ゴール

豪華な飾りつけ。
生徒からは少し離れた場所に据えられた、そんな目立つ椅子の上で、体育祭だというのに白い学ランに身を包んだ人物・・・。
風間千景。
その人が、ガリッと音を立てて爪を噛んだ。
「何故だ・・・。」
低い声を、のっそりと口から紡ぐ。
「やっぱり、こんなの上手くいくわけ無いって。」
後ろで寝転がっている不知火先輩が、明るくそう告げる。
豪華な椅子の、その後ろに括りつけられている教師を見られないように見張りをさせられているのだけれど・・・、どうしてか誰も気付かないらしく、見張りは要らなかった。と、主張して寝こけている。
「新聞も持った、学ランも着ている、最愛の人と言えば俺だろう、ダンスパートナーは俺以外に有り得ん、鬼と言えば風間、そして、風間千景と言えば、俺だ。」
膝の上の新聞紙を、ぐちゃぐちゃと丸めて、投げ捨てる。
それを、天霧先輩が声もなく拾いに行く。
「何故、名前は俺を連れて行かない!!?」
「だから、近づきたくないんだって・・・。」
「黙れ!」
「じゃ、聞くなよ・・・。」
よっ、と声をかけて上体を起こすと、瞳をギラリと光らせる風間先輩を覗き込んで、はぁ・・・と溜息を吐く。
「とりあえず、源さん先生、解放してやって良いか?」
「ええ、そうしてあげてください。」
なにやらブツブツと恨み言を呟いている風間先輩を無視して、天霧先輩が頷く。
「悪かったな、源さん先生。ま、このレースだけだからさ、悪く思うなって。次のレースは、源さん先生が書いた、普通の要望だからよ。」
相変わらず軽い調子で言いながら、椅子の後ろで唸っていた源さん先生こと、井上先生を解放してあげる。
「はぁ・・・、全く・・・、酷い目にあいました。」
「悪く思うんなら、そこの風間だけにしてくれな。」
不知火先輩が、全く悪びれずにそう言うのを、井上先生が苦笑して首を傾げる。
「まぁ・・・、通知表を見た時にでも、思い出してください。」
「それは、大丈夫でしょう。この調子ならば、今年も留年しなければいけなくなりそうですから。」
天霧先輩が、そう呟いて井上先生にお辞儀をすると、その上をどこから取り出したのか、日本刀が閃いていく。
「天霧・・・貴様・・・!!」
「ならば、正々堂々とアプローチをしてくれば良いでしょう・・・。」
「だよなぁ、こんな、借り物競争で自分を借りさせようなんて・・・姑息っつぅか・・・、もう、目も当てらんねぇ。」
両腕を頭の後ろで組み、井上先生と共に離れていく不知火先輩。
そして、むちゃくちゃに繰り出される日本刀の切っ先を器用に避けながら、井上先生を縛っていた縄をまとめる天霧先輩。
「五月蝿い!!貴様らは、黙って俺に従っていればいいのだ!!」
「あー、はいはい。とりあえず、俺弁当食ってくるわ。」
「私は、縄を返してきます。」
「貴様ら〜〜〜!!!」
風間先輩の席で、何やら巻き起こっているのに気付いた人たちは、遠巻きにその光景を震えながら見ていた。
しかし、何故あんな椅子に座っているのだろう・・・、まるで場所にそぐわない、裸の王様のようだ・・・と、誰かがそう評したと言う・・・。




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