正夢 剣道部シリーズ
「先生!土方先生!!」
朝から探していたのに、何故か一日会うことが出来なかった土方先生。
まるでこちらの動きを把握して避けているかのようで…
部活の時間も終わり間際にやっと姿を表した土方先生へと駆け寄って、袖口をしっかりと握りしめた。
「なんだ?」
勢いに驚いた表情で見下ろしてくる土方先生から、ぷん…と紫煙の匂いが漂ってくる。
「先生、今日はどこに行ってたんですか?私、朝からずっと探してたんですよ!」
不貞腐れた、頬を膨らます仕草で睨みあげながら言う私に、先生は片眉を上げて怪訝に伺ってくる。
そして、嫌そうに顰めた。
「お前が俺に用がある時は、ろくな事があった記憶が無えんだが…?」
「失礼ですね…。」
本気で頬を膨らませて睨みつける私の頭を軽く叩いて、すり抜けて行こうとする先生の袖口を引っ張って阻止すると、正面に立って行く手を阻んだ。
「先生!ちゃんと聞いて!」
「何だよ、本当に用があったのか?」
「有るから探してたんじゃないですか!重ねて失礼ですよ。」
「じゃあ、早く言え。」
面倒臭いと顔が告げて居る。
それにもめげずに、土方先生の顔を正面から見つめて、口を開いた。
「先生、今日私の夢に出て来たんですよ。」
「………それで?」
何を言いたいのか探るように、瞳を眇めて見つめ返してくる。
「先生が、私のことを好きで好きで堪らないらしくて、強い敵からも守ってくれたんです。」
「…ほぉ。」
せっかくの甘い設定も、今の反応で一気に色褪せるんですけど。
呆れたように顎を人差し指で摩る土方先生の髪が、風でサラサラとそよぐ。
「でも、敵が強すぎて私が攫われて、先生が落ち込んじゃうんです。それを、剣道部の皆がどんちゃん騒ぎで元気付けて、追いかけて来てくれたんです!その後の先生は、無敵の強さで剣道部の皆も敵も倒して、私を助けてくれたんですよ!」
私の話を最後まで聞いた先生が、小さな溜息を吐き出して私を押しのけた。
「そりゃ壮大な夢だな。お疲れさん。」
「お疲れさんって…、先生、これは正夢ですよ!正夢!」
「何で俺がお前を好きで好きで堪らないのが正夢なんだよ。」
「でも、正夢なんです。」
「俺は生徒に手を出すほど落ちちゃ居ねえよ…。」
肩を大きく上下させて溜息をつくと、先生は剣道場へと入って行った。
そして、一瞬の間を置いた後、怒声が鳴り響いた。
「てめぇら!!何してやがる!!!?」
「わああぁぁぁぁ!!!」
土方先生の怒声の後に続く悲鳴の数々、開け放たれたままの扉から、ひらりと沖田が飛び出て来て、ニヤリと悪魔的な笑顔を向けてから、すれ違い去って行った。
「雪村!何で止めなかった!!」
「ご、ごめんなさい!マネージャーと止めたんですけど…!」
「マネージャーと止めただと!?あいつが止める訳ネェだろうが!良いように誘導されて参加させられてんじゃねぇか!」
あら、私が誘導して参加させただなんて…。
「マネージャー!!」
怒りをあらわに、顔を真っ赤に染めた土方先生が飛び出てくる。
「私は誘導してませんよ。沖田ですよ。」
「総司かっ、総司!!」
振り返り、道場内に既に沖田が居ないことに舌打ちをして、再び振り返り、拳を震わせる土方先生が何かを言う前に口を開いた。
「沖田なら、既に逃走しましたよ。」
「あいつは後だ。てめぇも!誘導はしなかったかもしれねぇが、止めなかったんだな!?」
先生てば、何で私が止めないって決めつけて来るんだろ…。
これは…
「愛ですね?私のことを知り尽くしているなんて。」
「てめぇと総司がろくなことしねぇって覚える事が、愛なわけねぇだろうが!さっさと片付けろ!」
剣道場の中を覗き込むと、食べ尽くされた焼き鳥の串が散らばり、空き缶が転げている。
その中心で、永倉先生が大の字で大いびきをかいて寝こけている。
更に、その周りで円を描くように、部員たちも真っ赤な顔をしてヘラヘラ笑ったり、泣いたり、怒ったり、訥々と語ったり…。
「あーあ、だから正夢だって言ったのに…。」
先生のスーツの裾を握りながら呟くと、目敏くそれを直ぐに振り払われた。
「正夢って、そっちの事か…?じゃあ、朝からこーする予定だったって事か?」
「そーでーす。沖田が、朝からルンルンで準備してましたよ。一応、土方先生にだけは、朝からチクろうとしてあげたのに、先生てば今日に限って私を避けまくるから…」
一応、本気で避けられたことに傷ついている、というアピールを忘れない。
悲しい顔を向けて見つめると、土方先生は額に手を当てて、天を仰いだ。
「今日は出張だったんだよ…。」
「…成る程!だから沖田がこんな事をしたのね。私でも流石にこれはやり過ぎと思ったからねー。未成年の飲酒は、しかも校内で。洒落にならないからね。」
「洒落にならねぇよ!!だから、さっさと片付けろ!」
「あれ?証拠隠滅ですか?隠蔽ですか?」
「………マネージャー。」
土方先生が、低く鋭い声で囁いた。
久しぶりに、心の臓をわしづかまれましたよ、先生…。
「剣道部存続の為には、時として鬼に、悪にならなきゃならねぇ時も有るんだよ…。」
「大人って、汚いですね。都合の悪い時にはそうやって…。」
「誰のせいだ、誰の!!」
はいはい、沖田のせいですけどね。
それは言わずに、若干泣きそうな土方先生の顔を見られたので、片付けに加わりますか。
「先生、永倉先生はどうしますか?」
「殺る…」
「ラジャ!」
薄桜鬼 二次 剣道部シリーズ
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