Trarroria ciliegio5

小さなケータイの画面を三人で覗き込んでいる。

頭がくっつきそうなほどの距離、良い面してる男二人とこんな距離、心臓が早鐘を打つだろうこのシチュエーションを、私は堪能するどころではなかった。

「なん…な、な!」

「まぁ、怒るのも無理ねえよな。」

ソファーに凭れて耳をほじっている永倉さんが、溜息混じりに呟いた。

「そうだよな。これ、味とか関係なくてさ、ただの言いがかりだよな。」

千鶴ちゃんと二人でケータイを覗き込んでいる平助君が頷くと、千鶴ちゃんも何度も頷いた。

「さくらさん、言いましたよね。味で負けるなら本望、それ以外、性別とか容姿とかで負けるなんて嫌だって。」

「そりゃそうでしょう!確かにまだ学校卒業したばかりだけど、経験足りないかもしれないけど、それでも私…私…。」

悔しい。

唇を噛んで先の言葉を飲み込む私の目の前からケータイが去った。

斎藤さんが嘆息しながら自分の懐にしまったのを見て、自分のケータイを出そうとした手を、土方さんに止められた。

「そんなやっかみ、お前が見る必要はねえよ。」

「これは、あんたが出ないほうが良い。」

「ああ。けど、知らないのも嫌だろ?だから、事を起こす前に知らせたって訳だ。」

床に座り、ソファーに凭れて座っている原田さんが、エロスマイルを見せた。

おっと、エロスマイルだなんて直接的過ぎたかしら、でも絶対あの笑顔はエロい。

「っと、それは置いておいて。」

「は?」

「いやいや、それはいいから。で、事を起こすって、何ですか?」

さくらの質問を機に、全員が顔を見合わせてニヤリと微笑んだ。

「……不穏な空気を感じます!だ、ダメですよ、直接対決とかだったら、むしろ私を出させてください!!ったぁ!何で叩くんですか!」

「お前が出てったらそうなるだろうって分かってるから、俺らでやるんだろうが!」

「何で分かるんですか!こんな短い付き合いでそれが分かるだなんて、見くびってるんですか!?」

「こんな短期間で分かるほどお前の性格がガサツだってことだよ!見くびるってなんだ、きちんとした評価じゃねえか!」

「性格がガサツだなんて…、親にも言われた事無いのに!」

「そう言うって事は、自覚はあるんだな…。」

土方さんに白い目で見られてます。

自覚?自覚ですって?

いや、ガサツデハナイハズ。

ただちょっと、色々と面倒な事はすっ飛ばす性格かな?とは思うけど。

あれ、それを人はガサツと評するのか?

「…それは置いておいて。」

「…置いちゃうんだ。」

呆れたような沖田さんの声が後ろから聞こえたけど、無視したほうが良い事は、この短期間で学んでいる。

ガサツだとしても、学習能力は高いんですよ、わたくし。

「どうするんですか?」

改めて聞きなおした私の声が不安に揺れているのは分かっているらしい。

土方さんも労わるような眼差しに戻り、肩を竦めた。

「正当な方法で攻略するに決まってんだろ。」

「正当な方法って何ですか?それを聞きたいんです。」

「普通だよ。俺と千鶴と左之さんが、客にデザートを勧めるだけだよ。」

「食べれば、美味しいって分かると思うんです。」

「美味しけりゃ、また食べたいって思うだろ。」

三人が見つめ合って微笑み会う。

その団結力が、ホールの混雑をスムーズに回しているんだろうな、と感心しつつも、首を傾げないではいられなかった。

「それだけで、大丈夫ですか?」

不安げなさくらの髪の毛が後ろから引っ張られた。

「任せておきなよ。君が出たほうがややこしくなるんだからさ。」

相変わらずの物言いの沖田さんの言葉に膨れつつ後ろを振り向くと、空になったお皿をお盆に乗せて、立ち上がるところだった。

「さて、こんな甘い物ばかり食べさせられる仕事後も後わずかで終わると思うと、嬉しくて仕方ないよ。お礼に金平糖でも買ってきてよね。」

「金平糖も甘いですけどね。」

「総司、あんたは何もしないではないか。」

「一君もでしょ。」

みんなの前で堂々とコックコートを脱ぎ始める沖田さんに驚いて、千鶴ちゃんが悲鳴を上げて見えないほうに顔を向けるけれど、私はそのまま見つめ…ッチ、何で中にシャツ着てるかね、そのシャツも脱いで…あーあ、その上に直接上着か…。

「そこの痴女、お金とるよ。」

「いくら?」

「…バッカじゃないの。」

呆れて肩を竦めた沖田さんが、ベルトを緩める手を止めて座ってしまった。

ッチ。

「ま、今回は原田たちに任せる。だから、さくら。」

「はい?」

「ケーキの仕込み量、減らさなくて良いぞ。」

「でも…。」

「売るって言ったら売るよ、左之は。」

「ああ、任せておけ。」

「原田さん、頼りになるから大丈夫ですよ。」

「俺もな!」

皆が笑顔を見せてくれる。

それが嬉しくて、さくらは笑顔で頷いた。

嬉しいから、悔し涙は流さない!!


『新しく入ったデザートを作っている人、女らしいよ』

『え!!許せない!私だって落とされたのに!』

『食べなければクビになるんじゃない?』

『女が作ったデザートなんて、不味いに決まってるじゃん』

『絶対、男目当てで入ったに決まってる』

『追い出せ』

『追い出そう』

『クビにしてやれ!』


こんな低俗な奴らになんか、負けないからね。





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