お正月拍手 2014 藤堂
「こっちこっち!!」
元気良く息を弾ませながら、私の手を引いて早歩きをする平助君。
「この間知ったんだけどよ!」
一体何を知ったのか、家を出るまで教えてくれなかった彼が、やっと言葉にしてくれるのかと期待したのに、その言葉は途切れてしまった。
目の前には、一列に並んだ人々。
その先はまだ見えないけれど、この時期に並ぶ人なんて、どこに来たのか決まっている。
「初詣?」
「ん?そう。初詣!」
日付が変わって家を出た私たち。
いつも行く神社とは違う道へと進もうとする平助君に手を引かれ、何も言わずに従ってきたけれど・・・。
「いつもの場所じゃダメだった?」
近いのだから、そっちで良いのに・・・。
なるべく身体を冷やしたくないのだから。
せり出したお腹を守るために、平助君に夏用の薄掛け布団を巻かれて、お腹の重み以上に重い・・・。
「明日、暖かい時間じゃダメだった?」
「ダメだ!」
いつもなら、自分の意見を優先にしてくれる平助君も、肝心な時は自分を貫く。
きっと、彼の中では何か大事な事があるのだろう。
そう思って、肩を竦めて列に並んだ。
「ね、そろそろここじゃなきゃいけない理由、教えて?」
「お参りする前な。」
「何で隠すの?」
「まあ、お楽しみって事!」
太陽のような笑顔を見せてくれる平助君の、自信満々な様子に、私も笑顔になる。
「お腹、大丈夫か?寒くないか?もっと巻いてくれば良かったかな?」
私の首に巻かれている襟巻きを直しながら、顔を覗き込んで、さっきまで笑顔だったのにもう不安顔。
「大丈夫だって。これ以上巻いたら、重くて歩けなくなっちゃう。」
それに、流石に恥ずかしい・・・とは、心配して巻いてくれた平助君に悪くて言えなかったけれど。
「ん〜。じゃあ、こうするか?」
自分の羽織を開いて、私を抱きしめて包み込んだ平助君。
顔を上げてみると、神社からさしてくる灯りに照らされて、ほんのりと頬が赤く染まっていた。
「暖かいけど、・・・歩けないよ。」
流石に人前での恥ずかしさから、俯いて抗議すると、今度は後ろから抱きしめてくれた。
けれど、平助君の羽織が私の肩で足りなくなる。
「これじゃ、お腹に届かねえじゃん・・・。」
言うが早いか、平助君が羽織を脱いで逆向きに私にかけた。
「これじゃあ平助君が風邪ひいちゃう!ダメだよ!大丈夫、薄がけのお陰でお腹は温かいから!」
「でも・・・。」
「お父さんが風邪ひいちゃったら、私にもうつって、赤ちゃんに悪い影響が出ちゃうよ?」
平助君に返しながら説得すると、納得しつつも不服そうに受け取って、袖を通し始めた。
「ん〜、そっか・・・。でも、寒くなったらすぐに言えよな!」
「うん。有難う。」
微笑んで、残念そうにする平助君の手を握ると、自分の袖の中に隠して暖めてくれた。
鳥居をくぐって、いよいよ自分たちの番が近づいてきたとき、平助君がやっと教えてくれた。
「ここさ、夫婦円満、子宝祈願、安産祈願で有名なんだってさ。」
「・・・それで、ここに?」
「少し遠かったかもしれないけど、来れない距離じゃねえだろ。なんか、日が昇るともっと人が増えちまうらしくってさ、あんまり長時間待つのもお腹に悪いだろ〜。だから、夜のうちにさ・・・。」
「そうなんだ・・・、そこまで考えてくれたんだね。」
嬉しくて、平助君の手を強く握り締めると、キュッと握り返してくれた。
自分たちの番が来て、やっと神社の全貌が見えた時、垂れ下がる提灯の灯りに照らされて、『夫婦円満』『子宝祈願』『安産祈願』と書かれた横に、もう一つ見えた。
ハッとして隣を見ると、既にお賽銭を投げ入れて祈っている平助君。
その顔は真剣で、声を掛けられなかった・・・。
私も、用意していた額よりも多く投げ入れて、真剣にお祈りをした。
夫婦円満よりも、大事な事のために、安産祈願と一緒に、一生懸命祈った。
ここに連れてきてくれた平助君は、きっと知られたくないから言わなかったのだろうと思い、私の口からは何も言わない。
『夫婦円満』『子宝祈願』『安産祈願』『延命祈願』
祈願を終えて、手を繋いで帰る道すがら、私は平助君にお礼を言った。
「有難う。安産祈願・・・これでご利益ばっちりだね。」
「おう!絶対に可愛い女の子だぜ!」
「え?平助君みたいに格好いい男の子じゃなくて?」
「ん〜・・・・・・、健康なら、どっちでも良い!」
「うん。そうだね。」
薄桜鬼 二次 藤堂平助
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