Trarroria ciliegio4

暗雲垂れ込める梅雨のある日…

「やっぱりおかしい…、なんでこんなに売れ残ってやがる?」

冷蔵庫を開けた土方さんが、必要以上に低い凄みの効いた声で呟いた。

それを聞いてしまったさくらは、固まった。

だって、売れ残ってるのって…

「ごめんなさい、すいません、申し訳ありません!」

後ろで深く頭を下げたさくらに気付いた土方さんが、振り返って一瞬戸惑った後…、さくらの頭をわしゃわしゃと乱した。

…ん、撫でられたのか、もしかして…?

「それってやっぱり、あの噂…か?」

売上金の集計を終えたのか、原田さんがキッチンへと入って来て、作業台に寄りかかった。

「かもしれねぇ、何とかするか?」

「おっ、土方さんがこの手の噂の対処をしようなんて…、明日は雪か?」

「ロスったらその分損してんだよ。対処するに決まってんだろうが!」

「ごめんなさい、明日から数減らします。むしろ、作らなくて良いんじゃ…、わ、私皿洗いだけ頑張ります。」

しゅん、としょげて肩を落とすさくらの頭を、今度は原田さんがわしゃわしゃと撫でた。

土方さんよりも分かりやすく優しく労わるような動きだった。

「お前のせいじゃねえよ。噂のせいだろ。」

「噂…?噂ってなんです?」

分かっていないさくらに苦笑を送り、ケーキを皿に盛り付けて居た土方さんから受け取り、トレイに乗せた原田さんが、一つを手渡して上を指差した。

受け取って先に休憩室へと入ると、先に上がって居たみんなが思い思いの場所に陣取っていた。

そしてまだ誰も着替えていない。

「おー!待ってました!さくらちゃんのケーキ!」

「最近ケーキばかりで飽きて来たんだけど…。ねえ、お煎餅とか金平糖は無いの?」

「イタリアンの店に有るわけが無かろう。」

「私、帰り走って帰ろうかな…。」

「食べなきゃいーんじゃねーの?」

「こんなに美味しいケーキ、食べないなんて選択肢は女の子には無いの!」

「そんなもん?」

「そんなもん。」

ケーキを受け取って、プイと横を向く千鶴ちゃんに向かって、平助君が不思議そうに首を傾げた。

「そんなもんなのに、売れないなんてねぇ…」

せせら笑うように呟かれた沖田さんの言葉で、私は打ちのめされた。

と言うことは、この味は内輪受けはイイけれど、一般向けでは無かったのかもしれない…。

オレンジとレモンを混ぜたさっぱりレアチーズケーキ。

女性は好きだと思ってたんだけど、食後にはコッテリなのかな…。

再び俯いてしまったさくらに向かって、沖田さんがつまらなそうに鼻をならした。

「君のせいじゃ無いよ。」

「…え?」

「うむ。原因は、ネットの中にある。」

「何そのセリフ。犯人はこの中にいる!みたいな?一君、もしかして探偵物も好きだったりする?」

「…。」

からかい口調で斎藤さんの肩に手をかけて絡みつく沖田さんを、斎藤さんが手で押し退けた。

そうだったんだ、本棚の推理小説は斎藤さんの趣味だったんだ。

「いや、その…、土方さんが読んでいたから読んで…いや、俺は何を………」

口元を手で押さえて真っ赤になった斎藤さんを、全員がじっと見つめる。

「なっ、何でもないから、見るな!」

沖田さんを払いのけて、部屋の隅へと移動してしまった。

てか、隅って…斎藤さん、壁に向かって何をブツブツ言ってるんですか、ちょっと怖い…。

推理小説は土方さんの趣味と言うことが分かったと同時に、斎藤さんが土方さんが好きだという事が分かったよ。

「何だ、みんなまだ着替えてねぇのか。」

ドアを開けて、原田さんと土方さんが休憩室に入ってきた。

お盆にはコーヒーの入ったポット、紅茶の入ったポット、そしてカップが乗っている。

「まあね。誰かさんのせいでデザートの売れ行きが激減してるからね、その対処を考えていたんだよ。」

「ぅ、本当にごめんなさい。」

「何言ってんだよ!総司は何もしてねぇだろ!一番真剣に考えてたのは千鶴だろ。」

「ああ。あの千鶴ちゃんが鬼のような形相でケータイ見つめてるなんて、滅多に見られるもんじゃねえな。」

「一君も結構怖い顔してたよね。一君の表情が変わるなんて、土方さんの事くらいだと思ってたよ。」

土方さんの事意外で表情が変わらないほど斎藤さんて無表情なんですね。

何だか今日は斎藤さんの事が更に分かったはずなのに更になぞになりました。

「ほら、お前もちっと落ち着け。」

そう言いながら差し出されたコーヒーには、私の好みしっかり、砂糖とミルクが入っていた。

本当に、こうゆう所、原田さんて凄い。

「おい、斎藤…斎藤?そんなところで何してやがる?」

「ああ、彼のことは今ほおっておいてあげて。」

面白そうにクスクス笑いながら言う沖田さんへと向ける土方さんの視線が、またお前が何かしたのか…と語っていた。

「さてと。じゃあさくらちゃんが知らないこの謎を解いてあげようね。」

床に座ってチーズケーキにフォークを刺す沖田さんの瞳が、笑っているのに笑っていない。

自分のせいで売れ行きが悪くなっただけに、その視線だけで泣きそうになった。

「おい、お前もいいから座れ。別にお前のせいじゃねえって言ってんだろ。」

珍しく土方さんの声が柔らかくて、余計に涙腺が緩んだけれど、ぐっと堪えて頷いた。

鼻の奥がツンとした。



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