「っと、まあ、そんな事が・・・。」
三時の給湯室で、今までの尋常ではない忙しさの原因と、更にはそのせいで出来てしまった仕事の顛末を話した私へと向けられた視線は三つ、まる、久雨、そして今日はまみさんも居る。
けど、何だその温かな眼差しは!
さっき十分にのゆ先輩から頂きましたモウケッコウ!
「そっか、良かったね水城ちゃん。」
口火を切ったのはまみさん。
でも、今私は仕事の話をしたのであって、更にはこれからもまた忙しさは続いていくと言っているのだけれど、何故に良かったね?
「うんうん。水城ってば、一人だけ幸せになるなんて、抜け駆けだなぁ〜。」
「いや、まる、私は忙しいって話をね・・・?」
「水城―、良かった、良かったねぇ〜、これで見るだけの栄養補給から、だ、抱きしめてもらう栄養補給に変わるんだよ!」
「久雨、若干照れるなら言わなくても良いってば。」
「照れてないもんっ!」
「そうそう、照れてないもんねー、久雨はもっと深いところまで考えちゃったからちょっと言い辛かっただけだもんねー。」
「そうなんだ。それはどんな?」
「久雨、大丈夫、ティッシュはここにあるから。線香は私のポケットに・・・。」
「もうっ!みんな、私にだけ言わせて酷い!いつもはもっと卑猥な事いっぱい言うのみんななのに!!」
「卑猥ぃー?」
「ひわいってなんですかぁー。」
「ほほう、卑猥と・・・。」
「酷いー!今日は何なのー!?」
今日は私の機嫌が若干悪くて若干良いのです。
沖田さんの香り、香りっ。
身体に少しだけ染み付いている気が・・・って誰だコーヒーなんか淹れたの!香りがぁぁ!!
「ど、どうしたの水城、顔が般若になってるよ?」
「水城もコーヒーが良かった?」
「あ、分けようか?」
緑茶を淹れているまる、湯飲みをお盆に乗せている久雨、そしてコーヒーをすすっているまみさん・・・。
まみさんじゃあ文句が言えないーってか、まみさん席に着く前に飲み干しそうですよっ!
「まみさんも席用は緑茶で良いですか?」
「はい。宜しくお願いします。」
まるの質問に頷きながらもコーヒーをすすり続けるまみさん。
両方飲むんかいっ!
どこまで突っ込んでいいのか、若干距離感計りかねてます!
「まみさん、コーヒー飲み終わっちゃいそうですね。」
「うん。ここで飲んでいくの。ここに来る時は、コーヒーを飲みたい時だけだよ。」
「そうだったんですか。」
私が突っ込み辛いと思ったのに、あっさりと突っ込んだよこの女、天然恐るべしっ!
私が考えすぎなの?
そうなんだよねー、私ってば繊細で気を遣っちゃうタイプだからさぁ〜・・・。
・ ・・・・・本当だってばっ!
「準備できたよー。はい、水城の分。相当疲れてるっぽいから、これはおまけね。」
渡されたお盆の上には、金平糖。
「私からのプレゼント。朝知ったから、休憩の時に急いで買ってきたもので悪いけど。」
「まみさんっ!?あ、有難うございます!!」
金平糖なんて凄い懐かしい、綺麗・・・。
「少し粒が大きいみたいですね。いろんな色が入ってて、綺麗。」
瓶に詰められた色とりどりの金平糖が、透明のビニールに包まれてリボンをされている。
見ているだけでささくれ立った心が癒されそう・・・。
「はっ、まさか、まみさんはその為に給湯室へ!?」
「んー、まぁ、コーヒーも飲みたかったし。」
「有難うございますー!!」
嬉しい、嬉しい、嬉しいっ!
まみさんの優しい心遣いで心ほっこり、みんなが淹れてくれたお茶で更に心がほっこり。
そう言えば、今日は私、給湯室で喋り散らかして何もしてないや。
・ ・・ま、いっか、誕生日だし、特別〜。
自分の部所へと戻って、さっき沖田さんの悪口を言っていた二人の机には若干強めにお茶を置いて、みんなへと配ってから、・・・さあ、沖田さんのデスクへ・・・。
いつもいつも緊張します。
斜め方向にチラリと見えるだけの沖田さんと、言葉を交わせる唯一の時間。
「あれ、金平糖だ。」
「え?あ、はい。さっきまみさんからプレゼントに貰ったんです。」
「へえ、良いなぁ。」
「・・・好きなんですか?」
「うん。大好き。水城ちゃんくらい大好き。」
・ ・・それって、そんなに好きじゃないって事?それとも、私の事を・・・?
まっさかー、誕生日だからって、いくらなんでも、今日はおかしいってば。
そう言えば、まるも言ってた・・・けど、まさか、いくらなんでも私まで・・・ねえ?
私は疑り深い女なのよ。
でも、沖田さんの金平糖を見る目は、本当に純粋でキラキラしていて、珍しい表情を見れた事に、私の心臓は口から飛び出しそうなほどにバクバク言ってますっ!
「水城ちゃん?震えてるよ、手が。お盆置く?」
自分のデスクを指差して、お盆ではなく私の手を支えてくれた沖田さんの温もりで、更に私の緊張が高まって、震えが酷くなった。
「それとも、僕に怯えてるのかな?・・・フッ、大丈夫だって。僕、大好きなものは大事にするって決めてるから。」
ぎゃあああああああ!!!!
吐く、吐くー!!
緊張しすぎて内臓が口から全部出て行きそうー!!!
「ふふっ、水城ちゃん、顔中真っ赤だよ。」
沖田さんがそう言うと、私の手からお盆を奪って自分のデスクに乗せると、ひょい、と金平糖を持ち上げた。
「これ、少し頂戴。」
ぅ・・・、今までの言動がまさか金平糖が欲しいがためのあれこれだった・・・とか??
でも、それでも嬉しくて今すぐここから駆け出して叫んで屋上から飛び降りても死なない自信があるって、文法めちゃくちゃなんだけど私の気持ちを分かって!!
「はい、良いですよ。」
「有難う。」
嬉しそうに包みを開ける沖田さんを見て、自分で包みを開けたかった・・・なんて思いはちょっと思ってるけど、ちょっと残念だけど、いやいや、沖田さんを前にしたらそんな、そんなもんっ!
まると久雨からのプレゼントがまだあるから、良いもんっ!
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