「は?そんなん嘘に決まってんじゃん。何嘘つかれて嬉しそうに報告に来てるのさ。もっと本当の事教えてよ。」
嬉しさに顔をほころばせて報告をした私へと向かって、蔑むように吐き捨てた同期。
あの、キャラが昨日と違うんすけど…この女…。
あー、一気にランチのパスタの味が一段落ちたわ。
「もう、本当に自分で聞いてよね。醤油のシミ 抜くから。それか、クリーニング代払うから。」
「じゃ、クリーニング代六万。」
「…は?」
「六万払うか、土方部長の情報を流すか。さ、どっち?」
「どっちって、どっちも嫌だよ、自分でシミ抜きするよ!」
「はい、無し!じゃ、引き続き情報を宜しくね。」
そう宣った同期は、オムライスをかきこむと、ランチ代を乱暴にテーブルに置いて、早々に立ち去った。
…ま、ランチ代を置いていっただけ、マシかな。
「はぁーー。」
深い溜息をついていると、私の上に影がさした。
「あ、やっぱり、のゆちゃんだね。」
「…?」
声をかけられて顔を上げると、そこには沖田さんと斎藤さん。
「土方部長とお見合いごっこをしてた、のゆちゃんだ。」
「…お見合いごっこ?し、してませんよ!?」
沖田さんと言えば、土方部長をからかうためだけに、度々うちの部署に顔をだす、顔は良いけれど性格は厄介な人物。
絡まれたら、これまた厄介だ。
「も、もう、変な事言わないでくださいよ。今からランチですか?」
「うん。あ、席空いてるね、同席するね。」
確認も無く、同席するね、なんですか…。
まぁ確かに、店内は満席で、待ちの人も入り口に並んでいる、知り合いを見つけて、席が空いていれば、同席するだろう…沖田さんならば…。
「邪魔じゃないか?」
あぁ、斎藤さんてば、確認してくれるんですね、有り難いです。
ええ、邪魔か邪魔じゃないかで言えば、邪魔です。
こんな顔が良い人に囲まれて、パスタ啜るなんて出来ません…涙ほろり。
「で、土方部長とのお見合いごっこ、どうだったの?」
「だから、してませんてば!」
うぅ、やっぱりそれを引っ張りますか…。
斎藤さんをチラ見しても、不思議そうに見ているだけで何もしてくれないし、いや、助けてもらおうとした私が間違っていたか…。
顔は良いけれど喋らない斎藤さん…。
「ご趣味は?」
「ぅっ、な、何故それを…」
「で、次は何を聞くの?お見合いの定番て、趣味は?の後はそこから話が広がれば良いけど、広がらなかった場合、何を聞くの?」
「だから、お見合いなんてしてないってばぁ…。た、頼まれたから聞いたんですぅ。」
「ふぅん、頼まれたからね。そうなんだ、なぁんだ。」
沖田さんが、運ばれてきた料理に手をつけると、やっと会話から解放された私は、イケメンの前ではパスタを啜れないなんて可愛い事を言っていたのが嘘だったかのように、残っていたパスタを猛スピードで喉に流して立ち上がった。
「お、おはきひふれいひまふ!」
自分の伝票を握ると、その腕を掴まれて再び椅子に座らされた。
「食後の飲み物が付くよね、ここって。飲んで行きなって。僕たちが来たからって遠慮する事無いよ。」
優しい微笑みの奥の瞳が、悪戯に煌めいている。
うぅぅ、遠慮させてください…。




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