シンデレラストーリー

「シンデレラ!!」
呼ばわれたのは、階下の・・・何やら男が無理して高めに声を出したような掠れた気持ちの悪い声。
元が太そうなその声で女声を作るとか、どれだけチャレンジャーなのですか!?
と、奇妙に疼く好奇心を誤魔化す事が出来ずに、シンデレラ・・・もとい名前は階段から下を覗き見た。
いや、そもそもシンデレラって・・・、それは御伽噺、寓話の主人公の名前であって、私には名前という親がつけてくれた立派かどうかははなはだ疑問の、外国には名づけセンスが無いのだと実感せざるを得ない名前があります。
そうなんですよ、どうしてだか、名前と言うものは他に種類が無いんですよ。
ジェーンとか、カレンとか、イザベラとか・・・、日本みたいに勝手に文字を並べて作り上げるという感覚が無いのです。
その辺、日本に居る日本人としては見習ってもらいたかった部分ですが、仕方がありません、日本に居てマリアという名前は、既に珍しくはありませんがちょっと日本人から離れているかな・・・?かな・・・・・・?というたったそれっぽっちの違和感のみでは気に入っています。
しかし、呼ばわれたのは「シンデレラ」。
返事をするわけにはいかずに下を覗き見ただけの自分を明確に視線で睨みつけ、掠れた高音を鋭く飛ばしてきた人物が、見える場所まで移動してきた。
「シンデレラ!居るなら返事をしなさいよね!!」
おお、女言葉なのです・・・!!
ど、ど、ど・・・・・・、どうしました、永倉!?
「永倉??ここにはシンデレラなんて居ませんけど??」
「・・・永倉?誰に物を言っているのかよく分からないけれど・・・。とにかく、今すぐ降りてきて頂戴。ここ、汚れてるわよ!」
永倉は、名前をしっかりと睨みながら吼えた。
ええと・・・、と言うことは、永倉が言っている「シンデレラ」とは、自分のことなのだろうか・・・。
いやしかし、どうしました、永倉!
それはそれは作られたような金色の髪を巻いて盛って高く盛り上げて・・・。
今時、キャバ嬢の美久さんだってそんな髪しないですよ?
しかも、時代遅れのそのドレス・・・。
手に持っているのは、もしかして羽扇子?
ベージュを基調にしたドレスにはドレープやらレースらやをふんだんに盛り込んでいて、がたいが良い上半身をコルセットで締め上げているらしい。
胸元に、女性らしい丸みは全く無く、コルセットの作りのせいで、そこに若干の隙間が出来ているけれど、気にしないのだろうか・・・。
そして、スカート部分は腰からふんわりと広がるお姫様タイプ。
中はどうなっているのだろうか・・・気になって階段を降りきった所で捲り上げたら、思い切り羽扇子で頭を叩かれた。
「いったい!!何をしますか!」
永倉が女を叩くなんて、初めての事で驚きに目を見開いている名前を、頬を赤く染め上げて怒りに目を吊り上げている永倉がぴしゃりと再び手の甲を叩いてスカートを下ろさせた。
あぁ、照れて赤くなっている訳ではなく、怒りで赤くなっているのですね。
冷静な判断が下せるほどに、自分は冷静だ。
ならば・・・、この状況は何なのだろう・・・。
「シンデレラ!さっさと掃除しておきなさいよ!」
「・・・私はシンデレラでは無いのですが・・・。」
叩かれた事で気後れして、首を竦めつつ上目遣いで見上げる永倉の顔は、こちらを完全に嫌っている、侮蔑の瞳だ・・・。
この目を沢山知っている・・・。
ここ最近では見ることの無かった目・・・、みんな自分と普通に接してくれていたと思っていただけに、胸が酷く抉られる・・・。
「さあ、私たちは舞踏会に行って来ますから、お留守番宜しくね。」
「へ・・・?」
「シンデレラ、可哀想ね、舞踏会に行けないなんて。」
「まあ、その格好じゃあねぇ・・・、ふふふ。」
いつの間に背後に立っていたのか、長身と自分と差して変わらない身長の二人組みが声をかけてきた。
「・・・・・・原田、藤堂・・・?」
これまた、時代遅れのドレスに身を包んで・・・、藤堂に至っては頭に羽を何本も差している。
いや、勿論センスのある髪型なのだろうけれど・・・、ドレスと合っているのだろうけれど・・・、思わず身長隠し?と聞きたくなってしまうのはどうかと思う。
だって、要は、女役をやっているという事なのでしょう?
ならば、低くてむしろ良いんじゃないの?
いや、そうか、そう言うことか・・・。
原田の長身で頭に羽を飾ってしまうと、更に高くなってしまうから、それはそれ、きっと物凄く視線が高くなってしまって、男は恐れ慄くのだろう。
いやしかし・・・、見事な物だ。
化粧も時代遅れのバッチリメイクなのかと思いきや、そこは現代風に綺麗につけまつ毛やらアイラインやらで小奇麗に派手目に塗りたくられている。
「・・・・・・。」
呆気にとられて、ポカンと見つめるだけの名前を奇妙に思ったのか、二人が顔を見合わせて首を傾げた。
「働きすぎて頭が可笑しくなっちゃったのかしらね?」
「私たちが王子様に見初められてしまうかもしれないと思って、悔しくて言葉も出ないのかしらね?」
「あら、ママだって王子様狙いよ。あなたたちに負けるつもりはなくってよ。」
ホホホホホ・・・と笑う三人の言葉で正気を取り戻して、名前は合点がいった。
伊達にオタクを自称している訳では無い。
これは、あれだ。
きっと、シンデレラの世界に迷い込んでしまったのだ。
だから、こんなに気味の悪い状況だと言うのに、本人たちは至って本気で女を気取ってホホホ笑いをしているのに違いない。
藤堂は褒めてつかわす。
似合っていますよ。
身長が低くて幸いしましたね、そしてその大きなどんぐり目が功を奏して、かなり女に見えます。
ええ、そうですね、王子様も騙されてしまうかもしれません。
しかし!
原田、永倉!!
お前たちには無理だ!
心の中で絶叫をしている名前を他所に、三人は優雅に家を後にした。
ドレスのお尻部分に、たっぷりとしたレースのバラをあしらった原田の腰が、左右に揺れながら進んでいくのを、感心しながら見送って、名前はうん、と一つ頷いた。
みんなが可笑しいのは、これはあれだ。
果たしてパラレルワールドか、それとも異世界召還か、はたまたは寓話の世界へと入り込んでしまったパターンか!?
夢落ちでは無い事を祈りたいと思うのは、現実世界から異世界へと迷い込みたい願望が強いオタク故です、仕方がありません。
しかし何故!
何故私だけいつもの清掃服に、サングラスとマスクと三角巾!?
手には違和感無くモップ!
あぁ、しかも自社製品!!
いや、そんな事よりも・・・・・・。
先のことへと考えを巡らせながらも、汚れていると言われた食べかすの残骸をしっかりと掃除してしまうのは、シンデレラ故か、職業病故か・・・・・・?


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