嵌め絵
「何してるんですか?」
真剣に卓の上で作業をしている永倉さんが珍しく想って、千鶴はそっと近づいて覗き込んだ。
そこには、薄い木枠と、外に並べられた色とりどりの・・・、これも板なのかな・・・?
「これ・・・て?」
「お、千鶴ちゃん!悪いな、気付かなかった。」
楽しそうな笑顔を向けてきて、永倉さんが手を動かしては元に戻して違う板を手に取る。
「いえ、今来たばかりですから。」
「そっか?」
「はい。」
千鶴の目が、板に釘付けになっているのに気付いて、永倉さんが一旦手を止める。
「なんだ、千鶴ちゃんはこれ、見たこと無いのか?」
「はい。何ですか?」
「嵌め絵だよ。こうやってだな・・・。」
そう言いながら、永倉さんは木枠の中に置かれている板を一枚取って、もう一度嵌めて見せる。
ぴったりとくっついて、それが一枚の板のように繋がるのを、興味深く見ている千鶴に、再び笑いかける。
「絵を、作っていくんだ。板は、隣のじゃないと、絶対に嵌らない。」
「そうなんですか?」
「ああ。やってみるか?面白いぜぇ!」
そう言って、永倉さんは再び外に並べられている板に手を持っていき、一枚を取って、既に嵌められている板とあわせては首をひねり出す。
「あ、そこの絵・・・。」
永倉さんが無理やり嵌めようとしている場所の絵が、自分の目の前に置かれている絵と繋がっているように思えた。
千鶴は、その板を取ると、永倉さんの手をそっと除けて、置いてみる。
ピタッと嵌った絵を見て、永倉さんが驚いたように千鶴を見上げる。
「すげぇな!千鶴ちゃん、何で分かった?」
「んっと・・・、ここの絵です。この色と形が、こっちの絵と繋がるんじゃないかと思って・・・。」
「千鶴ちゃん、天才か!?」
「やだ、偶然ですよ。ちょうど目の前に有ったから。」
頬を染めて控えめに笑う千鶴に、永倉さんは笑い返した。
「じゃさ、手伝ってくれよ!これ、今晩までに仕上げたいんだ!」
「今晩までに、ですか?」
「ああ。何としても、今晩までに。」
「良いですけど、でも、夕方は・・・。」
「ああ、大丈夫だって。ちょっとでも手伝ってくれれば、早く終わりそうだし。」
「そうですか?じゃ、少しだけ・・・。」
はにかんで答える千鶴に、両腕を上げて喜ぶ永倉さん。
そんな無邪気な様子に微笑みながら、一緒に卓をにらみ合い、板を嵌めていく。
と・・・、段々とどんな絵なのかが分かってくる。
「あれ、この絵って、女の人の絵なんですか?」
「ん?あ、そうか、言ってなかったな。」
「はい。」
自分たちが今必死で嵌めている板の下には、女性の顔が出来上がってきている。
結い上げた髪は、島原で見るような簪で飾られている。
「綺麗な人ですね。」
「そうなんだよ!これさ、千鶴ちゃんに似てると思ったら・・・、買わないじゃいられなかったんだよなぁ〜。」
「わ、私にですか!?そんな、こんなに綺麗じゃないですよ・・・。」
「いやいや、もう少ししたら、きっとこれ以上に美人になるぜ。」
「もう・・・、永倉さんって、本当に口が上手ですね。」
「何言ってんだよ、俺は正直なんだよ。」
頬を真っ赤に染め上げる千鶴を微笑ましく思いながら、永倉さんは手を進めていく。
すると、段々と千鶴の手の動きが悪くなっていく。
「ん?どうした、もう飽きちまったか?」
「・・・・・・い、いえ・・・、あの・・・・・・。」
相変わらず真っ赤に顔を染めている千鶴を不思議そうに見つめながら、永倉さんが口を開きかけた時、障子が勢い良く開けられて、原田さんが入ってくる。
「よぉ、新八!あれ、出来上がったか?」
「左之!もう直ぐだぜ!」
嬉しそうに振り向くと、原田さんが驚いたような表情で、障子を開け放った状態で固まっている。
「ん?何だ、左之?どうした?」
「い、いや・・・・・・、何で千鶴ちゃんが・・・?いや、俺・・・、用事済んでねぇから、またな!!」
「お、おい!左之!?」
四つん這いで数歩追いかけるが、原田さんは脱兎のごとく走り去っていく。
変な奴だなぁ・・・と思いながら千鶴を振り返ると、真っ赤な顔が少しだけ泣きそうに歪められている。
「ど、どうした、千鶴ちゃんまで!左之が逃げたのが、そんなに悲しかったのか!?」
「永倉さん!こ、こ、この絵!!ぼ、没収です!!」
「ぇえ!?な、何でだよ!!!」
包まれていたであろう布に置くと、散らばった板も放り投げて包んで、千鶴も脱兎のごとく駆け出していってしまった。
「ああ!!ち、千鶴ちゃん!そりゃ無いよ!俺の今晩のおかず!!!」
残された数枚の板をかき集めて手の平に乗せると、ガクリと肩を落として項垂れた。
薄桜鬼 二次 永倉新八
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