薄紫に秘めた 剣道部シリーズ

パチパチと爆ぜる音が、目の前の葉の山から聞こえてくる。

この音を待っていた。

と、言うか、その中のものを待っているのだ。

「おい、そこで何してやがる?」

不機嫌そうな声に呼びかけられて振り返ると、声で分かったけれど・・・案の定土方先生。

「焚き火ですよ。」

「見りゃ分かる。」

「見りゃ分かるって・・・、なら聞かないで下さいよ・・・。」

半目になって睨むと、不機嫌に顰められた瞳が、更に細くなる。

「許可した覚えはねえって意味だよ。」

溜息混じりに言いながら、焚き火に近寄ってきて、膝を落とした土方先生が、焚き火に手を当てた。

「許可は、永倉先生に頂きましたよ。」

「あの野郎・・・。」

眉根を寄せて凄みを作った顔をしながら、懐を探って、取り出したのは煙草。

シュポッ、と、ライターに火がともる音がして、すぐに紫煙がくゆり始める。

「先生、煙草・・・。」

「裏庭で煙草吸って良いのは、教師だけだからな。」

「いえ、私は吸わないですよ。」

そうじゃなくて、教師でも裏庭で煙草を吸っていいのか?と聞きたかったんだけど・・・。

許可をした覚えは無く、文句を言いに来た風情の土方先生が、それ以上何も言わずに横に座って・・・・・・。

と言うか、先生・・・。

「その姿、いっぱしのヤンキーですね。」

「今時ヤンキーとか言うお前のボキャブラリーが心配だよ、俺は・・・。」

溜息と共に煙を吐き出す土方先生。

一応気を遣っているのか、反対を向いているのだけれど・・・、風向きで全てこっちに流れているんですけどね・・・。

「先生、文句があったんじゃ?」

「文句は新八に言う。」

「焚き火は良いんですか?」

「良くはねえよ。けど、お前一人で火の管理させてる方が問題だろ。」

再び煙を吐き出してから、こっちを向いた土方先生の顔が、炎に照らされてほんのりとオレンジ色に色づいている。

「剣道場の裏を掃除しろとは言ったが・・・、落ち葉集めて焚き火してるとはな・・・。しかも、お前一人で・・・。」

「私だけじゃなかったですよ。ちゃんとみんな居ました。・・・あ、沖田は早々に逃げ出しましたが。」

掃除と聞いた瞬間、『じゃ、僕は用事があるから。』とのたまって、去っていった沖田を思い出して、苦虫を噛み潰したような顔になってしまった。

横を見ると、土方先生も同じ顔をしていた。

「で、何で今はお前だけなんだ?他の奴らは?様子を見に来てみれば、まだ誰も剣道場に居ねえし・・・。」

「あ〜・・・、そんなに大勢居ても意味無かったので、平部員たちはランニングさせてます。他の、千鶴ちゃんや斎藤たちは今、飲み物を買いに・・・。」

「は?」

「だって、お芋って喉に詰まるでしょ。」

私の言葉に、土方先生は呆れたように、短くなった煙草を吸い込んで、焚き火の中に投げ入れた。

「芋・・・ね。」

呟いてから、こちらをじっと見つめる。

・・・・・・ヤバイ・・・、何だろう、普通の会話になってしまっている・・・。

土方先生を弄りたくて仕方が無い者としては、ここで何かを仕掛けたいのだけれど・・・、何もネタが無い・・・。

「だからって、全員行かせること無えだろう。」

「平部員の分もってなると、手が足りないって。うちの学校、自販しか無いから。」

「抱えてくりゃ、一人五本でも六本でも持てるだろ。平部員の分て、そんな人数居ねえだろうが。」

・・・でも、千鶴ちゃんの手助けをしたいってみんなの下心を弄るためのシチュエーションは見逃せなかったって言うか・・・、どうやってからかってやろうと考えていたって言うか・・・。

「火傷でもしたらどうするつもりだ・・・。」

「・・・火傷?」

「手ならまだしも、顔とかに火が跳ねたら、危ねえだろ。もう一人、男が一緒に居るのが当たり前・・・つーか、教師が一緒に居るのが当たり前だろ。」

「・・・永倉先生はお財布として同行しましたよ。原田先生は今日は会議って言ってたし。」

「財布だけ渡せば良いんだよ。」

「そうしたら、全部使われるからって、恐怖に慄いて、いの一番に飛び出していきました。」

「・・・・・・使えねえ野郎だ・・・。」

渋い表情のまま呟く土方先生。

もしかして、心配してくれてます・・・?

「一応、そこにバケツ二杯分の水、用意してますよ。」

「お前がそうゆう所、キチンとしてるのは知ってる。だが、生徒を心配するのが教師の務めだ。」

「・・・・・・先生、私だから心配だって、言ってみてください。」

「断る。」

「即答ですか。」

「当たり前だ。ガキに興味はねえ。」

「なら、千鶴ちゃんにも興味は無い?」

「当たり前だろうが。」

・・・・・・なら、いいや。

うちの部のマドンナは完璧だからな・・・。

「薄紫 秘めた思いに 恋焦がし」

「・・・なんだそりゃ。芋の歌か?」

「・・・芋?・・・・・・いいですよ、それで。」

「何だ、違ったのか?」

「先生、本当に国語教師ですか?」

「どうゆう意味だ。」

「率直な歌ばかり作ってるから、こんな簡単な歌も分からないんですよ。」

「・・・・・・なんだと?」

「春の月 山の南――」

「てめぇ!どっからそれを!?」

「あれ?私は歌を詠んだだけですけど?これが何か?」

「―ッ!!何でもねぇ!!」

不貞腐れたように横を向いてしまった土方先生の頬が、先ほどよりも赤みを増した気がした。





薄桜鬼  二次  土方歳三

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