入学時期拍手 2013 剣道部シリーズ
「だからさぁ、誰を演るかなぁって思ってさ!」
聞こえてきたのは、藤堂の声。
剣道部の部室に入ろうとした私は、ドアノブをそっと回して中を覗き込んだ。
そこには、藤堂と、他にみんなも来ていた。
珍しいのは、近藤先生も山南先生も居ることで…。
「ん、なら俺は新八だな。」
「俺は左之やる!!女にもててみてぇー!!」
原田先生と永倉先生が、ガッシリと手を組んで握り合って笑っている。
一体何の話をしているのだろう…?
「あ、ずりい!」
「何がずるいもんか。こうゆうのは早い者勝ちなんだよ。」
原田先生に頭を腕置きにされて、藤堂が膨れ面でブンブンと首を振った。
「だったら僕は、土方先生をやろうかなぁ。」
「ふんっ、勝手にしろ。」
土方先生は興味が無い様で、一応輪には加わっているけれど話には参加していないみたい。
だけど、当然沖田がそれを良しとする訳は無く…。
「土方先生は誰にします?」
「はあ?俺はやらねえよ!」
「近藤先生は、僕を譲ってあげますね。」
「お、そうか?それは嬉しいな。頑張って総司を務めよう。」
「近藤さん!?」
沖田を譲られて、近藤先生が嬉しそうに何度も頷いている様子に、土方先生が呆れたように顔を天井へと向けた。
「どうだ、トシ、トシは誰にする?」
「いや、俺は…。」
「おやおや、土方君が近藤先生をやらないなら、私がやらせていただきましょう。良いですよね、近藤先生。」
眼鏡の奥の瞳を細めて笑いながら、穏やかに告げる山南先生なんだけど…、何だか場の空気が一瞬薄ら寒くなったのは、何でだろう…?
「はじめ君は?」
「…。」
藤堂の問いに、斎藤が腕を組んで俯いたまま黙り込んでいる。
みんな、何も言わずに待っているのは…、斎藤が誰を選ぶのか悩んでいるのを知っているからかもしれない。
「ああ、ごめんねはじめ君。僕が土方先生とっちゃったから悩んじゃったんだよね。」
「むっ、いや、そうでは…。」
焦ったように顔を上げる斎藤。
だけど、ここからチラリと見えた斎藤の顔は赤らんでいて、多分、図星だったんですね…。
あぁ、ほら、沖田の嬉しそうな顔。
「はじめ君には山崎君なんか良いんじゃない?」
「俺ですか?俺としては光栄ですが…。」
「ムッツリ度合いが同んなじだしね。」
「ははっ!言えてら!」
反射的に笑ってしまった永倉先生が、急に背後に倒れこんだ。
「っっぶねえ!!おい、山崎、斎藤!先生に向かって何しやがる!」
「あーあ、惜しかったな。もう少しで刺さるところだったのに。」
「左之!どっちに惜しがってんだよ!」
抗議する永倉先生の背後の壁に、ボールペンが二本、深々と刺さっていた気がしたのは…、き、気のせいかなぁ?
「ならば、俺はまことに恐縮ですが、山南先生を…。」
山崎が、固唾をのみながら告げた言葉に、山南先生の眼鏡が光った。
何も言っていないのに、それだけで山崎の顔が青くなった…。
あの二人の関係性って…、不思議…。
「じゃあ、俺ははじめ君だな!」
藤堂が嬉しそうに告げて、これで全部が終わったのかと思い、背後で控えていた私が立ち上がった瞬間、藤堂がこちらを見て笑顔で告げた。
「お前は、俺で良いか?」
「え、わ、私も!?」
まさかこっちにも話が飛んでくるとは思っていなかった。
それに…。
「一体、何の話をしているの?私が藤堂をやるって、何?」
「ああ、最初から居なかったから、分からねえか。」
原田先生が優しく告げると、手を招いてくれた。
藤堂が少し場所をずれてくれて、私は近藤先生と藤堂の間にちょこんと、輪に加わるように座った。
「部活動紹介の催しだ。」
「新入生の前で、ステージに上がってさ、俺らの時もあっただろ。」
斎藤と藤堂の説明で、確かにあった…、と思い出した。
体育館に集められて、どんな部活なのかを紹介していたんだ。
私たちの時は、沖田と斎藤が、ただ説明していただけのはずなのに、いつの間にか漫才みたいになっていたっけ…。
あれで、沖田と斎藤の格好良さに惚れた女子も男子も剣道部に入って、ゴールデンウィークには、練習のキツさにほぼ辞めて行ったんだ。
「今年は、ここに居る全員参加ね。」
沖田の目が、キラリと光った。
視線は土方先生を捉えて離さない。
「もう、枠は彼女分しか空いていませんが…。」
山崎が恐る恐る言うと、土方先生が持っていたタバコをぐしゃりと握りつぶした。
っというか、先生?
タバコ、吸わないで下さいね!?
「で、結局何をやるの?」
「コスプレだよ。」
「え??」
コス…プレ…??
って、あの、コスプレ?
「ここに居る誰かの格好をして、剣道の癖とかも真似してさ。楽しそうじゃん!」
藤堂の無邪気な笑顔は百歩譲って許せても…、沖田…、その禍々しい笑顔…。
最初から…。
「俺はやらねえ!!」
「へぇ、一番最初に、今年は教師も全員参加だ!って言ったのは、土方先生なのに…、男に二言有りで良いんですか?」
沖田の言葉に、グッと詰まった土方先生。
「はい、決定です!これ以上決定を覆すことの無いように。各自、準備して下さいね。」
山南先生が、パンと手を叩いて取りまとめた。
「では、楽しみにしていますよ、土方先生。」
更に追い打ちをかけるように告げると、部室を去って行く山南先生。
「くそっ…、誰だ、そんな変な提案してやがったのは!!」
どうやら、土方先生も知らないうちに、コスプレは決まっていた…のかな?
「嫌だなぁ、みんなで決めたんですよ。」
沖田の目が、とても楽しそうに弧を描いている。
ああ、沖田の発案なんですね…。
土方先生、御愁傷様です。
私の真似、楽しみにしていますね。
「おい!お前も何とか言え!!」
立ち上がり、各々が部活へと準備のために去って行く中、土方先生の叫び声が聞こえた。
「あの、私の真似は簡単ですから。みんなへと、練習のあとにお絞りを渡すだけだし…。」
「ちなみに、ジャージじゃなくて制服ですよ。じゃないとコスプレにならないじゃないですか。」
「総司!てめぇ!!」
ダッと立ち上がって沖田目掛けて走り出した土方先生。
でも、その前に脱兎の如く駆け去ってしまった沖田。
制服…。
土方先生…、更に更に御愁傷様です。
サイズ、有ると良いですね。
「あいつも鬼だよな。」
「うむ。きっと、総司と張るだろう…。」
…聞こえてますよ、藤堂、斎藤…
にやり
「「な、何でも無いぜ(ぞ)!!」」
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