家は広大なわけでもなかった。
そりゃそうだ、二階建てが限界だろう時代と、石を多く使ったのだろう家の作りからして、そんなに大きく作れるわけは無い。
そして、確かシンデレラは中流階級の家の出だ。
だから、そんなに大きくない。
と、恐らくは自室として与えられていたのだろう部屋に入って、ベッドへと腰を下ろした。
色々と、何故だか状況は分かる。
シンデレラの話を知っているからと言うものは勿論なのだけれど、友達のネズミがベッドに腰を下ろした自分の周りへと走ってくる。
こっちが斎藤で、こっちが山崎だ。
「斎藤、これは本気でシンデレラの世界に迷い込んだと思って良いのでしょうか?」
「ちゅう。」
おお、返事をしました!
さすがメルヘン!!
「ならば、この後魔法使いのおばあさんが来るのですが、今一体何時なのでしょう、十二時の鐘が鳴る前に帰ってくる、その時にガラスの靴を置いてきて、それでそれを持って来る従者の為に片方は持っていなくてはならないのですよ。」
「チュウ。」
おお、山崎も返事をしました!
って、偶然かもしれませんけれど。
「そうだ、かぼちゃを用意しておかなければいけないのです!」
少しだけ、いや、かなりノリノリで部屋を出ようとした名前の背後で、何やら現実では自然発生しないようなシャラララ〜ンという音色が響いた。
家の外は静かで閑散としている。
それもそうだろう、国中の女性はみんなお城の舞踏会に呼ばれているのだ、人気が減った町は静かだ。
しかし、音色は確実に鳴った。
しかも、外ではなく中で・・・!
「魔法使いのおばあっっ・・・!!!?」
喜んで振り返った名前の言葉は、半ばで止まった。
「ふむ。お婆さんと最後まで言わなかったことは評価しておきましょう。私はお婆さんでは無いですからね。こんなに若いお婆さんだなんて、世の中の本物のお婆さんたちに申し訳が立ちませんから。」
そう、涼しげな顔で笑顔をさし向けてきたのは、薄いグレーがかった水色のポンチョを着た・・・・・・山南!!!
ポンチョ?ポンチョだっけ?
あれって、ポンチョじゃなくて、こっちの言い方だと何だっけ・・・!!
あぁ、嫌だ、山南・・・・・・には触れたくないです!
極力触れたくないのに、その極悪そうな笑みに光る眼鏡とか、心臓に悪いですから、誰か、誰か良い魔女さん助けてください!!
「はい。良い魔女があなたを助けに来ましたよ。」
心を読まれていますー!!
「魔女だからって、心を読めるわけが無いとは思いませんか?私は今、推測で話をしています。良いですか、大体私を見た人は、みんな助けを求めている人ですからね。で?何を願いたいのですか?」
「・・・・・・い、今すぐに違う人にチェンジお願いします!!」
「・・・はい。今すぐに変身させてあげましょう。」
キラリと再び光る眼鏡の奥の目が、細められて赤い瞳を隠す。
ちっがーーーう!!!
分かってます、その目は分かってるのにあえてストーリーどおりの展開へと持っていこうとしている目です!
抜かりが無いです!!
沖田以上に怖い相手が来てしまいましたー!!
た、助けてー!!
魔法使いはもしかしたら沖田かもしれない・・・と思っていただけに、これは衝撃です!!
いやしかし、アレですかね?
まさか、王子が沖田という展開??
な、ならば・・・見たい、沖田の王子服を見たい気がしますっ、しかし、山南に何かを頼むと後が怖いと聞きます!
どどど、どうしますか、マリア!?
これは究極の選択ですよ!?
扉へとへばりついて警戒心を丸出してフシューフシュー鼻息を荒くしている名前の両肩に斎藤ネズミと山崎ネズミが駆け上がってきて縋り付いた。
弱者は強者に怯える構図がしっかりと出来上がっています!
「さて・・・、どうしますか?どう変身しますか?魔法で綺麗なお姫様に変身して
舞踏会へ行くのと・・・。」
山南は懐から小瓶を差し出した。
「この液体を飲んで最強の戦士へとへんし―――」
「魔法でお願いします!!」
「・・・・・・そうですか?意外としんどいんですよね、魔法も・・・。こっちの液体にしませ―――」
「魔法でお願いさせてくださいー!!」
「・・・・・・。」
想像していた究極の選択以上の選択キターーー!!
何その怪しい液体!!
怪しすぎて手が出せないんですけど!
って言うか、山南!?
魔法使いだか魔女だかしらないけど、お前も女設定でしたか!!
すっかりと気分を害した風情の山南が、懐に渋々と赤い液体を仕舞い込んで、変わりにステッキを取り出した。
「ぶっ!!!」
「・・・何ですか?汚らしい・・・。唾が飛んできましたよ・・・。」
「だ、だって!!そ、そのステッキ!!」
「ええ。変身用です。」
「へ・・・・・・いや、そ、そうですけど・・・。」
若干の不安が名前の全身を襲った。
確かに変身用ですが・・・。
いえ、攻撃用にもなりますよ、それ。
そうじゃなくて、そうじゃなくて・・・・・・。
シレッと持っているそのステッキは、寓話や絵本で持っている様な木の棒ではなかった。
どう見てもプラスチック製品。
さらには、おもちゃの宝石まで沢山ついていて・・・、極めつけは・・・。
山南が手元にあるボタンを押したのか、カチッと微かな音がした。
『ムーン○リズムパワー、メーイクアーップ!!』
「やっぱりです〜〜〜!!!」
機械から再生されるような雑音交じりの女性の声。
それは、子供時代に自分を魅了した変身少女のアクション恋愛アニメだった。
キラキラしい音と共に自分に光の粒子が降りかかり、ボワンッ!!と音を立てて自分の周りに煙が立ち上った。


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