Trarroria ciliegio

ずらっと並んだコックコートの男性方に注目されながら、さくらは緊張しながら頬を軽く染めて俯いた。

「へぇ。志望理由って、それ?」

若干の揶揄を感じながら小さく頷くと、恐らくは発言者の失笑が聞こえた。

「君さ、うちがどんなお店か知ってる?」

「ぁ、はい。応募する前に一度食べに来ました。」

「一度・・・?」

さくらの言葉に、おうむ返しの生返事。

心配になって顔を上げると、全員が怪訝そうな顔をしていた。

しまった・・・、やっぱり一度しか食べに来ていないなんて間違いだったんだ・・・。

「てことは、もしかして募集しているのを知ってから食べに来たのか?」

声のした方へと顔を向けて、怯んだ。

色気がかもし出されている淫らな顔立ち・・・と言ったら失礼に当たる、自分、ちょっと抑制せよ、ここは戦場だ。

この返事次第できっと決まってしまう。

何故だか、そんな気がする。

だって、全員の目が自分を値踏みしている。

「は、えっと、いや、その、入ろうとしたお店がたまたま募集していただけで・・・。」

こんなにしどろもどろじゃ、嘘をついているのがバレバレだ・・・。

「だから、うちのファンとかってぇ訳じゃねぇんだな?」

先ほどよりも砕けた口調になって、肩から力を抜いたお色気お兄さん(だから、自分失礼だぞ、ここは踏ん張りどころだ)が、目元を和らげた。

「ふぁ、ファン!?」

あ、声裏返った、もう取り返しつかない・・・。

「すいません、ファンでは無いです・・・。で、でも、あのですね!一回来た時に、すごく美味しいと思ったので!パスタのソースとか、本当に美味しかったので!」

「デザートは?」

「デザート・・・は・・・・・・。」

真正面、全員の真ん中に座っている人が、目を細めて威圧してきた。

こんなに緊張する面接の半分以上の原因はこの人だ。

綺麗な顔をしているから、余計に怖い。

これは、失礼だぞ・・・なんて自分に突っ込みを入れている場合じゃない、この人は視線で人を殺せる、本物だ。

「あ、あの・・・、お、美味しかった・・・ですよ。でも、私の方が上手く作れるかな…なんて…ははっ。」

「ほらなぁ、これがお客さんの意見だって。」

「だが、デザートの売れ行きも好調だ。」

「そぉれぇは、長居したいから頼んでくれるだけだって。こっちとしては、さっさと帰ってくれたほうが、回転率も良くなって売り上げアップに繋がるんだって。」

物静かに、けして視線を合わせようとしない男性と、さくらを揶揄した男性が、勝手に話し始めた。

だれもそれを止めもせず、むしろ頷いている。

「だからさ、要らないんだって、美味しいデザートなんて。余計長居されちゃうでしょ。ね、土方さん。」

「そっかー、確かに総司の言う通りかもな。」

お色気お兄さんの隣の、小柄な子が、頭の後ろで両手を組んで椅子にもたれかけた。

元気に跳ねている髪の毛が揺れるのを眺めていると、バチッと目が合って、ニカッと笑いかけられた。

思わず笑顔を返してしまい、お陰で肩の力が抜けた。

年下・・・だろう、な・・・。

この無邪気さは、眩しい。

「いや、どうせ長居されんだから、デザートの追加注文されるくらい美味いもんを出したいじゃねぇか。」

「原田の言うとおりだ。そうゆう理由があって、今回募集したんだ。」

「ふぅん、そうゆう事。」

なるほど、そうゆう事か。

って、私はよく分からないんですが・・・。

「お前、明日の同じ時間に来い。」

「・・・・・・え?」

同じ時間に来い・・・って事は、もしかして・・・

「合格ですか!?」

「違う。実際に作ってみろ。今から余ってる材料で作らせてもいいが、きちんと作ったらどんな物を作れるのか知りたいから、必要な物を言っていけ、用意しておく。」

「・・・えと、今から作る物を考えるんですか・・・?むしろ、何か提案してもらったほうが・・・。」

「得意な物でいい。」

そう言われても・・・・・・。

あ、でも、じゃあ・・・。

「じゃあ、来た時に食べた、ティラミスを。定番だと思うので。」

「あー、ティラミスなぁ。じゃあ、お前が食べたのって、いつだ?」

「えっと、ちょうど一週間前です。」

「お前が電話してきた日じゃねえか。」

「はい。食べた後すぐ電話したので。」

「・・・てことは、新八が作った日か。」

「新八さんのて、何でも大味なんだよねぇ。」

「わ、悪かったな!俺の専門はデザートじゃねえんだから、しかたねぇだろ。」

「しかし、レシピ通りに作れば、ああはなるまい。」

「一番しっかりレシピ通りなのは、一君だよな。」

「だから、味に面白みが無いんだよね。」

「総司、あんたのはアレンジが効きすぎて、既に別物になっている。」

「だからさぁ、俺に作らせてくれれば、とびきり美味いもん作ってやるっていってんのにさぁ。」

「皿洗いは黙ってろ。」

「なっ!ひ、酷ぇ!土方さん!俺皿洗い卒業してもいい頃じゃねえ!?」

えっと・・・、私置き去りなんですけど・・・。

戸惑っていると、す・・・と目の前に紙とペンを差し出された。

スッと細く大きな手に、フライパンで出来ただろうタコが見えて、思わずうっとりとしそうになった。

ヤバイ、相手は目線で人を殺せる人なのに、指先で私をコロッといかせようとするなんて・・・、やっぱり本物だ・・・。

「そこに、材料を書いておけ。書いたら原田に渡せ。俺は夜の仕込みに戻る。お前らも戻れ。」

顎で指示を飛ばして立ちあがった目の前の殺人鬼(おっと、流石にこれは言い過ぎかも)が去ると、他の面々も立ち上がり、伸びをしたり、腕をまくったり、手を振ったりしながら去っていった。

残された原田と言う人が、お色気お兄さんだった。

チラチラ盗み見しながらも、材料を書き上げると、それを察したのか近づいてきた原田さんから、ふわりと甘い香りが漂ってきた。

あ、これ、何だっけ・・・。

「書けたか?」

「はい。」

手渡すと、文字を目で追いながらうんうんと頷いた。

「うちのレシピとそんなに変わらないな。へぇ、これを入れるのか。」

何がどう違うのか分からないけれど・・・。

「あの、原田さんは仕込みしなくて良いんですか?」

「ん?ああ、俺はドリンク担当だから。」

背後のカウンターを親指で指しながら言うと、原田さんはメモをポケットにしまった。

そっか、この香り、何種類かのお酒が混じってるんだ。

「じゃ、明日また同じ時間に。楽しみにしてるぜ。」

軽くウィンクをしながら、原田さんが店のドアを開けてくれた。

お辞儀をして店を出ると、原田さんがクッと笑った。

「志望理由、良かったぜ、さくら。」

振り返ると同時に短く告げられた、その笑顔に思わずクラッとした。

志望理由、店の名前と同じ名前だから・・・。

こんな理由で、良かった・・・んですか?

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