第三コース

紙を捲った。
中を確認した。
辺りを見回した。
うん。
みんな、自分が中身を見てしまったことを知っている…。
しばらくコース上に佇みながら放心していると、後ろから足音が迫ってくる。
「うぅ…、どうしよう…。」
何でこんなものを借りなければいけないのだろうか…。
辺りを見回すと、目的の物がチラと目に入る。
いや、目にはいるのは、おかしいのでは…??
何でだろう…。
名前は、あまり事態が飲み込めずに、そのまま自分の席へとフラフラと戻って行った。
そして、隣の席の平助君を見て、カクリ・・・と首を傾げる。
「・・・?名前?」
様子のおかしい名前に、それまで必死に応援していた平助君が立ち上がる。
「ど、どうかしたのか?」
「え・・・?う、うん・・・。」
「早く探さなくて良いのか?」
「うん・・・。もう、場所は分かってるんだけど・・・。」
指で弄っている紙を引き抜くと、開いて中を確認した。
そして、平助君も椅子に座り込んで首をカクリと傾ける。
「・・・・・・いや、これは・・・。」
何だろう・・・、何でだろう・・・。
何の意図があって、こんなものを借りて来いと言うのだろうか・・・。
二人して呆然と走り回っているライバルたちを眺めていると、不意に影が差して悪寒が走る。
「!!?」
慌てて顔を上げると、怪訝そうな顔をしつつも、不機嫌なオーラを発した土方先生が見下ろしてきている。
「土方先生!」
「お前・・・、そこで何をしている・・・?」
「いや、名前はさ、探しに来てたんだよ!」
平助君が立ち上がって説明するが、土方先生の視線は平助君を素通りしていく。
「競技はどうした。」
「えっと・・・・・・。」
名前も立ち上がると、何て言ったら良いのか分からずに、土方先生に紙を手渡した。
「これ・・・どうしましょう・・・。」
極力関わるなと言われているだけに、いくら競技だからといって、おいそれと近寄る気にはならなかった・・・。
けれど、それは言い訳でしかないのかもしれない・・・。
ふと、不安に思って俯いてしまう。
しかし、土方先生の反応は自分が覚悟していたものとは少し違った。
「はぁ?何だこれ・・・。誰がこんなもん考えやがった!!」
紙を持つ手が微かに震えている。
「土方先生、知らないんですか?」
「ああ。教師の誰からしいんだが、公表されてねえ。ったく、ろくなこと書かねえな…。」
前髪をワシワシ掻きむしると、ふと瞳に暗い影を燈して、にやり…と笑った。
その様子に、名前と平助君の背筋に冷たい痺れが走った。
「まだ、こっちの方が話が通じる。」
そう言いながら、土方先生は紙を半分に千切り出した。
「せ、先生!?」
慌てて紙を取り返そうとした時には、すでに無惨に引き裂かれた後だった。
土方先生は何故かご機嫌に戻り、千切った紙の半分だけを手渡して来た。
「これで良いだろう。探しに行け。」
「…え?」
戸惑いながら受け取ると、そこには先ほどの指示の半分だけが残っている。
「もしゴールで文句言われたら、俺が指示したって言え。」
「え、え…。」
そんな、まるで悪人ではないか…。
思ったが言える訳もなく、名前は頷くと指示の物を探しに歩き出した。
「あ、俺も行く!」
何故か平助君がついてくる。
「え?でも、これ、一応競技だし…。」
「一緒に居るだけなら、平気だろう!なぁ、いいだろ?今の土方先生の横には立っていたく無いんだよ…。」
チラリと後ろを振り向いて小さく震える平助君に、名前は仕方無く頷いた。
確かに、あの瞳の暗さには恐ろしさを感じる。
「さ!行こうぜ!」
平助君は、名前の手を握って走り出した。
目的は、生徒の席からも、教師の席からも少し外れた場所。
そこには、悠々と座る人物と、その横に佇む人物、そして、寝そべっている人物が居る。
正直、そこですら近寄りたくは無いのだけれど・・・、競技を終えるためには仕方が無い。
土方先生のお許しも貰ったのだ。
平助君に引っ張られながら近寄っていくと、佇んでいる人物が、座っている人物に何事か囁かれて、近づいてくる。
「お、何だ?ラッキーじゃん!」
平助君が名前を振り向いて軽くウィンクする。
「おい!天霧!」
近づいてくる人物、天霧先輩が、立ち止まって再び佇む。
「風間が、その手を放しさないと言っている。」
そう、穏やかに告げられるのだけれど、平助君は全く聞いていない。
「な、天霧、その学ラン貸してくれよ!」
「・・・・・・これですか?」
何やら目を大きく見開いて聞き返してくる。
「そ。学ラン。」
平助君が天霧先輩の学ランの裾を握り締めて引っ張っている。
名前は天霧先輩に近づいて、そっと頭を下げる。
「お願いします。すぐに返しますから。脱ぐのが嫌だったら、一緒に行ってくれれば・・・、すぐそこです。」
そうゴールを指差して見つめると、平助君が天霧先輩の腕を掴んで引っ張り始める。
名前も、それを見て頷くと、天霧先輩のもう片方の腕を引っ張り始める。
「・・・・・・協力しよう。」
されるがまま、引っ張られていた天霧先輩が自らの足で走り始めてくれる。
その後ろで、のっそりとした怒鳴り声が聞こえてきた。
「天霧、貴様!どういうつもりだ!」
その声に反応を示さずに、三人でゴールを駆け抜ける。
係りの人に紙を見せて、天霧先輩を前に押し出すと、係りの人は少しだけ首をかしげた。
「この紙、破れているみたい・・・だけど・・・。」
「あ、それは、土方先生が破っちゃって・・・。でも、書かれていることは大して違わないから大丈夫だって・・・!」
慌てて伝えるが、土方先生が・・・と聞いただけで、係りの人の表情が変わった。
「あ、大丈夫です。はい、OKです。四着です。」
「ぇえ!?結構早く来れたと思ったのに・・・。」
名前は肩を落として、4と書かれた旗を持った。
「天霧先輩、ありがとうございます。」
天霧先輩は、何やら納得したような表情で頷いて、黙って去っていった。
「平助君も、有難うね。」
「ん?ああ、別に大したことしてねぇし。」
両腕を頭の後ろで組んで、笑顔で告げてくれる。




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