瓶の蓋を開けて、中から一粒金平糖を取り出した沖田さんが、くるくると回して眺めてから、口の中へと放り込んだ。
かっこいい、かっこいいとは思っていたけど・・・、綺麗だ・・・なぁ・・・・・・。
見とれている私に気づいて、沖田さんが私の腰に手を回して、自分へと引き寄せた。
「なっ!な、な、何ですか!?」
「水城ちゃんも。水城ちゃんのなんだから、遠慮しないで食べなきゃ。」
「いや、はい、た、食べますよ。でも、この状況は!?」
抱きしめられている・・・?
えっと、私のお尻の下の温もりと、この肉厚は・・・、私の尻の肉厚のことじゃないってば!
違うの、筋肉がしっかりとついているっていうの?
あぁ、尻から溶けて死んでしまいそう!!
「ほら、あーん。」
「ええ!?自分で食べられますから!!」
ピンク色の可愛らしい金平糖が、口の前でスタンバイしている。
何、何この状況ーーー!!!
いまだかつて無かった、水城ピーーンチ!!
部所中を見回して助けを求めているのに、何故かみんな視線を逸らして、こら、そこの女子!あんたいつも沖田さんがかっこいい、付き合いたいって言ってたじゃない!それは嘘だったのか!?そこは悔しそうに睨むところでしょう!?なのに何故視線を逸らすー!?あんたで良いから助けてー!
心臓が、人生の一生分鼓動を打っちゃいそうだよー!
「ほら。僕と一緒に食べよう。」
「い、だから、自分ではへっむぐ・・・。」
「ふふっ、僕の指まで食べちゃうなんて、いけない子だなぁ。」
指―――!!!
ぎゃーーーーーー!!本当だ、指だ、指が唇に当たってるー、ど、どうすれば良いんですかーーー!!!?
って、あ、口を開ければいいんだ、そっか、そうだ、落ち着け水城、こんなときはどうすれば!?
「あ、あの、欲しかったらそれ、あげますから!」
立ち上がって逃げ出そうとする私をぎゅっと強く捕らえて、沖田さんが不機嫌そうに息を吐き出した。
「僕は水城ちゃんと一緒に食べたいんだけど。水城ちゃんの物でしょ、遠慮なんかしないで。」
遠慮します、遠慮させてください、離してください!
人生ここで朽ち果てても悔い無し!!
「あれ?」
沖田さんがふいに驚いたような声を上げるから、私は一気に血の気が引いた。
何か粗相をしましたか?
私、何かやらかしましたか?
打ち首ですか??
切腹ですか!!!??
「水城ちゃんって、ピアス、してなかったっけ?」
「あ、はい。前に沖田さんがピアス嫌いって言ってたのを聞いて、塞いだんで・・・・・・!!」
「ふぅん、僕のために?」
「い、いや、あの、部所の先輩の言う事は絶対だと思い込んでいたふしが当時の私にはありまして、だからその、べ、別に、そろそろ開けようかなーとか、あの、そのっ!」
「開けても良いの?」
「はい!全然こだわりません!」
「ふぅん・・・・・・。」
呟いた沖田さんの顔が、耳元へと近づいてくる。
耳を見られているこの状況、とてもじゃないけど耐えられ・・・え?パクッ、て、今何か・・・というか、今現在進行中でなにか・・・??
「っ!!あ、き・・・ぎゃーーーー!!!」
沖田さんの腕を火事場の馬鹿力で振りほどいた私は、数歩走ったところで腰が抜けて座り込んだ。
「み、み、み、み、みみみみみみみみ!!!!」
「うん。耳を噛んだ。」
言わないで下さいーーー!!!
ああ、部所のみんなが見なかったふりしてるー!!
沖田さんが楽しそうな笑顔のまま椅子から立ち上がると、金平糖の瓶を持って、一粒自分の口に含んだ。
金平糖が好きだという事は本当らしいと、その様子で分かるけど、そんな事を観察できる私は、こんな状況でも立派な妄想女子!
「はい、これ、返すね。」
そう言いながら、ピンクの金平糖を選んで私の口の中へと入れた沖田さんが、手の中に金平糖の瓶を置いた。
けれど、その下に手の平から少し出るくらいの、ピンクの箱。
「それは、お礼・・・みたいな物、かな?一人で見てね。」
「・・・え?」
ポカン・・・と口を開けたままの私へと極上の笑みを見せると、沖田さんは自分のデスクへと戻っていった。
「あ、お茶、有難うね。」
「・・・ああ、お茶、はい!すいません、お盆・・・。」
お盆、と言うと、沖田さんがお盆を手渡してくれた。
ぬるくなってしまっているお茶を、私は一気に口の中に流し込んで飲み干すと、ふらふらと立ち上がってお盆を給湯室へと返すために部屋から出た。
給湯室には誰も居ない。
好都合・・・?
みんな、お茶を飲み干した湯飲みを集めてからお盆やら湯飲みやらを返しに来るから、いつも時間はまちまち。
ドキドキしながら沖田さんから貰った箱を開けると・・・・・・。
「嘘・・・。」
ハッピーバースデーと印刷された小さな紙の下に隠されて、ハートのピアスと、ネックレス・・・。
「嘘・・・!!?」
え、何で?
パニック!!
何で沖田さんが?
何で、いや、誕生日は知ってても不思議じゃない、だってあの斎藤さんがまるの誕生日を知ってたくらいだし!
でも、じゃあ、嘘、何で!!?
「ギャーーーーーーー!!!まるーーー!!久雨ーーー!!」
給湯室で二度目の腰抜け。
ああ、私は本当に、存在が腰抜けだ。
こんな事で腰が抜けるって、腰が抜けるって!!
「どど、どうしたの、水城!!?」
「何事!?フロア中に聞こえたよ!?」
私の叫びに駆けつけてきてくれた久雨とまるへと、ぶるぶると震える手で支えている箱を見せて、私はまた叫んだ。
「ピアス開けるの、今夜手伝ってーーー!!」
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