第二王子を見に行くルートは、どうやらどんどん城の方へと向かっていくらしい。
途中で抵抗心を表して別の道へと反れようとすると、身体が固まる。
うぅん・・・、仕方が無いです。
乙女ゲームだって、自分が言う言葉の選択肢に選んだ言葉が、自分が思っていたニュアンスと全然違う時がありますから・・・。
あ、そっちじゃないです。
横道に行きたいと思っていたのに、行かせてもらえない、の方です。
思わず、文句を言うならこっちだろう!と、普段から不満に思っていたほうが出てしまいました。
そんな事を考えながら、時々スカートを抱えなおして歩き続けると、ようやく見えてきた、舞踏会。
おや?これは舞踏会へイクと何が違うのでしょうか・・・?
と、思っていた矢先・・・。
「何しにきたの?」
目の前に細い刀身を突きつけられた。
「危っ!!」
慌てて立ち止まると、突きつけられた剣が収められる。
美しい軌道を描いて、腰の鞘へと収まる剣を眺めながら、全体像としてその人物を見る。
先ほどよりも、舞踏会の灯りがあるためにはっきりと見える。
「やっぱり、沖田っ!!」
「何、おきた・・・だっけ?君がつけてくれた名前。」
「つけたわけじゃないんですけどね。」
「意味が分からないんだけど?」
「そうでしょうね。」
「・・・君さ、やっぱり、生意気だね。」
「・・・・・・有難うございます。」
「褒めてないんだけどね。」
「そうでしょうね。」
淡々と交わされる会話、だけど名前の胸はドキドキしっぱなしだった。
先ほどよりも明るい場所で見る沖田は、衛兵とは言え、騎士の格好をしていると言う事だ。
鋼色の鎧に包まれた姿、膝下までのブーツは馬にも乗れるようなデザインらしく、長身の沖田の容姿にとてもよく似合っていると言わざるを得ない。
「ねえ、僕の話、ちゃんと聞いてるの?」
「え、あ、聞いてますよ。」
思わず目を逸らしてしまった名前に、沖田が視線を合わせるために腰を折って顔を近づけてきた。
「な、何ですか?」
顔を逸らして目だけで沖田を見ると、こちらを見つめてニヤニヤとしている。
「何ですか!?」
「別に・・・、ちょっと、珍しいタイプだなぁ・・・と、思ってね。」
「・・・はぁ、よく言われます。」
「その受け答え、僕の周りに居ないタイプなんだよね。」
「メルヘンにはオタクが居ないのですか?」
「メルヘン・・・?オタク・・・?言ってる事が分からないんだよね。君、馬鹿なの?」
「言ってる事が分からないだけで馬鹿だと決め付けるとは、己の無知をひけらかして知識のある側を陥れる、非常に短絡的思考の現われだと思いますが、沖田は私以上に馬鹿だと言う事になります。」
珍しく最後まで言わせてくれたと思って沖田へとしっかりと向き合うと、
「っ!!?」
沖田の細められた嘲笑うような瞳が目の前、ぼやける距離まで迫っていて、そのまま唇に柔らかな熱が触れた。
「ん〜〜〜!!!」
悲鳴を上げて沖田を突き飛ばすけれど、沖田の身体はビクともしない。
反対に自分が後ろへとバランスを崩して尻餅を着く羽目になったけれど、逃げる事が出来たのなら上々です!!
「な、何をしますかっ!!」
「したいと思ったからしただけだよ。」
「は・・・・・・?」
「僕、本能に忠実なタイプだから。」
「そ、そのようですね・・・。」
唇を腕で拭うと、白い手袋に赤く線が走った。
化粧をしている事を忘れていた・・・。
「で、何しにきたの?」
「うわっ、今した事が本当に何でもない事だと理解できる台詞に、私の心は傷つきました!!」
「君の心が傷つこうと僕には関係ないんだけど。僕が興味があるのは、何をしに来たかだけ。」
「貴様には関係が有りません!」
吐き捨てると、沖田が腰の剣に手をかけた。
チッ・・・と金属が擦れる音がして、刀身が少しだけランプの光に照らされて閃いた。
「僕が衛兵だって事、忘れてない?」
「私が舞踏会の客だって事を忘れていませんか?」
「庭から入り込んでくるような不審者を客だと思えと?」
「・・・・・・第二王子を見に来たんです。」
「・・・は?」
「だから、第二王子を見に来たんです!!」
「見て、どうするの?」
沖田が剣を納めて、しゃがみ込んで見つめてきた。
目線を合わせてくれたのだろうか、しかしそれでも高さは合わずに見下されている。
「別に。土方は・・・、いえ、第一王子はメイドさんと駆け落ちしたので、この国を継ぐ第二王子を見てみようかな・・・と、正直不本意ですが。私は靴を取り返したかったのですから・・・。」
第二王子を見に来たのは、手が誤って触れてしまっただけで、本意ではない・・・。
「・・・へえ、とうとう駆け落ちしちゃったんだ・・・。メイド、居なくなっちゃったんだ・・・・・・。」
「・・・・・・沖田?」
寂しそうな呟きが気になって、思わず沖田の頬に手を伸ばしてしまって、名前は後悔した。
払いのけられた手が、ジンと痛む。
「第二王子が見たいんでしょ。君も、金とか国とか目当てってことだ。」
「え?いえ、ただの物見遊山です。」
「そんな事言って・・・。こんな催しに集まるような人間なんて、みんな権力やお金や地位や遊んで暮らせる生活目当てじゃない。」
「えっと・・・、そう言えば、母や姉二人はそんな感じでしたね。」
「みんな、大嫌いだね。国王様が居るからこんな国でも守ってやろうって思えるけど・・・。」
ほう、と言うことは国王は近藤ですね。
「第二王子、探してるんでしょ。いいよ、行けば。君みたいなチンケな人間が何か起こせるとも思えないし。じゃあね。」
寂しげな瞳が印象に強く残った。
あの瞳は、見覚えがあります・・・。
ひなさんを見送る時の沖田の瞳・・・・・・。
ここでも沖田は、ひなさんが・・・・・・?
もう、私はこんなメルヘン乙女ゲームなんか・・・、攻略したい対象が居ないゲームなんか・・・、したくないですよ・・・。
リセット無いですか?
もう、帰りたい・・・。
すれ違って去っていった沖田の背中を追おうにも、身体が動かない。
後ろへは行けないと言うことだ・・・。
こんな制限だらけのゲーム・・・、何が面白いのか・・・。


[*prev] [next#]



-top-



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -