その後、散々からかわれて疲れ切って会社に戻ると、デスクに突っ伏した。 昼休憩が終わるまであと五分しか無いのに、全然仕事モードに戻らない。 疲れ切った、あぁ、わたしゃ疲れたよ…。 食後のコーヒーも、全く味がしなかった…。 そうだ、もう一度コーヒーを飲もう、給湯室にインスタントもドリップもあったよね。 給湯室は、仕事が始まっても使って良いと言っていたし、遅れても平気なはずだ。 うん、コーヒーにしよう、そうしよう。 思い立った私は、給湯室へと向かった。 そして…。 「あ、のゆちゃんも?お茶と紅茶とコーヒー、どれが良い?」 「まみさん!…部長ぉぉ…。」 まみさんと、土方部長がそこに居た。 「……す、すみません、まさか、こ、こんな場所で、その・・・あああああああ逢いびきしてるとは思わずっ、お、お邪魔しました!!」 慌てて引き返そうとした私の頭が掴まれた。 「いでで、いでっ!」 「落ち着け。」 「のゆちゃん、いくらなんでも昼休みの人の出入りが多い給湯室で、逢いびきはないでしょう。」 「そ、そうかな…?あると思うけど。」 「ねえよ。」 土方部長がそう言うと、引き止めるために握りつぶしていた私の頭を放した。 ぉお〜、痛かった。 「コーヒー入ったら、こいつに持って来させてくれ。」 「あ、分かりました。」 「あ、部長?」 人のことを引き止めておいて、入れ違うようにして土方部長は給湯室を出て行ってしまった。 「…まみさん、私邪魔しましたよね。」 「だから、邪魔してないよ。」 「あ、二人のじゃなく、土方部長の…。」 棚からカップを取り出していたまみさんが、首を傾げてこちらを見た。 「邪魔していないと思うけど。元々、ここに誰か居たら頼もうと思っていたみたいだし。」 「そうかな…?」 「そうだと思うよ。この時間は誰かしら使っているからね、いつも誰かに頼んでいるみたいだよ。」 「そっか…、良かった。」 去り際、不機嫌になっていたような気がしたから、怖かったのだ。 …この後一人で部長のところにコーヒーを持っていくのが…。 それを伝えると、まみさんが笑い出した。 「不機嫌じゃないと思うよ、あれが通常だってば。同じ部署なんだから、見慣れているでしょ?」 「…確かにいつもあんな感じに眉間に皺が寄ってるけど。」 「でしょ。普通だよ。」 テキパキと三人分のコーヒーをを用意しながら、まみさんが冷蔵庫からチョコレートを取り出した。 「今日のおやつ、はい、おすそ分け。」 「あ、有り難うございます。」 貰ったチョコレートをその場で頬張りながら鼻歌を歌いだした私に、まみさんが鋭い一言を放った。 「何をしたの?後ろめたいから不機嫌に見えるんでしょう。」 「げふぅっ…、うぐ、チョコ飲んじゃった…」 「何をしたのか知らないけど、謝るなら早いほうがいいと思うよ。」 「…そ、そうだよね、うん、そうだよね。」 謝るような事をしたのだろうか…、あの沖田さんのからかいっぷりを思い出せば、きっと土方部長のこともからかっているはず…。 でも、あのネタでどうやって土方部長をからかうんだろう。 でも、そうだね、謝ったほうが良いよね。 「はい、コーヒー出来たよ。」 お盆に置いたふたつのコーヒーの香りが、ほんのりと緊張をほぐしてくれる。 「有り難う。じゃ、謝ってくるね!」 「うん。がんばっ!」
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