うぬぅ・・・、靴を盗られたからゲームオーバーかと思いきや・・・です。
目の前に浮かび上がった選択肢に唸りながら、名前はようやく立ち上がって首を捻っていた。

王子を見に行く
靴を取り返しにイク
逃げる

靴・・・の選択肢の・・・あれは変換ミスでしょうか、それとも・・・?
怖すぎて行ける訳がありません。
怖いって、あれですよ、・・・・・・色々とですよ!!!
でも、ここで逃げ出したくもないし・・・。
そうだ、王子が誰なのか、それだけは確かめ・・・るもなにも、きっと土方でしょうけど。
土方が王子って・・・、何かもう、王子って年じゃないですよね。
でも、王様が死なない限り、何歳でも王子なんですよね。
お可哀想に・・・ぷっ。
思わず笑ってから、名前は王子を見に行くに触れた。
そのまま消えてしまって、自分がどうすれば良いのか分からなくなった。
後ろへと引き返して入り口へ行こうとすると身体が動かない。
前へと進もうとすると動く。
と言うことは、前・・・です。
大分要領を得てきましたね。
これは、ある意味便利ですが、私はRPGも好きなので、そこはちょと残念な気がします。
まぁ、良いでしょう。
靴のヒールが無くなった事で歩きやすいけれど、スカートの裾が更に邪魔するようになってしまった。
仕方が無い、手繰り寄せて手繰り寄せて持ち上げて大股で歩いて、庭からお城の中へと行ける道を探す。
お城は大きい。
当然です、お城ですから。
だけど、段々と賑やかな音楽が聞こえてくる。
と、前方から誰かが駆けてくる。
真っ黒でシンプルなドレスに身を包んでいる女性らしい。
「待て!!」
どうやら、追いかけているらしい男性の声も。
え?
それは一大事!!
「こっちです!!」
「・・・へ?」
叫ぶと、女性がスピードを落として名前の前へとやってきた。
「逃げてるんですよね?・・・って、ひなさん!?」
「・・・え?いえ、私はメイドですけど。」
「・・・その服、正統なメイド服!うわぁ、似合います!素敵です!!」
「あの、有難う・・・。その、えっと・・・?」
「あ、こっちです、この、後ろをどうぞ。」
自分のスカートを持ち上げて、後ろに入るように指示すると、メイドのひなさんがおずおずと入ってきた。
こんな風につかう事も出来るんですね、この無駄に広がったスカート・・・。
とか考えているうちに、悪党来ました!
「おい!」
白いスーツ・・・と言うか、王子服に身を・・・身を・・・。
「ぷっ・・・!!」
「・・・は?」
「いえ、なんでもないですっ!!」
思わず笑ってしまった名前は、慌てて口元を手で覆った。
土方です、やっぱり土方です。
バルーン袖、カメレオンのような襟巻き、かぼちゃパンツは立て縞、白いタイツ・・・。
道化師、道化師ですか!?
た、確かシンデレラの王子は普通のちょっと豪華なスーツじゃなかったですか?
ねずみの国王子は、ねずみ色っぽい水色の、詰襟スーツだったような・・・?
「ここにメイドが来なかったか?」
「いえ、見てません。」
「お前の前を通っただろう?」
「・・・・・・何で追っているんですか?」
「お前に話す理由は無いはずだが?」
「そんな恥ずかしい格好をしておいて、よくもぬけぬけと格好をつけることが出来ましたね、土方。」
「・・・・・・随分と生意気な口を利きやがる。お前は一体誰だ?」
「名前です。」
「ほう、名前・・・ね。お前も俺の嫁探しの舞踏会の参加者か?」
「え〜っと、非情に不本意ですが、そう・・・だったのですが、今となってはそれはどうでも良いのです。こんなに恥ずかしい貴様の姿を見ることが出来ましたから。私は満足です。」
ブツブツと呟く名前に怪訝な顔を向けながらも、聞こえていなかったのか、土方王子が独り言のようにぼやいた。
「ったく、こんなくだらねえ催しなんざ必要ねえんだよ・・・。俺はメイドとしか結婚しねえ。」
「メイド・・・と言いますと?」
「今逃げられたメイドだよ。俺のメイドはあいつしかいねえ。くそっ、それなのに逃げやがって・・・。こんな催し、俺の望みじゃねえっての・・・。」
「そうなんですか・・・?」
自分の下から、自分の物ではない声が聞こえてきた。
そして、スカートの中からひなさんもといメイドが姿を現した。
「本当に・・・?」
「メイド・・・!」
「私に語ってくれた愛は、嘘だったわけでは無いんですね?」
「嘘なわけねえだろうが!お前に子供が出来たから妃に迎えるって言った途端、これだっ!だったら、こんな城抜け出して、お前と二人でどっか静かな場所で暮らす。お前の実家に挨拶にも行かねえといけねえし、そうすりゃこんな恥ずかしい格好もしなくて済むんだろう?」
うぐっ・・・。
どうやら聞こえていたらしい・・・。
「でも・・・、良いの?」
「構わねえよ。王子は俺だけじゃねえ。第二王子が城を継ぐだろうよ。」
「・・・・・・王子様・・・。」
「メイド・・・っ!」
ヒシッと抱き合った二人に感動の涙を流したいところだけれど、その呼び名、どうにかなりませんか?
このメルヘン乙女ゲームは、何だかそうゆう部分がぐちゃぐちゃで滑稽なんですよね・・・。
でも、でも、それでもっ、私はひなさんが大好きなんです!!
「ひなさんっ、良かったですね!!土方と幸せになってくださいね!」
「ひなさん・・・?」
「ひじかた・・・?」
恐らくは自分たちを呼んだのだろうと理解は出来るようだけれど、二人が怪訝そうに振り向いた。
「はい。メイドのひなさん、王子の土方歳三。」
「・・・・・・なんかよく分からねえが・・・。」
「でも、良いんじゃないですか?私はもうメイドじゃなくなるんだし、王子様も、もう王子じゃなくなるんです。」
「お前がそう言うなら・・・・・・ひな。」
「歳三さん・・・。」
再びヒシッと抱き合って、深い口付けをしだす二人の横をすり抜けて、名前はその場を後にした。
王子が駆け落ちなんて、国としては一大事だろうけれど・・・、第二王子が居るとか言っていたし、大丈夫だろう。
それに、国の問題よりも、このメルヘン乙女ゲームの攻略の方が大事です!
と、拳を握り締めて先を歩き続ける名前の前に、再び選択肢が現れた。

靴を取り返しに行く
第二王子を見に行く
舞踏会へイク

だから、そのイクは、変換ミスですか?それとも何か意味があるのですか!!?
憤然としながら、名前は靴を取り返しに行くを押したつもりだったのに、消えたのは第二王子を見に行くだった。
どうやら、憤然としすぎて指が狂ったらしい・・・。


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