きっかけは、私が同期の子のワイシャツの袖に醤油をこぼしてしまった事だった。
「やだぁ!新しいワイシャツだったのに!のゆ、酷いよ!」
「ご、ごめん!そこまで飛ぶと思わなかった。本当にごめんね!」
慌てて布巾を取りに行って拭こうとした私の手から布巾を奪い、自分で醤油を拭う同期が、頬を膨らませて…言った。
「お詫びして。」
「ん?お詫び?うん、ごめんね。じゃ、シミ抜きする?それとも、クリーニング代?」
そもそも、同期の女は一人しか居なかった為に、話したり一緒にランチしたりする事はしていたけれど、仲が良いかと聞かれると微妙で、同期…としか形容できない間柄だった。
お詫び…、友達ならば言われても流した言葉だし、謝ったじゃん!と私がふくれつらをしてみせていたような出来事だけれど、知り合い以上友達未満の同期ならば、仕方がないか…と、こちらから提案したが、却下された。
「私、土方部長を狙ってるの。ね、とりもってよ。」
「…は?」
「部長の事調べて、教えてくれるだけで良いからさ。趣味とか、好きなブランドとか、よく行く場所でしょ、それから休日の過ごし方とか。あと、私の事を良く言っておいてよ。」
「…なんで?」
固まった。
土方部長と言えば、顔は良いけど怖いで有名な、うちの会社の総合統括部部長。
近藤社長の次に偉い人。
そして、私の上司。
だけど、仕事の指示は部長からではなく、山崎さんや島田さんから出るので、書類を提出する時や、朝の挨拶、帰りの挨拶でしか会話をしない。
同じ部でも、接点が無い。
「それは無理だよぉ。だって、話す機会無いし。」
「何言ってんの、同じ部なんだから話す機会なんかいっぱい有るでしょう!私より有るでしょう!協力してよね、私の大切な新しいワイシャツを汚したんだから!あーあ、シミになったらどうしてくれるの。」
「だからシミ抜きするって。」
「今すぐ脱げって言うの!?」
「言わないよ。明日持って来てくれれば…。」
「そんな面倒な事するわけ無いでしょ!聞き出すくらい簡単じゃない。お願いね。」
「そんな簡単なら自分で…」
「お願いね!!」
可愛くない、威圧的なお願いをされ、私はため息交じりで頷いた。
そんな簡単だと言うなら、自分で聞き出せば良いのに…。





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