風邪をひいたあなたへ
風邪をひいたあなたへ…
「大丈夫か?」
枕元までやってきて、腰を折って顔を覗き込んでくる土方さん。
ちっと舌打ちをして、眉間に皺を刻んだ。
「赤い顏してやがるな。熱があるんだ、ゆっくり寝てろ。」
額に大きな手を当てて、でも一瞬だけで離してしまって…。
思わず寂しげな瞳を向けてしまうと、土方さんの瞳が一瞬だけで揺らいで、額に触れるか触れないかの距離で留まっていた手を、頭に乗せて優しく撫でてくれた。
「すぐ帰るなんて言ってねぇだろ。今日は居てやるから、安心して寝てろ。」
優しくそう告げて、土方さんはベッドに凭れて座り、鞄から書類を取り出した。
そっと手を布団から出して土方さんに触れると、「冷えるからちゃんとしまっておけ。」と言いながら、そのまま触れさせてくれていた。
顔を覗き込んできたのは、沖田さん。
悪戯したそうに瞳を細めて、だけどその奥に不安気な揺れが見え隠れしている。
「熱…ねぇ。ふぅん、それで今日のデートはすっぽかしって訳だ。」
ベッドに座って、熱で赤くなった頬に触れながら、沖田さんが焦ったように言葉を続ける。
「冗談だってば。分かってるよ、わざとじゃないことくらい。なにも泣くこと無いでしょ。」
頬に触れた手が、優しく涙を拭ってくれるから、その優しさに余計に涙が溢れてくる。
「はぁ…、熱にうかされてるからって、無防備過ぎ。可愛過ぎて今すぐ襲っちゃいたくなるでしょ。」
布団の中に隠れていた手を探り当てて、そっと握り締めてくれた。
「襲っても風邪が悪化しないように、早く良くなってよね。」
コクリと頷くと、沖田さんが短いキスをしてくれた。
「はい、これでうつったから、もう大丈夫。それで、明日は僕が看病してもらう番だからね。」
悪戯な瞳を弓月に細めて、微笑んで、ベッドの隣に寝転がってきた。
「これを…。」
すっと差し出されたのは、市販の風邪薬数種類と、お粥と数種類の薬味が乗ったお盆。
「ただ風邪とだけ聞いた故、どの風邪か分からず…。」
風邪薬の多さに瞳を見開いていると、頬を少しだけ赤く染めて、斎藤さんが告げた。
「備えあれば憂いなしと言うだろう。これだけ揃っていれば、次また何があっても、直ぐに対処出来るだろう。」
怠そうに起き上がると、パジャマ姿に照れてしまったのか、視線をそらして、顔までそらして。
そんな斎藤さんの耳が、赤く染まっている。
「暖かくなり、発汗するものばかりを選んだ。好きなように食べると良い。」
お礼を言ってお盆を受け取り、早速梅干しをお粥に落とそうとしたら、斎藤さんが「っ!」と、声にならない声を上げた。
「梅干しは味が口に残る。最後の方に食すことを勧める。」
言われて、高菜へと手を伸ばすと、「っ!!」とまた…。
「高菜は味が広がり、お粥に味がつくから、一番最後に…。」
…結局、斎藤さんが考えた通りの順番で食べることになり、それが一番美味しかったのだし、納得しながら完食。
「それだけ食べられれば問題あるまい。明日には元気になっているだろう。」
頷いて微笑むと、また顔をそらして、耳を染めて…。
「熱が下がらなければ、また看病出来るのだが…な。」
と、空耳ではない独り言が聞こえてきた。
「だだだ、大丈夫か!?」
慌てて駆け込んできたのは、藤堂さん。
そんなに慌てなくても、ただの風邪だと言うけれど…。
「何言ってんだよ、ただの風邪だって辛いだろ!?」
そう言いながら部屋の中をぐるぐる回り出して、何をしているのかと尋ねれば…。
「風邪薬だよ、有るだろ?」
探してくれていたらしい。
けれど、目当てのものがテーブルの上に置いてあることを確認して、安堵してベッドの横に座り込んだ。
「なんだ、俺が出来る事なんか無いじゃん。」
あからさまにガッカリするから、思わず笑ってしまって、藤堂さんも少し照れたように笑った。
「何だよ、笑う元気あんじゃん。はぁー、良かったぁ。」
ベッドの横ににじり寄って来て、ベッドに頬杖をついて顔をじっくりと覗き込まれて。
「何かあったら直ぐに言えよ。ここに居るからさ。」
頼もしい宣言と、元気を分けてもらえるような太陽の笑顔を振りまいてくれた。
目を開けると、顔の両端に手を付いた原田さんが、覗き込んでいた。
「大丈夫か?」
心配そうに歪められた瞳が近づいて来て、額に額がコツンとつけられた。
「大分熱いな。辛くねぇか?」
額を外さずに、間近で見つめてくる原田さんに、瞳を瞬いて、平気だと告げると、ニヤリ…と妖艶な笑みを向けられた。
「平気とか言って良いのか?」
ゴソゴソとベッドへと入り込んでくる原田さんが、身体を抱き締めて広い胸に包み込んで、「汗をかくと一気に熱が下がるんだけどよ…、試してみるか?」と、したり顔。
熱のせい以上に赤くなった顔を原田さんの胸に擦り付けて隠すと、抱き締めてくれている手が優しく背中を撫でてくれた。
「なーんてな。」
とか言いながら、撫でてくれる手つきがいやらしくて、拒めなくなってしまうかもしれない…と、原田さんを睨み付けると、熱い口付けが待っていた。
「ふん。人間とは脆弱な…。」
嫌味たらしく吐き捨てる言葉が、今日は元気が無い。
心配しないで、と言うと、気分を害したように眉を釣り上げた風間さん。
怒らせたと思って不安に泣きそうになると…。
「心配するに決まっているだろう。人間は鬼とは違う、病で簡単に死んでしまう生き物なのだろう…。まだ祝言を迎えていないと言うのに…、貴様に死なれては困るのだからな。」
いつも自信たっぷりで厚顔不遜な風間さんが、不安を抱えて小さく見えて、思わず起き上がって抱き締めてしまった。
「熱いな…。」
抱き締め返しながら、ボソリと呟いた風間さんの声がすぐ耳元から聞こえて、不安な揺れを感じて、更に強く抱き締めたけれど、離されてしまった。
「寝ていろ。そんなにくっつかなくても、そばを離れたりなどせぬ。」
ベッドに寝かされて、布団を被せられて、少し離れた場所に陣取ると、じっとこちらを伺う風間さん。
見つめ返していると、「寝ろと言うに…。」と、照れ隠しに吐き捨てられた。
薄桜鬼 二次
[*prev] ◎ [next#]
-top-