節分拍手 2013

「鬼は〜外!!」


聞こえてくる声に、眼光鋭く振り向くと、ヒッ!!と怯える声が聞こえてきた。


「ちょ、ちょっと!風間さん!!子供たちが怯えますから!!」


依頼をされて来てみれば・・・、全く、こんな事に利用されようとは思いもよらなかった。

こんなにも古くからの風習に苛立つ日は無いと言うのに、一体何を考えて俺をここに呼んだんだか・・・。

不機嫌になるのは当たり前だろう。


「あの、ごめんなさい・・・。怒ってます・・・よね。」


当たり前だろう。

口に出さずに視線で意思を告げると、肩をすぼめて小さくなった。

ピンク色のシンプルなエプロンを身につけているお前は、髪を頭の後ろ高くで結い上げて、シンプルなジーンズと、シャツにセーター。

普段、俺と会う時にはもう少しお洒落をしているが・・・、流石に今日はそうもいかなかったか。


「でも、風間さん・・・、そのお面、凄いですね。どうやって被ってるんですか?お面じゃなくて、マスク?」


白髪、金の瞳、そして額から突き出た四本の角を順に指差しながら、感心してほぅ・・・と息をつくお前に、俺は一瞬呆けた。


「何を言っている・・・?俺は何度も鬼だと言ったはずだが・・・?」


「はい、聞きました。たまに、本当に鬼なんじゃないかって言うくらい、いじめますよね。」


眉尻を下げた笑みを見せるお前に、俺は呆れて溜め息を吐いた。

背後から、「先生を返せ!鬼め!!」と、子供たちが遠くから豆を投げてくるが・・・。

正直、痛くも痒くも無い。

豆如きで鬼を退治できるなどと思っている人間の馬鹿らしさに薄ら笑いしか出ぬわ。

しかし・・・、そうか・・・・・・。


「お前は、俺の言う事を信じていなかったと言う事か。」


「・・・?信じてますよ。」


きょとん・・・と瞳を瞬いて、笑顔を向けてくる。

しかし、その笑顔が何の邪心もなく、純真で素直で真っ直ぐで、本当に信じているのだとは分かるのだが・・・。

お前の想像していた鬼と、俺が言っていた鬼が、どうやら違ったらしいことに、俺も今更ながら気がついた。


「俺は、こういう意味で言ったのだがな・・・。」


全身から力を抜くと、角が引っ込み、髪に色味が戻り、瞳が赤に変化する。

その変化を見て、子供たちがざわざわと騒ぎ出す。


「・・・・・・!!?」


驚いて声も出せないお前に、恐る恐る手を伸ばして、だらんと下げられている手を握ると、力の入っていない手が、ゆっくりと絡められた。

安心している自分に、自分でも驚いた。

これしきの事で、怯えられるのではないかと恐れるなど・・・・・・、俺らしくも無い・・・。


「なに?どうなってるの?・・・・・・鬼って、鬼?」


「逆に問うが、お前は鬼をどんなものだと想像していたのだ?」


「その・・・・・・、女子高生的な、オニ忙しいとか、オニ格好良いとか・・・・・・、超を超えたっていう、意味・・・・・・。」


「お前は、俺が女子高生言葉を使うと、そう思っていたというわけだな?」


「・・・・・・いや、ちょっと、おかしいなって・・・・・・。」


「鬼!!先生を返せ!」


「鬼は美人を攫うんだろ!先生、逃げて!」


子供たちの豆攻撃が激しくなる。

どこからそんなに豆が出てくるのかと思ったが、何のことは無い、ばら撒いた豆を拾っている奴らが居るだけのことだ。

呆然と見つめているお前の手を引いて胸の中に収めると、軽く抱き上げた。

子供たちがギャーギャー喚くが、知ったことではないわ。


「ちょ、風間さん?子供たちの前だから!」


「知らん。鬼は美人を攫うのだろう?ならば、望みどおりにしてやろうと思っただけの事。」


「・・・え?」


「お前を嫁にすると言っただろう。」


「・・・・・・はい。」


「なる気は勿論、あるのだろう?」


「・・・・・・・・・はい。」


「ならば、何も問題は無かろう。」


子供たちの豆攻撃などものともせずに堂々と歩いて教室を出ると、さっと駆け出した。


「先生!!!先生が鬼に攫われた〜〜!!!」


子供たちの泣き叫ぶ声が聞こえてくるが、返してやるわけが無かろう。

節分など煩わしいだけだが・・・・・・、これからは良い記念日になるかもしれぬな・・・。




薄桜鬼  二次   風間千景

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