデレラは、心が綺麗。
ほう、掃除婦をしている私も、心が綺麗だと、そういう事ですね。
母にもよく言われましたよ。
いつも心を綺麗にしておきなさいって。
それから、あれもです。
あんたは人前では黙っていなさい。
・・・・・・口を開くと正体ばれるから黙ってなさいとか、どんだけな親ですかっ。
それはそうと・・・、ここはどこですかね?
帰り途中だとは思うんですけど、町中の、どこら辺・・・?
私の家はどっちにあるのでしょうか・・・。
「斎藤、山崎、家の場所は分かりますか?」
訪ねると、二匹が頷いて元来た方へと戻り始めた。
そして、カボチャの前で止まると、二匹で一生懸命持ち上げようとしている。
持ち帰りたいのだろう。
それだけを見ていると、心がほぐれるほどに可愛らしい。
ドブネズミではなくハツカネズミのような可愛らしい姿が、心を和ませてくれる。
名前も引き換えしてカボチャを持ち上げると、二匹が先導してくれた。
大丈夫だろう。
なんたってメルヘンだ。
ネズミについて行っても側溝に連れて行かれたりはしないだろう。
そんなこんなで家まで帰りついた名前は、草臥れた身体をベッドに横たえると、すぐに寝入ってしまった。

翌日、起きてから廊下に出ると、部屋のまん前にゴミがばら撒かれていた。
「朝からこんな嫌がらせをするほどに、子の世界の人間は暇なんですねぇ。私なんか仕事と学校が無い間はゲームや漫画や小説やで忙しいと言うのに。時には録り溜めしておいたアニメを見たりもしなければいけなくて、睡眠時間を削ってばかりだと言うのに。全く、羨ましい限りですよ。」
ぶつくさと文句を言いつつも、習慣となっているからすぐに身体は動き出した。
部屋の中は掃除道具置き場なのではないかと思えるほどに品揃えが充実している。
何故か掃除機があったから使おうかと思ったけれど、コンセントを差すプラグが無いのだから、意味が無い。
この、メルヘンと現実のごっちゃ混ぜの、どこかバランスを欠いた世界に、段々と慣れ始めている自分も嫌だ。
こんな事くらいじゃ反応しないんですよっ!
と、優位に立って見下してしまいそうなオタク根性が悲しい。
本来ならば、その内に城からの遣いがやってくるのだけれど、ガラスの靴を王子に引き渡していないのだから、そんな事にはならない。
だったらどうなるのか・・・?
未だにゲームオーバーを迎えていないのだ。
・・・と、思っていた矢先、下の階から黄色い悲鳴が聞こえてきた。
何事かと階段を半ばまで下りてみると、そこには・・・・・・。
「王子様!一体どうなさったんですか!?」
「こんな汚らしい家にお越しくださるなんて、恐れ多くて・・・。」
「私の事を気に入ってくれたんですか!?」
なんて、黄金のカボチャパンツ王子が、そこに立っていた。
何故・・・、遣いではなく王子が直接来るということもだけれど、ガラスの靴も無いのに何故・・・!!?
「この家の娘が一人、昨夜の舞踏会に来ていないと聞いたが?」
「え?」
不機嫌そうなその声に、永倉の裏声が掠れた。
「娘は三人だと聞いていたが・・・?何故来なかった。」
想像していたよりもゆっくりと喋る第二王子が、気づいて名前の方を振り向いた。
「・・・そやつが、三人目の娘か?」
「・・・いえ、その子はこの家の召使です。」
「召使だろうと、女には違いない。国中の女を集めよと申したはずだが?」
後ろに控えている従者に語りかける第二王子の声は、酷く不満気だ。
「あの、ドレスが無いから行かないと言い出したのはあの子で・・・。」
「そうです、私たちは行こうと言ったのに!」
「王子様の意思に逆らうなんて、とんでもない子ですよねっ!」
・・・そうか、私が知らなかっただけで、誘われていたのか・・・。
半目になって三人を睨む自分の瞳はサングラスで守られているために気づかれていない。
「女、俺の前で顔を隠すとは良い度胸をしている・・・。顔を見せろ。」
この場合、どう考えても「良い度胸」は恐らく良い意味では無いだろう・・・。
苛められっ子体質が危険を伝えてくる。
「い、嫌ですっ!」
苛められっ子体質だと自覚している割に、拒否ははっきりと伝えるほうだ。
だから今までも更に苛められる原因になっていたのだが、そこに屈するだけの可愛らしさが無いがために、いつも痛い目を見る。
「ならば、無理やりにでも顔をさらすだけだ。」
そう言ったが早いか、背後の従者が顔を上げて名前を視野に捕らえた。
腰に剣を差している。
けれど、鎧はつけておらず、白いシャツを焦茶色のピッタリとしたズボンにインしている。
ブーツは馬に乗れるようなデザインで、手には皮手袋・・・。
腰に剣以外の袋を提げていて、少し重そうに沈んでいるけれど・・・。
昨日とは見る明るさも違うし、格好も少しだけ違うけれど・・・・・・。
悔しいかな、名前は沖田に見惚れた・・・。


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