ホワイトデー拍手 2013
「な、何故俺が・・・。」
「’あみだ’で決まったんだ、文句言うんじゃねえよ。」
「しかし・・・、これは・・・?」
「これも、’あみだ’で決まったんだから、仕方ねえだろう。斎藤、お前も男だ、いい加減我慢しやがれ。」
「う、うむ・・・、しかし・・・・・・。」
「しかしもかかしもねえんだ。斎藤、お前は俺の言うことが聞けねえってのか?」
「そ、そういうわけでは・・・。」
「なら、一君、いい加減諦めなよ。」
「諦め・・・・・・。」
「そうそう。もう、いい加減諦めて、ほら、行っておいでよ。」
「う・・・、うむ・・・。」
しかし・・と、未だに斎藤は抵抗を心のうちに秘めて、歩きづらい今の格好で必死に歩き、廊下を進んでいた。
よたよたとよろける斎藤を見られるのは今しかない、と、背後、今出てきた部屋から顔だけを出して見ている輩に若干腹を立てないではないが・・・。
しかし、あみだ籤で決まったと言うならば、仕方が無いと、思うことにした。
斎藤は、進む先を見据えて、首をかしげた。
ホワイトデー・・・?
それは恐らくは、これから先の時代に、貸し業界が勝手に作ったイベントなるものではなかったのか・・・。
確かに、先月バレンタインデーとやらに、チョコレエトなるものを貰いはしたが・・・。
全員へ配っていた、この屯所内唯一の女子を思い出す。
全員に配っていたのだから、全員でお礼をするのが筋ではないのか?
それが何故、あみだ籤でお返しをする人を決めねばならないのだ・・・。
バレンタインデーとやらも、今の時代のイベントなるものでは無かったはずだ。
先の時代の菓子業界に踊らされて、女子が自分から思いの丈をぶつける日を取り決められて、それを利用した女子たちがチョコレエトなるあの甘いものを固めた物を持って、好きな相手に渡し・・・・・・。
なんたる嘆かわしい時代が来るものだ・・・。
男ならば、女子に言わせるのではなく、自分から思いの丈をぶつけるべきではないか。
しかし、今の時代、好いた女子と一緒になれるのは町人くらいのもので、武士や農民などは全くと言って良いほど自分で好きな相手を決めて結ばれることなど不可能。
そういった意味では、言い時代が訪れると言う事だろうか・・・。
いや、今の時代にそんな先のことを知っている自分は、恐らくは今書いている作者の陰謀に踊らされているだけであって・・・。
そもそも、ホワイトデーはお礼を言う日だということだ。
・・・・・・。
やはり、全員でお礼を言わなければいけないのではないのか?
更に言えば、ホワイトデーのお礼として用意されたもの・・・・・・、これは、違うのではないか?
斎藤は、己を歩きづらくしているものを見て、嘆息した。
何かが間違っているのだが、その何が間違っているのか、自分には理解が出来ないようだ。
イベントごとには疎い。
女子の機微にも疎い。
いや、人の機微に若干疎いところがあるのだ。
それは、認めるしかないだろう。
しかし・・・・・・、やはりこれは・・・。
時代背景を全く考慮していない。
あの五人の陰謀か、はたまた作者の陰謀か・・・・・・。
ともかく、と、斎藤は息を吐き出して、伸びた背筋を更にピンと伸ばして先を見据えた。
時節は春、春の強風吹きすさぶ中、土ぼこりが舞い、廊下にも砂を降り積もらせてくる。
斎藤の真っ白い足袋も、裏や足先が茶色く汚れてしまっているのだけれど、夕暮れも過ぎて薄暗くなった廊下では、足先の色の違いまでは見て取れなかった。
目的の部屋の前へと来て、斎藤は息を吸い込んだ。
埃っぽい、じゃり・・・とした感触が口の中に入り込んで、思わず顰め面になったが。
それ以上に、変な緊張感が漂っている気がする。
部屋の中に、人の気配がする。
灯篭に火がともされて、ゆらゆらと揺れる影が中の小柄な少女が動き回っていることを教えてくれて、斎藤は徐に口を開いた。
「居るか?」
居るか?も何も、居ると分かっていると言うのに・・・。
それ以外に言葉が思い浮かばなかった自分は、この状況に些か翻弄されていると言う事だろう。
「はい。斎藤さん?」
中から、耳に心地良い柔らかな声が飛び込んでくる。
ドギマギしてしまうのは、自分の格好のせいだろうか・・・。
「入っても、良いだろうか?」
「はい、どうぞ。」
少し弾んだような声で、自分が歓迎されているのだと安心して、斎藤は「あ・・・」と呟いた。
開けられない・・・・・・。
「その・・・、すまない、開けて、もらえないだろうか・・・。」
「え?はい。」
中から、怪訝そうな声を返されたけれど、すぐに人影が障子へと寄ってきて、すっと音をさせて開けられた。
「・・・・・・斎藤さん、どうしたんですか、それ?」
「・・・ホワイトデー?とやら、らしい。その、チョコレエトのお返しだ、そうだ。」
自分は、深いところまで理解しているわけではない。
これが何故、お返し、つまりはお礼になるのかが理解できていないというのに、あみだ籤で自分の役目になってしまったのだ。
ただ、これを見せに行けば、全ては相手が取り仕切ってくれるから。
そう言われて、頷くしかなかった。
「あ、入ってください。とにかく・・・、じゃあ、遠慮なく、いただきます。」
よたよたと部屋の中に入った斎藤の後ろで、パタン・・・と障子が閉じられた。
「斎藤さん、どうぞ座ってください。」
「う、うむ。」
座る・・・・・・。
ゆっくりと膝を曲げて座りかけたところで、身体の平衡を保てなくなり、斎藤は畳へと転がってしまった。
いくらこんな状況だとは言え、こんな事は自分に起こり得ないと思っていただけに、自尊心が些か傷つけられた気分だ。
しかし、嬉しそうに口元をこ惑的に緩ませた部屋の主が、転がった斎藤を仰向けにさせて、その上に跨ってきた。
「!!?」
あまりの事に言葉を発せないで居る斎藤の着物の上から、細くて白い手が艶めかしく触れてくる。
「多分、こうゆう事で合っていると思うんだけど・・・。」
「な、何がだ?」
「自分にリボンをかけてわざわざここまで来るなんて・・・。食べてくださいって、こと・・・ですよね?」
嬉しそうに微笑む唇の赤さと、チロリと覗いて、自分の唇を舐める舌の紅さに、全身の血がゾクリと波立った。
ホワイトデーとは・・・、そのようなイベントだったと言うのか・・・・・・。
未来とは、何と恐ろしい・・・・・・。
ホワイトデー企画 薄桜鬼 二次 斎藤
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