テンション駄々下がり。
何で?
これはゲームなんじゃ・・・。
切ない系のゲームも好きですけど、なんで沖田相手に再びひなさんへ嫉妬をしなければ・・・、いえ、ひなさんへの感情は尊敬だけです。
愛情のままです。
そうじゃなくて・・・、あぁ、ショックだったんですね。
やっぱり、沖田はひなさんが好きなのか・・・と、何故、今になって思い知らされねばいけないのか・・・。
自分は十分すぎるほど沖田狂いになっているのに、沖田は一向に振り向いてくれる気配が無い。
どころか、良いように身体を遊ばれた気がする・・・。
いや、遊ばれたというか、助けてもらっておいてそんな事は・・・。
あぁ、でも今それは関係ない、関係ないはずなのに・・・。
これは、乙女ゲーム!
私が主役!じゃなかったんですか!?
そう言えば、メイドさんがハッピーエンドに・・・。
あれ?私はやっぱり脇役・・・?
舞踏会の会場へと庭から入り込んで、辺りを見渡す。
・・・居た、分かり易すぎてビックリします。
第二王子・・・らしき人物。
かぼちゃパンツはゴールド、巨大襟巻きは、アコーディオンのようにミルフィーユのように層にうねうねしている。
バルーン袖、ピタッとしたシャツ、ベスト、そして盛り上げたスカーフ。
足元は勿論白いタイツ。
頭には黄金に輝く冠。
あの様子から、時期国王は自分だ!と信じて疑わない性格がありありと見て取れた。
周りを取り巻く女性たちの中に、永倉、原田、藤堂も見つけた。
あの王子は・・・、誰だ?
金の髪、赤い瞳、不遜な表情の人物を、名前は知らない。
「はぁ・・・、目的は果たしましたよ。帰りたいんですけど、今何時でしょうか?」
呟くと、目の前に文字盤が現れた。

11:39

時計機能がありましたか!!
そうですか、十二時の鐘まではまだあります。
でも、十二時までに帰ればいいんですよね。
なら・・・。

帰る
ギリギリまで居る
魔法が解けても居る

物凄い選択肢が表れましたよ。
魔法が解けても居るって、どうゆうことですか?
そんなデンジャラスな選択肢、セーブが出来るなら選んでいますよ!
でも、セーブは出来ないらしいですし・・・。
残念すぎて悔しいですが・・・。
ギリギリまで居たって、あんな変な王子はお断りですし、ガラスの靴は無いですし・・・。
わざわざ永倉と原田と藤堂に苛められるのも嫌ですから。
帰りますよ。
結論を出して帰るに触れると、選択肢が消えた。
せっかく庭から入り込んだと言うのに、ここに来るまでにそれなりに時間を使っていたことが分かっただけで、正面玄関に向かって帰るために歩き始めた。
舞踏会になど興味は無い。
最初はシンデレラストーリーだからと思っていたけれど、どうも全体的にぐちゃぐちゃだ。
選択肢を選ぶ楽しみ・・・というか恐れ・・・というか、は存分に楽しめた。
セーブさえ出来れば、イク方にがんがん進んでいただろう。
自分は、実際に自分に問題が関わってくることに対しては保守的なのだ。
「はぁ、なぁんか、疲れちゃった。」
裸足で歩いていると、石床の冷たさがそのまま伝わってきて、ブルリと震えが走る。
正面玄関は開け放たれている。
背後からの灯りのおかげで自分が居る場所までは見やすいが、玄関を出てしまうと、一気に灯りが心もとなくなる。
階段が緩やかに続き、最初に降り立った場所に辿り着くことになっている。
この階段を下りて、どこまで進めればゲームオーバーなのだろう。
ガラスの靴は無いのだから、王子の従者が来ることも無い。
と言うか、王子と会ってすらいないのだし。
魔法が解けたら、終わり・・・?
ぼうっと考え事をしながら階段を下りていた名前は、スカートを持ち上げていた手も緩んでいたらしい。
手から滑り落ちたスカートの裾を踏んで、盛大に前へとつんのめって、足が布を滑るように蹴っただけで、宙を掻いた!!
「みぎゃああぁぁ!!!」
わたわたと手を振り回して、身体が宙を飛ぶ恐怖に目を閉じた名前の身体が、衝撃と共に止まった。
石に打ち付けられると思っていたのに、痛みの種類が違う気がする。
硬い何かに身体がぶつかった衝撃はあったけれど、それは石のような物ではなく・・・。
「また君か・・・。」
「その声は、沖田っ!?」
目を開ければ、うつ伏せになっている自分を下から掬い上げるように受け止めている手と、遠くに階段が見える。
横を向けば、鋼色の鎧。
この鋼がぶつかって痛かったのだろう・・・。
「はぁ、随分と損な拾い物をしちゃったな・・・。」
そう言いながらも、沖田は名前を持ち上げたまま階段を降りきってから下ろしてくれた。
「あ、有難うございます。」
「・・・・・・どういたしまして。これも、衛兵の仕事だからね。」
胸の前で腕を組んだ沖田が、呆れたような瞳で見下ろしてきた。
自動車の駆動音が近づいてきて、自分の傍で止まった。
助手席から山崎が降りてきて、後部座席を開けてくれる。
これで、終わりだ。
ゲームオーバー・・・。
でも、少しだけ、勇気を出してみようかな・・・。
だって、これは恐らく現実では無いから・・・。
「あの、沖田・・・。」
「なに?」
既に沖田という呼び方に対して否定をするのも面倒くさいのか、それとも受け入れてくれたのか、衛兵沖田が返事をしてくれた。
しっかりと見つめて、言葉を紡ぎだす。
「沖田は、ひなさんが・・・、メイドさんが好きなんですか?」
「・・・メイド萌え属性はそれなりにあるけど?」
メイド萌えとか、属性とか、沖田が言いやがりました!!
これは、本当の沖田では無い!?
いや、でも、しかし、うむぅ・・・。
「いえ、そうじゃなくて、ひじ・・・、第一王子のメイドです!」
「・・・ああ、あのメイドね。そうだね・・・、好きだよ。ファン心理で僕に近づいてきたりしなかったしね。」
「そ、それは・・・、恋愛感情ですか?」
「・・・・・・恋愛感情?僕が?僕は誰かに恋愛感情を抱いたりなんか、しないよ。」
「そうなんですか?例外が居るからこそ恋愛なんじゃないんですか?」
「さあ、そんな感情、知らないよ。」
「じゃあ、まだ誰も好きじゃない・・・?」
「・・・そうだね。君が言っている意味での好きな人は、居ないよ。」
「・・・・・・そっか、そうなんですね・・・。あ、あの、そっか、現実じゃないとしても、今だけでも、夢を見れました。有難うございます!」
にへっと、頬を染めて顔を緩める名前が、お辞儀をして後部座席に乗り込むと、山崎がドアを閉めて助手席に乗り込んで、発進した。
その場に残された沖田が、瞳を瞬いてから、そっと自分の胸に手を当てて・・・・・・首を傾げた。


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