週が明けて翌月曜日。 そして昼休憩なう。 そして、魔の給料日前。 金欠っ子の私は、家からおにぎりを持ってきていた。 給料日前は、デスクでおにぎりを頬張ることが多い。 悲しいかな、どうにもお金の管理が下手らしく、給料日前になると何故か残高が…。 今月は何がいけなかったのだろうか…。 けれど、同期とランチしないで済むのは良い。 先日、部長の好きなものと共に、自分で聞かない人は好きじゃないと告げたら、物凄い勢いでキレられたのだ。 今更聞きに行けるわけがない、今聞いたら誰が頼んでいたのか丸わかりじゃないか!と…。 知らん。 そもそも私は最初から自分で聞いてくれと言っていたのだから。 こりゃ、知り合いからも降格かな…と、あっけらかんと思ったのだった。 「さてさて〜、お茶にしようかコーヒーにしようか。やっぱりお茶かな。で、食後にコーヒーかな。飲み物が無料で飲めるとか、ホント金欠に優しい会社だね。」 ブツブツと独り言をしながら給湯室に入ると…。 「部長…。」 そこに、土方部長が居た。 「カップラーメン…ですか?」 「見りゃ分かるだろう。」 「はい。」 お湯が沸くのを待っているのか、冷蔵庫にもたれかかった部長の手にはカップラーメンが。 「部長も金欠ですか?」 「…は?」 「…は?す、すいません、そんな訳無いですよね。」 ははははは、と渇いた笑いを漏らす私を憐れそうに見ながら、部長はカップラーメンを台に置いた。 「お前は金欠なのか?」 「はい、情けないことに。」 「本当に情けないな。」 グブッ………。 し、心臓にひと突きされた…。 「そういや、毎月給料日前になると昼休憩にも社内に居たかもな。」 思い出すような素振りをして、部長が改めて私を見た。 「て事は、毎月金欠になるのか。」 ガハッ………。 ふ、ふた突き目がとても深くまでめり込みました…。 「はい…、お恥ずかしい限りです。」 「一人暮らしなのか?」 「…残念な事に、実家暮らしです。」 「…金遣い、少し考えたほうが良さそうだな。」 「お節、ごもっともでございます。」 恥ずかしい、穴があったら入りたい! こ、今月は、ほらあれ、あれがあれであーなって…なんでお金が無くなっていったんだっけ!? 「お前は、総司や平助の同期か。」 「…?そう…なんですか?沖田さんたちは、もっと長いイメージですけど。」 「バイトで入ってたから長いが、社員になったのはお前と同じだ。」 「…え?本当ですか?先輩だとばかり…、っえ、でも研修に居ませんでしたよ。」 「バイトしてたって言っただろう。研修は必要無いからやらせなかった。」 「そうなんですか…。」 てことは、年上だと思っていたけれど、同じ年なの…かな? 考えを読んだのか、部長がボソリと告げた。 「お前より年下だぞ。」 「えっ!?マジですか!?嘘っ!そんなっ、そんな事が有るわけ…!?ええ!!?」 思わず部長のジャケットを掴んで引き寄せてしまい、私が自分の行為の恐ろしさに気付いた時には、部長の顔は間近に迫っていた。 美しい顔が驚きに満ちている。 「………すっっっいません!!な、なんて命知らずな事を!こ、この手が、この手がですね!!」 ジャケットから手を離し、わなわなと震える私に呆れ果てたのか、部長から長い長い溜息が吐き出された。 「お前は、少し落ち着いたほうがいいな。仕事も、小さなミスが多い。」 ピーーーと、お湯が沸いた音に、ビクリと肩が震えた。 いや、まともな指摘に心が慄いたのかもしれない…。 「す、すいません…。」 「時間がかかっても良いから、丁寧さ、正確さを大事にしろ。」 「はい、すいません。」 「分からなけりゃ聞きに来れば良い。」 「はい、有り難うございます。」 カップラーメンにお湯を注いだ部長が、給湯室を去った後、私は冷蔵庫に頭をぶつけた。 情けなさに、一発自分にかましたかったのだ。 部長の言っている事はまともだ。 そう言えば、変な質問をした時も、まともだった。 趣味は教えてくれたし、また変な質問をしてしまえば、くだらない事をしている暇があれば、仕事をしろって…、あれは別に怖いからそういう事を言う訳じゃなく、まともな反応だ。 私は仕事をしに来ているんだから…。 聞きたいなら、休憩中に聞くべきだったんだ…。 間違っていたのは私だった…。 「情けない…。」 同期にも、きちんと断るべきだったんだ、押し切られずに自分で聞きに行かせれば、気まずい思いをさせずに済んだんだもん。 私は、頬を叩いて気を引き締めると、お茶を二杯淹れた。 一つは自分で、もう一つは部長に。 デスクまで持っていくと、部長は既にカップラーメンを食べ終え、書類に目を通していた。 「あの、お茶です。」 「ああ。」 書類をデスクに置いて、きちんとこちらを見てくれる。 いつも目が合わなかったのは、部長は仕事をしていたからだ。 今は休憩中だから、こうして目を合わせてくれるんだ。 気付いてしまえば、なにも怖いだけの鬼上司な訳ではないのだと、わかった。 「その、さっきはすいませんでした。仕事、焦らず丁寧にやります。」 「ああ。お前は飲み込みが早く、テキパキなんでもこなすから、もう少し上の仕事もやらせたいんだ。落ち着いてミスを無くせば、かなり助かる。」 「…!?は、はい!頑張ります!」 「ああ。頑張れ。」 ふ、と眉間を緩めて微笑んだ部長に、私の心は震えた。 は、初めて笑った顔を見たかもしれない…。 すごい…やる気出た!!!
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