「と、言うわけです。」
私が昔語りを終えて四人に視線を向けると、はぁ…と冷たい溜息が返ってきた。
「それ、一体何のきっかけですか?」
「仕事に本腰を入れたきっかけなんて聞いないんだけどな。」
「のゆさん、勿体ぶってるんですよね。本題はこれからですよね。」
冷ややかな笑顔とでも言うのだろうか…、こう、冷たい空気が私の周りを覆っているんだけど…。
「だから、部長と打ち解けたきっかけをね。」
負けずに笑顔で答えつつ、バッグを取りに腰を浮かせた私の両肩に、沢山の重石が…。
「じゃ、そこからどうやって付き合うようになっていったのかを聞きましょう。」
「はい、口を湿らせて下さいな。」
久雨ちゃんから、グラスを手渡された。
そして、並々とワインが注がれる。
ボトルを拒否する事には成功したが、ハーフサイズデキャンタを頼まれてしまった。
ワインを飲むのは私一人…。
あぁ、こんな事ならサワー系にしておけば良かった…、結構酔いが回ってるんだけどぉ。
「そもそも、なんだけどね。のゆちゃんは、いつから意識し始めたの?」
「ん?」
「いつから、部長を好きになったの?」
「んん?」
まみさんが、じっと見つめてくる。
「打ち解けていって、何でも言い合うような間柄になっていったなーとは感じてたけど。付き合ってるって聞いて、かなり前からだと思ったのに、三人の研修をしている間なんて、ビックリなんだけど。」
「あ、私も思った!研修中ね、密かにのゆちゃんと部長は長く付き合っているのかな?とかちょっと想像した事有ったのに。そのあとも、そんな噂は聞かないし。私たちの研修中だったなんて、意外。」
むむむ…。
いつから好きかなんて、そんなの恥ずかしくて…と言うか、あれ…?そうだよね、いつから好きなんだろう…。
考え込む私を、四人の目が見つめている。
そんな期待されても、本当にたいしたものは出てこないってば…。
「恋なんて、いつの間にか落ちてるものじゃない。」
「うまいこと言って誤魔化そうとしてもダメですよ。具体的にいつ頃ですか?」
うー、みずきちゃん手厳しい。
「ぅぅ…。仕事を認められて、任される事が増えていって、嬉しさと共に責任を感じて緊張する日々だったんだよねぇ。」
「よく、これで良いのか悩んでた記憶があるよ。」
「うん。そうなの。でも、不安を部長に言うと、ちゃんと聞いてくたんだよね、アドバイスしてくれる事もあったし。頼りになるから、こぅ…、信頼がいつの間にか…的な?」
「的な?」
「顔が良いのに頼れる男なんて、そりゃ恋するしかないでしょ。」
「「「確かに」」」
深い納得。
三者三様に、彼氏を思い出したのか、顔がほころんでいる。
それを見て微笑む年長者二人。
あぁ、これで解放された、もうこんな恥ずかしい話は終わった…。
「部長はいつからのゆちゃんの事が好きだったのかね。」
「あ!それ聞きたい!」
「何か聞いてないんですか!?」
「部長にも何かきっかけが有るはずだよね!何だか、さっきの話だと最初からのゆちゃんに特別、みたいに感じる!」
まみさん…、面白がってるでしょ…。
うぅ、なんで終わらせてくれないかね、三人娘がまたノリノリになっちゃったじゃん…。
「特別じゃないよ、ちゃんと話せば皆んなにも同じ様に接するってば。」
「でも、付き合ってるんだから特別になった瞬間が有ったはずですよ。」
「知らないんですか!?」
「知らないよー、そんな事言ってくれる様な人じゃないよー。」
教えてもらえるなら、私だって知りたいよお。
悲しみに、テーブルに突っ伏した私の様子に憐れみを感じたのか、久雨ちゃんが出し巻き卵を差し出してくれた。
て言うか、それ私が頼んだやつ…、一切れしか残ってないし…。
「そう言えば、のゆさんの同期って、誰ですか?」
「ああ、彼女ね、もう居ないよ。」
「そうなんですか?」
「ま、ちょっと有ってね…。」
「聞きたい!!!」
「まー、これならいくらでも。」
そう、あの同期は、もう居ない。
そっか、そう言えば…、あの時の事があったから、部長をかなり意識するようになったんだった。




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