それから、土方さんはたまに来て泊まっていく。
何故かは分からない。
けれど、何となくそんな生活が楽しいから受け入れている。
と、言うよりも・・・。

「はぁ?ウェルカム・・・?あんた、騙されてんじゃないでしょうねぇ?」
「騙されて無いよぉ。だって、別に何かされるわけでもないし、盗られるわけでもないし。お金貸してとか言われないし。」
カウンター越しに私を睨みつけてくるのは、今日も煌びやかに着飾って、髪の毛をくるくると巻いて両側に垂らしている、薄っすらと髭が濃くなりだした、友人。
「これからかもしれないじゃない。大体、何よそれ。何もしないなんて失礼な話無いわよ!」
「・・・失礼・・・?そうかなぁ・・・、そうなの?」
「そうよ。だって、抱きしめて眠るんでしょう?」
「うん。ぎゅぅって抱きしめてくれるよ。」
「抱きしめて『くれる』ってあんたね・・・。」
「ダメなの?」
「ダメに決まってるじゃない!」
「何がダメなの?」
「あんた、されるがままじゃないのよ!」
「・・・そうかな?土方さんがされるがままって感じだよ。」
いっつも、気がついたら眠そうにしてるから、脱がしてベッドに転がしちゃっても全然気にしない。
「疲れてるんだよ、きっと。」
「はぁ?どっからそんな結論に至ったのよ。そこまでの結論に至った経緯を説明しなさいよ。」
「ん〜〜〜〜〜〜・・・。色々。」
「色々ってねぇ・・・。」
友人が呆れ顔で溜息を吐いて、私のグラスを下げた。
「何飲むの?そんな話聞かされて、沢山飲んでいってもらわなきゃ、割に合わないわよ。」
「じゃあ〜、いつもの。」
「そればっかり・・・。」
文句言いつつ、新しいお酒を素早く用意して、勝手におつまみを増やして伝票に書き込みながら、友人がくすり・・・と笑った。
「あんた・・・、すっかり落とされたのね。」
「・・・どこに?」
「恋よ、こ・い!」
「恋〜〜〜??」
友人のにやけた顔を見つめながら、私は自分の胸に手を当てた。
拾ったイケメンに、恋?
そりゃ、確かに顔が良いから、恋に落ちてもおかしくないけど、何だろう、イケメンを手懐けた快感の方が勝ると言うかなんと言うか。
「ないない!だって、土方さんてば、人の家に寝に来るような感じだよ!最近は、普通に「眠らせてくれ」とか「終電逃したから泊めろ」とか、来てすぐに宣言してくるし。」
「相手がどんな態度で来ようと、関係ないものよぉ。どんな酷いこと言われても、好きなものは好きなの。仕方ないじゃない、恋ってそうゆうものなんだから。」
「いや、別に泊めてくれって酷い事じゃないし・・・・・・あ、賢二ってばまた酷い事言われてふられたの?」
「賢二って呼ばないでよ!あの野郎・・・、人の顔を見て「髭が俺より濃いじゃねーかよ、有り得ない、無い無い、無理だよ!」って、笑いながら言いやがったのよ!!」
「・・・・・・そりゃ、ご愁傷様です。」
笑ったりはしないけれど、思わず賢二の鼻の下に目が行ってしまい、思い切り睨まれた。
「ふんっ!あんたなんかただの安眠枕じゃないのよ。思わずムラムラしちゃって襲いたくなるとか、そうゆう女扱いもされないくせに!女なのに女扱いされないほうが、私よりよっぽど悪いんじゃない?」
「・・・・・・女扱いされてないのかなぁ?」
その割には、もっと警戒しろ、とか危機管理能力は無いのか、とか言われるんだけどなぁ。
あ〜・・・よく分からない。
酔ってきちゃったし、考えるの、もう面倒くさいや。
「あはは。なら、それで良いや〜。安眠枕、いいじゃん。」
「取替えがきくのよ?」
「そうだね〜。この状態が一生続くと思ってないし、平気だよ。」
一生続くわけ無いもんねぇ。
今の状態だって、不思議なくらいだし。
お詫びとか言って、来たのだって不思議なくらいだし、次は終電逃したから・・・、で次からは、寝かせろ・・・と。
ご飯も食べれるし、洗濯もしてもらえるし、良い宿に成り下がってるのは分かってるもん。
でも、ま、いっか〜。
「お会計お願いね〜。」
「帰るの?」
「うん。明日も仕事だしね。賢二、新しい男探し、頑張ってね。」
「あんた一言多いのよ!全く・・・。」
毒づきながらも、心配してくれているんだと分かっているから憎めない。
お金を払って、私は店を後にした。




賢二のお店は駅前にある。
自分の住んでいる街に、友人のお店があると言うのは便利だな〜。
ほろ酔い気分でウキウキと歩いている私の目に、見覚えのあるイケメンが飛び込んできた。
タクシー乗り場に居るのは・・・土方さんだ!
噂をすれば影・・・というやつですかね?
女性と一緒だ。
若い子だな〜、可愛い子だな〜。
距離を詰めつつ観察していると、土方さんは女性だけをタクシーに乗せて、去っていくタクシーに手を上げて挨拶をした。
終電も終わった時間に、タクシーで女性を帰す・・・・・・?
「彼女と一緒に帰らなくて良かったんですか?」
そそ・・・と近づいて、後ろから声をかけると、土方さんは振り向いて首を傾げた。
「彼女・・・?いや、今のは部下だが。・・・それより、名前・・・、お前なんでこんな時間に出歩いてるんだ、危ないだろ。」
「友人のお店で一杯でぇす。そんな、未成年じゃあるまいし、こんな時間に出歩いても危なくないですよ。普通ですよ、普通。後ろ見てください、こんな時間に一人歩きの女性がいっぱい並んでますよ〜。」
タクシー乗り場の列を指差しながら言う私の手をとって、引っ張って移動しながら、土方さんが不機嫌そうに眉を顰めた。
あ、でも不機嫌で顰めてるのか癖なのか、よく分からないけど。
「あれ、良いんですか?次来たら乗れるのに・・・。」
「良いんだよ、お前ん所に行くつもりだったから。」
「彼女を先に帰して、枕の元へ?」
「だから、部下だっつってんだろ。遅くまで残業させちまったからな。」
「・・・残業?今まで!?」
「まあ、残業の後、お詫びに飯を奢ったりはしたが。」
「なぁんだ、デートはしたんだ。他の女とデートしておいて、違う女の家に泊まる。土方さん・・・・・・イケメンっすね!!」
「・・・はぁ?どうしてそんな結論になるんだ?」
腕を掴まれたまま、引っ張られるように家に向かう私の胸が、きゅ〜っと縮んだ。
う・・・、少し呑みすぎたのかな・・・、それとも、賢二の言葉が影響してる?
恋・・・?
まっさか!
だって、ただの宿泊客・・・・・・。
えーーーーーー・・・・・・?


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