お正月拍手 2014 原田
ゴーンと鳴り響いてくる鐘の音
「お、始まったな。」
耳を澄まして、お猪口を口元へと持っていき、クィッと飲み干す姿は、とても絵になっていると思う。
「今年も、無事に聞くことが出来ましたね。」
一年を無事に乗り切った感慨深さを感じながら、徳利を持ち上げると、こちらにお猪口を差し出して、さらりとした笑顔を向けてくる。
傾けた徳利から、静かな水音が流れてお猪口へと注がれていく。
その様子を、瞳を細めながら見つめているだろうと思って顔を上げると、視線は何故かこちらに向いていた。
「なにか?」
瞳を瞬いて、少しだけ首を傾げると、向かいの相手はゆっくりと首を振った。
「いや、何でもねえ。ただ・・・・・・。」
閉じられた障子へと視線を投げて、長い腕を伸ばして、少しだけ開ける。
冷たい風が隙間から吹き込んできて、ぶるりと震えが走ったけれど、咎める気にはならなかった。
彼が何を見ているのか、分かったような気がしたから・・・。
「静かに過ごすのも良いですけど、賑やかなのも懐かしいですね。」
外を眺めながら、きっと過ぎ去っていった日々と、離れてしまった仲間たちを見ているのだろう。
邪魔してはいけないかな・・・と思い、少しの間黙って見つめていた。
部屋の中の灯り、そして外からの闇。
まるで、昔と今の対比のように感じてしまう。
ぬるま湯に浸かったような今の生活に、もしかしたら罪悪感を感じているのではないか・・・と、思うときがある。
一人で外を眺めている時、近寄ってはいけないのだと・・・。
きっと、一人で思い出して、気持ちの整理をつけて、そして振り向いた時にはいつもの笑顔で。
沢山の感情を心の中に仕舞い込んで。
「悪いな、いつも。」
不意に、振り向かずに声を掛けられて、驚きのあまり声が出なかった。
「俺がこうしてると、何も言わずにそばに座って待っててくれたろ。」
返事を期待した声かけでは無かったのか、そのまま言葉が続いていく。
「振り向くと、そこにはお前の笑顔があってよ・・・。俺は、その笑顔を見る度に、これで良かったんだって思えるんだぜ。」
こちらを見ずに紡がれる言葉の端々から、甘さが滲み出している。
「いつも、こうやって外を見る度に、お前を不安にさせてるって、分かってたんだがよ・・・・・・。」
障子を閉めて振り返り、私を見つめてくる顔は、いつもの笑顔に少しだけ苦いものが混じっていた。
「俺が安心するために、お前を不安にさせちまって・・・・・・悪かったな。」
「・・・・・・左之助さん。」
手を引かれ、お酒でほんのりと火照った左之助さんの身体に抱きしめられて、私はその胸に頬ずりをした。
「いいえ、不安になんか・・・。そんな贅沢な事、思えません。」
「何が贅沢なんだか・・・。お前はもっと欲張りになっても良いんだぜ。」
「そんな・・・。こうして生きて傍に居てくれて、子供の面倒もみてくれて、いつも優しくしてくれて・・・。これ以上の贅沢なんか・・・。」
これ以上何かを望んだら、いけない気がして・・・。
外を眺める左之助さんを見る度に、自分が彼の人生を変えてしまったんだという想いが心にひっかかっていた。
彼は笑顔で、自分がそうしたいからそうしたんだと、言ってくれるけれど・・・。
それでも、先に進んでいった仲間たち、最後の一瞬まで国の為に命をかけた彼らのように、左之助さんも生きたかったのではないか・・・と、思ってしまう時がある。
外を眺める左之助さんの胸に様々な思いが去来しているように・・・。
「あいつらの分までお前を幸せにするのが、俺の務めだと思ってる。」
私の心を見透かすように、強く抱きしめながら左之助さんが囁く。
「外を眺めるのは、その再確認と、幸せの報告のためだ。だから・・・、お前が不安に思ったり、罪悪を感じたりする必要はねえんだ。」
「左之助さん・・・。」
「そんなのは、今年で終わりにしちまえ。んで、来年になったらよ・・・・・・いや、今から・・・。」
囁きが耳元へと近づき、左之助さんの唇が耳に触れ、首筋に触れ・・・。
「あいつらの分まで・・・いや、除夜の鐘の分、子作りしようぜ。」
「子・・・作り・・・って!・・・・・・もうっ!除夜の鐘は煩悩を打ち払う為のものですよ!」
「煩悩じゃねえよ。俺たちの使命だ。あいつらの分まで、幸せに生きた証だろ?」
「・・・そ、そうなんでしょうか・・・?」
「ああ。だから、死ぬまでに何人産めるか分からねえが、除夜の鐘目指して、がんばろうぜ。」
私を押し倒しながら、帯を解いていく左之助さんに身を任せながら、自分から唇をついばんだ。
「・・・・・・何だかやっぱり違う気がします・・・。」
「気にするな。」
「・・・はい。」
薄桜鬼 二次 原田左之助
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