足音静かに、一つの部屋へと向かっていた山崎さん。

襖を叩いて声をかけるが返事が無い。

「入るぞ?」

そう言って、襖を開いて一歩中に入るが、整えられた室内に人影は無い。

「留守・・・?」

少しだけ中に入ると、足元に何かが無造作に置かれていたらしく、蹴飛ばしてしまった。

ザザと音がして、中で何かが揺れたのが分かった。

「あ!」

何か、壊してしまったか!?

慌てて布を解いて中を確認すると、薄い小さな板が散らばり、その下に出来上がりかけた絵があるらしい。

「まさか、崩してしまったか・・・!?」

そうだとしたら申し訳ない!!

慌てて外れている板を退かして絵を見て・・・・・・、思わず固まり、すぐに顔中が赤く染まっていく。

「む・・・・・・、な、何故、こんなものが・・・・・・。」

色鮮やかな着物を身に纏わせて、肌も露に身をくねらせている女性に、二人の男の顔が胸と、そして肩から覗いて・・・、そこから崩れてしまっている。

「ゆ・・・雪村君・・・・・・。」

呟いて、思わず辺りを見回す。

誰も居ない・・・。

このような物を持つような少女では無かったと思うが・・・、しかし、今自分が蹴飛ばしてしまったことで崩れてしまったのであれば、直さなければ・・・。

いや、しかし、こんな場所で直していては、自分は・・・、自分は・・・・・・!!

「す、すまぬ!借りていく!」

布に再び包んで、そっと持ち上げると、衝撃でふら付く足元に気をつけながら、そっと運び出した。





一刻後、夕食の後片付けまでを終えた千鶴は、悩みながら部屋へと戻っていった。

どうしよう、あんな物・・・、すぐに焼いてしまおうか・・・。

でも、それはそれで、申し訳ない・・・。

永倉さんが、食事時も「高かったのによぉ〜」と、泣いていたのを思い出すと、流石に焼くことは無理だと・・・。

けれど、返してあげる気にもならない。

あの女性が、自分に似ていると永倉さんは言ったのだ・・・。

そ、それは・・・、どうゆう目的で買ったのか・・・!!?

部屋に入り、床を見る。

「あれ・・・?」

無い・・・。

無造作に置いて、逃げるように食事の支度に向かったのは、確かだ。

一刻前の出来事を忘れるわけが無い。

なのに、無い・・・・・・。

「え・・・?」

少しだけ部屋の中を確認するけれど、無い・・・。

「永倉さん!?」

叫びながら永倉さんの部屋に行くと、部屋の隅で涙を流している永倉さんが目に入った。

「・・・・・・あれ?」

「なんだ、千鶴ちゃん・・・。返してくれる気になったか?」

「いえ・・・、それが・・・・・・。」

どうやら、この様子では永倉さんが奪い返したわけではないと悟り、首を振る。

「部屋に置いておいたんですけど・・・、無くなっちゃって・・・・・・。」

「な、な、な、何だと〜〜〜!!!?」

永倉さんの大きな声が、屋敷中に木霊する。

「新八、煩いぞ!」

「新八っつぁん!どうしたんだよ!」

原田さんと藤堂さんが呆れた顔を覗かせると、二人に突進して襟を締め上げる。

「お、お、お前ら!俺のおかず、どこにやった!!」

「はぁ!?寝ぼけてんのか?ご飯はもう食べ終わっただろ?」

「もう、耄碌してきたのか?」

「違ぇよ!俺の嵌め絵だよ!どこにやった!!」

必死の形相で詰め寄る永倉さんに、千鶴が冷ややかな目を向けているのにも気付いていない様子だ。

「嵌め絵って、昼間嬉しそうに買ってきてた、あれか?」

平助君が思い出したように聞くと、原田さんが首を傾げる。

「なんだ?千鶴ちゃんが没収したんだろう?」

聞かれて、そっと首を傾げる。

「それが・・・、部屋から無くなってしまって・・・。」

「誰だよ、俺のおかずを奪ったのはよぅ〜!!」

おかず・・・という意味が、何を指しているのか、イマイチ理解できないけれど、あんな絵だ・・・、きっと碌な意味ではない・・・。

そう、それだけは分かるので、千鶴は再び永倉さんを睨みつけた。




薄桜鬼    二次   山崎・永倉

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