三太の勤め 2013Xmas
「ほう・・・、くりすます・・・とやらがあるのか。」
首を傾げながら、私の話に相槌をうつ斎藤さん。
その横で、瞳をキラキラとさせながら大きく頷くのは、その話を一緒に仕入れてきた、平助君。
「そうなんだよ!だから、協力してくれるよな!」
「協力・・・?一体何を協力すると言うのだ?」
話が一気に飛躍していることにも気づかずに、興奮気味にまくし立てる平助君へと、斎藤さんが渋い顔で眉根を寄せた。
「あの、ですね。二十四日の夜に、みんなの枕元に贈り物をすると、幸せが訪れるそうなんです。」
「そんでもって、自分らも足袋を枕元に用意しておけば、誰かが贈り物を入れてくれるらしいんだ。」
確か、そんな話だったような・・・?
平助君が途中から興奮しだして、話を最後まで聞けなかったのが残念なのだけれど・・・。
要は、みんなの枕元に贈り物をすると、翌年良い年になる、という縁起を担いだ行事なのだろうと、納得したのだった。
「足袋を用意しただけで、一体誰が贈り物をしてくれると言うのだ。」
真顔で疑問を口にする斎藤さん。
「さんたさん・・・とか言ってたっけ?」
「三太・・・?それはどこの家の三太だ?」
「は?どこの家・・・?え・・・っと、おい、どこの家だって言ってた?」
「家?家なんか聞いてないですよ!?」
「ならば、礼をすることも適わぬでは無いか。贈り物を貰っておいて、礼をせぬとは、人道に反する。夜中に来るまで待って、その場で礼をするしか無いな。」
「い、いえ、斎藤さん・・・。」
「それが・・・さ・・・。」
斎藤さんの言葉はもっともなのだけれど、聞いた話によると・・・。
「その三太さんってぇのはさ、何でも恥ずかしがりやらしくて、姿を見られるのが嫌なんだってよ。」
「それから、自分たちが贈り物を持って行くときも、姿を見られないようにしないといけないって、聞きました。」
慌てて説明する私たちに、斎藤さんの鋭い瞳が向けられた。
「顔を見せる事が出来ぬような不埒な輩から、贈り物を頂くわけにはいかぬのではないか?寝首をかかれるとも限らん。」
「いや、え、そ、そうですけど・・・。」
「三太さんは、すっげぇ良い人なんだから、まさかそんな事するわけねえだろ?」
すっかりと、くりすますとさんたさんに夢中になっていた平助君は、斎藤さんの言葉にも流される事無く、嬉しそうな笑顔で否定した。
「だって、世界中の子供たちに贈り物をして回っているって話だぜ!」
「それは、毎日がさぞ忙しいことなのだろうな。」
「違うって。十二月の二十四日の夜中だけだよ。」
「ほう、三太とやらは、沢山居るのか。三太と名づけられた者の共同体でも作っているのか?」
「違うって!三太さんは一人だってば!」
「・・・何ゆえ、一人の三太とやらが、一夜で世界中の子供の家を回れるのだ?」
「・・・いや、それは・・・・・・なんか、くりすますの、奇跡・・・とか何とか、言ってたけどよ・・・。」
「奇跡とやらで、一夜にして世界中の子供に贈り物が出来ると言うのか?」
眉根を最大限に寄せて、斎藤さんが疑問を吐き出す。
戸惑いを感じている様子がひしひしと伝わってきて、私も流されるように戸惑いを感じるようになってきた。
けれど、平助君は斎藤さんの言葉に光明を得たとばかりに笑みを深くして頷いた。
「そうなんだよ。奇跡なんだよ!」
あまりに強く断定するものだから、斎藤さんもそれ以上「奇跡」について言及する気にならなかったようで、
「そうか。」
とだけ呟いた。
「だからさ、はじめ君も手伝ってよ。俺たちもみんなに贈り物をしたいから、その日は早く寝てもらおうぜ。特に土方さんな!はじめ君の言う事ならきくかもしれねえからさ。」
「このような一介の私情で副長の仕事を妨げるわけにはいかぬ。」
「でもよ、毎日夜中まで仕事してたら、倒れちまうよ。だから、その日くらいゆっくり寝てもらってもいいだろ?」
「しかし・・・。」
「私からも、早く寝るように言うつもりですけど・・・、私が言ったところで聞いてくれるわけありませんし。」
「そうそう。俺が言ったら逆効果だしよ。」
「そうだな。」
「・・・そこは否定しようぜ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・。」
否定の言葉が見つからなかったのか、それとも否定してくれという事自体に反論が浮かばなかったのか、しばしの沈黙が流れた後、平助君がガッカリしたように溜息を吐いた。
「いいよ。どうせ・・・・・・。」
「す、すまぬ・・・。」
斎藤さんが気まずそうに俯いた。
と思ったら顔を上げて、首を傾げた。
「で、疑問なのだが・・・。」
「何でしょう?」
「三太とやらは、世界中の子供に贈り物をすると言っていたが、それが何ゆえ平助とあんたにも・・・?」
「え・・・?」
「あんたも平助も、子供では・・・・・・。いや、あんたはまだ確かに若いが・・・・・・。」
「え・・・・・・?」
「あ・・・・・・。」
一瞬にして固まる私と平助君を見て、斎藤さんが伺うように瞳を数度瞬きしてから、俯いた。
「・・・・・・すまぬ。」
「い、いえ!じゃ、じゃあ私が平助君の分も用意します!元々そのつもりだったし。」
「お、俺は勿論あげるつもりだったぜ!」
「それでは、ただの贈り物の交換・・・・・・そうか、くりすますの贈り物とは、お歳暮の事だったのだな。うむ、やっと納得した。ならば、協力しよう。」
「・・・・・・そ、そんな話だったかな・・・?」
「お歳暮・・・・・・。」
その年、屯所内でのお歳暮の交換が密かに流行した・・・。
薄桜鬼 二次 藤堂・斎藤
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