スースーする足元に、顔。
覆っていたはずのマスクは外れ、明瞭になる視界から、サングラスがなくなったことを悟った。
足元を見れば、ハイヒールを履いている素足。
短いスカートはプリーツが多く、紺色。
胸元にはスカーフ、髪の毛はツインテール。
・・・・・・って!!
「こらぁ!山南!!これは、これはダメです!こんな短いスカートも、ヒールも履き慣れていなくて・・・ってそうじゃないです、そうじゃなくて、これは著作権の問題に引っかかりますので、お願いします、せめて普通のドレスと、それからガラスの靴にしてください!そして、ガラスの靴は変身が解けても残るようにしてください〜〜!!」
山南がこちらを見て、口元を歪めてせせら笑ってから真面目な顔に戻った。
そのせせら笑いは何を表しているのですか!?
わ、私はレイヤーを見るのは好きですが、自分がなるには自信がなさ過ぎて無理です!!
似合っていないのは分かりきっています!!
「そうですか、残念ですね。では・・・。」
ステッキを持ち上げた山南の気だるそうな動きを見て、名前は指を広げて山南の顔の前に突き出した。
「待ってください、その前に写メだけ、写真だけ撮ってください!」
「・・・写メ?写真?それは何でしょうか・・・?」
ちぃっ、そこだけは時代設定に忠実ですか!
「なら、鏡で堪能してからにさせてください。」
「・・・・・・良いでしょう。少しだけなら待ちましょう。その間に、私どもは舞踏会に行く準備をしています。さ、行きますよ、斎藤君、山崎君。」
「ちゅう。」
「チュウ。」
小動物特有の小さなキーキー鳴き声だと認識していた二匹の声が、記憶の二人の声で、しかも返事はちゅう・・・?
驚いて振り返ると、肩に乗っていたはずの二匹が、後ろで従者の格好をして立っていた。
・・・・・・何とも、ギャップの無い斎藤に残念ですが、山崎は、着せられている感がしないでもないですね。
冷静な判断を下せるのは、自分が二次元にしか興味が無いからだろう。
しかし、ネズミは馬になるのではなかったか・・・?
疑問に首を傾げながら、鏡に映った自分を見て、ほぉ・・・?と感嘆符を漏らした。
自分の筋肉の少ない足を見てテンションが若干下がるけれど・・・、上を見る限りでは、見れないことも無い。
本物よりも薄い目の色、短い髪、それは仕方が無い。
けれど・・・。
「私はセーラー服も着れるんですねぇ。・・・って、騙されました!これはセーラー服で、衣装じゃないです!コスじゃないです!山南めぇ、山南めぇえ!」
「何です?」
「っ!!何でもないですよ!?いえ、あの、早くないですか!?」
「・・・別に、魔法で全てそろえる事出来ますからね。準備は全て整ってますよ、注文の多いオタクさん。」
そこはこの時代設定無視ですかー!!!
この世界が分かりません〜!!
さっと、またしても気だるそうに差し出された手は、無造作に透明なガラス製のハイヒールを掴んでいた。
「ハイヒール・・・、苦手・・・。」
「ハイヒールでも履いていないと、階段で置いて来れないのでしょう?」
「・・・・・・。」
何で知っているのだろう・・・。
この世界の住人なのではなかったのだろうか。
それにしても、さっきの赤い液体・・・、何だったんだろう・・・。
「おや?これが気になりますか?変身ではなくこちらに―――」
「変身でお願いします!!」
危ない・・・、この魔女は危ないです。
何かを悟ってぶっこんで来ます!!
こちらも気を抜けません!
「仕方ありません。では、どうぞ。」
再びカチッと音がして、先ほどとは違うノイズ交じりの声が流れた。
・・・・・・その台詞、攻撃されています、私攻撃されています!!
再び煙に包まれた名前が目を開いたとき、身体を締め付ける感覚に息が、実が、でそうになった・・・。
「ぐ・・・、ぐるじぃ・・・。」
「コルセットには不慣れですか?」
こんな物を、永倉も、原田も、藤堂も着ていたのですか・・・?
こんな・・・っ!?
盛り上がった胸の谷間、前からはペタンコに平らに潰されているだろう。
何だこれは・・・、こんな物、何故世の中に必要になったのですか!!
「でも、慣れてくださいね。せっかく無駄に贅肉持て余しているのですから、それを最大限に利用して、男たちを魅了して来なさい。」
「・・・男たち?」
「ほう、そっちに食いつきますか。と言うことは、贅肉を持て余しているという部分には反論は無いと。」
「ありません。」
「・・・清々しいほどの即答を有難うございます。では、このガラスの靴はレンタルにしようかと思ってましたが、差し上げましょう。」
レンタルにするつもりでしたか!
なんたる鬼畜!!
確かに肉はあります。
色が白くて肉が柔らかい故に、全てを持ち上げればいつも以上に胸の盛り上がりが作れます。
しかし、これ、コルセットを取ったら全て下に流れるんじゃないですかね?
「ほう・・・、ドレスを脱いでどうこうなる展開までお望みとは・・・、オタクとは怖いものですね。年齢制限ありの作品はどれくらいお持ちですか?」
「それは今関係ないじゃないですか!!そんな展開望んでないです!むしろ見られたくないですから!!」
やっぱり思考を読まれている・・・。
山南、恐るべし・・・・・・。
「さて、ドレスに不満は?」
すっかりとコルセットだけに意識を向けていた名前が、自分のドレスを鏡越しに見つめてみた。
髪の毛はスッキリとまとめられていた。
永倉みたいに巻いて盛っても居ないし、藤堂みたいに羽飾りもついていない。
頭の後ろでまとめられて、残った髪が右側に流されている。
ドレスは袖が無いタイプ、コルセットの締め付けの上から身体に締め付けてずり落ちるのを支えているタイプだ。
走って逃げる時に大丈夫だろうかと心配になるけれど、お尻で止まるだろう・・・と、現実を悟る。
薄いブルーのドレスは、胸元が刺繍とパールで彩られて、ゴージャスだけれどシンプルという品の良さだ。
スカートはフリルとレースをふんだんにあしらっている。
中は空洞になっていて、歩きづらい事は無かった。
これが驚いたことだけれど、どうやら中で何かで膨らませているだけらしい。
布だけで膨らんでいるわけではなかったのだ。
上と同じ薄いブルーのスカートはお腹の部分から割れて、少し濃いブルーの下へ行くほどに濃くなっていくグラデーションのフリルが見えている。
自分の目の色だ・・・と、すぐに分かった。
センスは良いらしい。
髪の毛を飾るようにティアラがついている、それはキラキラと輝いていて目に眩しい。
「素敵です・・・。」
そう言わざるを得ない。
自分の顔をしっかりと理解してデザインされたとしか思えない。
・・・・・・けれど、よくよく考えてみれば、ねずみの国のシンデレラのドレスの色・・・ですよね、これ・・・。
いえ、デザインは勿論違うのですけど・・・。
「おや・・・?私のデザインは気に入りませんでしたか?あなたに合わせて作ったのですよ。」
含んだような笑顔が、真実がどちらなのかを押し隠した・・・。


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