Trarroria ciliegio2
「これで、完成・・・です。」
注目されるのに慣れていない。
流石に、学校でもここまで大人数に注目なんかされない。
手が震える中、ティラミスを完成させると、何故か周囲から歓声が沸きあがった。
「後は冷やして下さい。」
自分で勝手に冷蔵庫に入れるわけにもいかないのでそう言うと、寡黙な人がサッとティラミスを運んで冷蔵庫に入れてくれた。
「じゃあ、あの、私はどうすれば・・・。」
すぐに食べて結果を知ることは出来ない。
てことは、後日電話で結果を知ることになるのだろうか。
考えていると、お店のドアが開く、チリンと可愛らしい鈴の音がした。
「あ、来たかな。」
「もう面倒だから、引き取ってもらう?そもそも、要らないんだってば。」
「いや、今日の面接は男だから。」
「男はこれ以上要らないでしょ。」
常ににこやかにしているくせに、雰囲気が尖って冷たく怖い人が、ブツブツ文句を言っている。
それに頷きながら、元気少年が横に並んでホールへと向かっていった。
他の面々も順次ホールへと行くなか、土方さん(殺人鬼じゃなきゃ、スナイパーだよね、この目つき・・・)だけが残っている。
「あの、結果はいつ出ますか?」
「・・・・・・。」
調理台の前に簡易椅子を持ってきて、座りながら紙切れを見つめている土方さんは、返事をしない。
「あ・・・あの・・・。」
「・・・・・・。」
居た堪れない、帰っていいですかね・・・。
自前のエプロンを外しながらふぅ・・・と溜息を吐いたその時、土方さんが思い出したように顔を上げて、さくらを見てしまった、と呟いた。
「悪い、考えに夢中になってた。」
「・・・いえ、いいですけど。」
何を考えていたのか気になるところだけれど、聞けない、この人には気軽に聞けない・・・。
「・・・・・・このレシピと何がどう違うのかを見てたんだが・・・。まぁ、問題は味だ。」
そうです、味です。
「それから、盛り付けセンスも見させてもらうから、・・・っと、時間は大丈夫なのか?また後日来て貰うのも悪いから、違うもので見せてもらう事も出来るが・・・。」
「あ、大丈夫です。」
ええ、大丈夫です、今無職なんで・・・。
「じゃ、上の休憩室で待っててくれ。」
天井をペンで示して立ち上がると、土方さんは先を歩いてキッチンの奥へと向かった。
よく見ると、暗い食料庫のようになっている場所の一番奥に階段があった。
先に上っていく土方さんのお尻の形に魅入りながら(ダメだ、そんな、目の前にあるからって凝視したら、いくら腕が良くても変態だってことで落とされる!)休憩室と示された部屋の前へと辿り着いた。
中に連れられて見渡すと、そこに可愛い小柄な女の子が居た。
確か、ホールでくるくるとよく働いていた子だ。
「千鶴、こいつを休ませてやってくれ。」
「あ、はい。」
ソファーに座って漫画を読んでいたウェイトレスさんが、小走りに寄ってきた。
それを見届ける前に、土方さんは出て行った。
「合格ですか?」
ニコニコ可愛らしい笑顔で聞かれて、思わず笑顔で首を振った。
「え?失格・・・?」
「いや、まだ保留です。盛り付けも見たいって言われたんで。」
「あ、そうなんですね。すいません、早とちりしちゃった。」
「いぃえぇ、気にしないで下さい。」
靴を脱いで迎え入れられた休憩室は、普通の家のリビングみたいだった。
テレビ、ソファー、テーブル、簡易キッチンもあるし、漫画が大量に入った本棚。
「何か読みますか?テレビ見ますか?」
「え・・・と、どうしようかな・・・。」
緊張しているから、何をしてても頭に入らないだろうと思いながら、本棚の前で一応物色する。
上のほうには小説や専門書も一応入っているんだ。
デザートの本もある。
よく見ると、デザートの本には付箋が張ってる。
これでレシピを選んでいるのかもしれない・・・。
と、その横にパスタの本、肉料理、魚料理、前菜、に混じって豆腐・・・(てか、豆腐の本多すぎじゃない?)。
漫画は、男の人が多いだけあって、少年漫画、青年漫画が多い。
少女漫画も隅のほうに可愛らしくまとめてしまわれている。
奥行きがあるから、きっと奥にも大量に漫画が・・・。
「何してるんですか?」
「あ、いや、奥にもあるから、何があるのかと・・・。」
ごめんなさい、まさか無いですよね、そんなね、エッチな漫画とか、女の子もいる職場ですものね、探してごめんなさい。
「奥のは古い物が多いですよ。新八さんと平助君が収集癖が有って、捨てたがらないんです。土方さんは捨てたいみたいですけどね。」
新八さんて人は、多分大味の人で・・・、平助君・・・て、あ、年下ぽい子かな、皿洗いの。
「漫画、好きですか?」
「好きですよ〜。結構雑食で、何でもいけます。」
「そうなんですか。私、ここに来てから少年漫画にはまりました。」
「少年漫画、面白いの多いですよね。」
あ、この子感じの良い子だ。
食べに来た時は、ヒソヒソ話で、この子の事を悪く言うのが聞こえてきてたけど・・・。
「受かるといいですね。というか、多分受かると思うんですけどね。」
「え?何で?」
「だって、きちんとデザートが美味しくないから、自分が作りたいって言った人初めてだから。」
「・・・・・・え?どうゆうこと?それはむしろ、不合格の原因になるんじゃ・・・。」
「いえ、うちのデザート、確かに美味しくない時あるから。よく言えば一般的、悪く言えば普通、家で食べられる、コンビニに負ける。それなのに、とても美味しいです!なんて言われてもね、味覚に問題あり・・・ですよね。」
自分のお店なのに、ずけずけと言うなぁ。
「そうゆう風に言う人が多かったんです。みんな、店員さん目当てで。製菓学校に行っていない人も応募してきたり。結構大変だったんですよ。」
「みんな、女の人?」
「はい。男の人は今日の人だけです。」
「そ・・・そうなんだ・・・。」
店員さん目当て、そっか、分かる気がする・・・。
「てことは、今日の人で決まり・・・?」
「それは無いと思いますよ。きちんと味をみて決めたいって言ってましたし。」
あ・・・良かった。
「性格見た目性別はともかく、味なら負けても悔い無しです!」
「頑張ってください。ティラミス楽しみにしてます。女の子増えて欲しいですし。」
良い子だぁ。
頑張る、男に負けない!
「さくらさんが来てくれたら、嬉しいです。」
「・・・名前・・・。」
「勿論、知ってますよ。お店と同じ名前。」
ホント、そんな志望理由でごめんなさい・・・。
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