一番端

いつもなら座席選びで一悶着有るのだけれど、今日はまだ誰も来て居ない…と言う事で、店に入ってきた順番のまま並んで席に座った。
名前は一番端の入り口側に座る事になった。
「ぱしり席?」
「ぱしり!?しないからね!」
隣りに座った明日香ちゃんが、にんまりと笑うのに、身震いする。
「名前ちゃん、今日こそ持ち帰られなよー。」
ケータイを打ちながら運ばれて来た水を飲んで、明日香ちゃんが何気なく言うが、んな無茶な…と苦虫を噛み潰したような顔をなる。
「勿体無いって。男は身体の相性と顔で選びなー。」
「明日香ちゃんが言うと、説得力があり過ぎるけど…、あんまり、身体から入るのは…、無理。」
「無理とか、チョーうけるんですけど。」
「…。」
ちっとも受けませんけど??
朱美も明日香ちゃんも、見た目ほどギャルじゃ無いから友達をやっていられるけど…。
名門お嬢様学校島原学園の生徒でも、こんな子が居たのか…と、出身校を聞いて驚いたものだ。
「うちの学校じゃ、常識だよ。」
「…え!?どんな学校!!?」
「冗談なんだけど。本気にするって、どんだけよ。」
…年下にからかわれてるんだけど。
「誰にメールしてるの?さっきから、物凄い早くない?返事も早いし。」
「んー?昨日やった男。ぜんっぜん良く無かったから、もう二度と会わないって言ってるのに、あっちはチョー良かったらしくて、諦めてくれないんだよねー。」
「そ…そう。」
明日香ちゃんの話は、朱美よりも断然刺激が強い…。
思わず顔が赤くなってしまう。
「何赤くなってるの。処女じゃ有るまいし。」
「まぁ、違うけどさぁ。」
溜息混じりに呟いたその時、どやどや近付いてくる人声に、みんなが一瞬硬くなった。
そして、店員に案内されて、男性が近付いて来て、朱美が立ち上がり手を降った。
それに、永倉さんが手を上げて応えて笑顔で近付いてくる。
「悪い悪い!会議が長引いちまってよ。」
「んー、遅刻では無いから、許してあげても良いよ。」
「そうか?悪いな。」
嬉しそうに言うと、永倉さんが一番奥に進んで行った。
奥に座っている朱美が、一瞬だけ頬をピクリと引き攣らせたのに、女子は全員気がついた…。
そのまま乾杯用のお酒を選んで店員さんを呼ぶと各々の飲み物を注文した。
けれど、名前の前の席が空なのに、みんな不思議に感じていた。
「一人足りなくない?」
朱美が永倉さんに確認をすると、
後で来るらしいと言われた。
来る「らしい」の、「らしい」が気になるところだけれど…。
また、自分はチャンスを逃すのか…と、少しだけガッカリとした。
隣りの明日香ちゃんが、またにんまりと笑うのに、思わず視線を反らした。
「見て、うちの前の人。チョーかっこ良いんですけど!」
コソッと告げて来る明日香ちゃんに、チラリと視線を向けると、確かに…と頷いた。
少しだけ目つきが悪い様に感じるけれど…、ふとこちらに視線を向けて微笑む顔に、思わず目を奪われた。
「今日、アタリじゃん?」
明日香ちゃんの言葉に、頷くしか出来ない。
みんな、見目が整っていて目を奪われてしまう。
その多種多様な顔ぶれに、全員が目がハートになっている。
「じゃ、自己紹介するね。」
飲み物が届く前に、朱美が勢い良く手をあげて宣言する。
「朱美です!」
「奈々でぇす。」
「絵理奈です。」
「紗絵です。」
「明日香でっす。」
「名前です。」
順番に名前だけ告げると、男たちがそれぞれに反応を返す。
「んじゃ、俺らな。新八だ。新八っつぁんって呼んでくれ。」
「俺は平助!」
「…斎藤。」
「左之助です。左之で良いよ。」
「総司。」
「総司、チョーかっこ良く無いですか?」
「…。うん。よく言われる。」
「何それ、チョーうける!」
「はは、そう?」
明日香ちゃんが嬉しそうに身を乗り出して話しかけているのに、総司さんの目はどこか冷えている…。
笑っているのに怖いと感じる視線に怯えていると、こちらを見て、ニヤと笑った。
さっきの笑顔と違って、やっぱりどこか冷たい…。
「君さ…、名前ちゃん、だっけ?それ…、捕食される側の本能?」
「へ?」
「え、何々?ほしょくされる?どういう意味?」
「ああ、明日香ちゃんは、捕食する側だから、安心して。」
「なに、あたしはほしょくする側なんだ。よく分からないけど、総司と一緒って事?」
「うん。」
「へぇ。同じか、いいね、それ。」
ケータイを打ち終えて(今まで打ちながら話していたのか・・・と、呆れたけれど。)総司さんににじり寄って、手を上げると、総司さんが一瞬止まって、ハイタッチを返してくれている。
明日香ちゃん・・・、多分、同じじゃない方が総司さんとは相性が良いんだと、思うよ・・・。
苦笑いでその様子を眺めていると、総司さんの視線が再び注がれて・・・、ゾクリと背筋が震えた。
捕食される側・・・・・・、そうかもしれない・・・。
動物の本能・・・、総司さんは、きっと捕食者だ・・・。
いやいやいや、私だって、今日は捕食しに来たんだから!
首を振って気持ちを切り替えると、総司さんに微笑みかけた。
「ふっ、引き攣っちゃって、無理しなくていいよ。」
バレバレです・・・。
店員さんがお酒を運んできてくれる。
料理はコースで前もって頼んでいるので、一緒に前菜も運ばれてくる。
店員さんから受け取ってみんなに回していくと、明日香ちゃんがボソッと微笑んだ。
「ほらね、ぱしり席。」
「ぱしりじゃないって・・・。」
反論しながらお酒をみんなに渡して、一つ多いことに気がついた。
「あれ?これ・・・。」
「あ、ピーチサワー!私のー。」
明日香ちゃんが受け取ろうとするのを拒否して、自分の前に置くと、自分のウーロン茶を差し出す。
「何言ってるの、未成年はお茶!」
「え〜・・・、だから名前ちゃんの横は嫌なんだよなぁ・・・。」
膨れ面でウーロン茶を受け取る明日香ちゃんに安心して見ていると、男性人が沈黙しているのに気がついて女子全員で顔を見合わせた。
「どうしちゃったの?」
朱美が代表して聞くと、ボソリと低く小さな声が、途中で途切れる。
平助さんが斎藤さんの口に手を宛がって、苦笑いしている横で、新八っぁんが元気にビールを持ち上げた。
「そ、そろそろ乾杯の時間かな〜って思ってよ!な!」
「あ、ああ。乾杯しようぜ。」
左之さんもビールを持ち上げる。
朱美は嬉しそうに頷いて、皆で乾杯〜!と、声を上げて合コンが始まった。




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