第二コース

ぇえ!?どうしよう!
思わず赤面して辺りを見回す名前だが、辺りを見回したからと言って、紙の文字が変わる訳では無い。
な、何でこんな…。
戸惑っていると、後ろから走ってきた他の生徒たちも紙を捲りだす。
慌てて走りながら後ろを振り返ると、みんなも一瞬固まっている。
その様子に、思わず眉が寄る。
何だろうか、みんな何が書かれていたのだろう…。
それにしても、自分はこれを本当に実行に移さなくてはいけないのだろうか…。
いや、問題大有りだろう!
だって…、だって!!
名前が教師席の方へと視線を向けると、立ち上がって観戦していた原田先生と目が合う。
そのまま引き寄せられるように走り寄ると、原田先生が気付いたのか近づいてくる。
「どうした?名前。」
「原田先生!!」
駆け寄ってきた名前の顔が、運動のための赤さではなく赤面しているのに気付いて、原田先生の表情が変わる。
思わず手に握られている紙を放ったくると中身を見て…、眉根を寄せる。
名前の赤面に、何やら卑猥な物でも書いてあったかと危惧したが、どうやらそうでは無かったらしい。
「何だ…、いや、しかし、これは…。」
「どうしましょう、原田先生!これじゃ、ゴール出来ません!」
「う〜ん、まぁ…、バラしちまっても、面倒見る覚悟は有るが…。」
唸る原田先生に、名前が慌てて首を振る。
「だ、ダメですよ!?」
紙を取り返そうと手を伸ばすと、横から誰かに奪われる。
そちらに視線を移すと、沖田先輩が意地悪そうな笑みを向けてくる。
「へぇ…、これを考えた人…誰?」
「教師の誰がだが…。」
「誰かって?」
「さぁ…、公表されてねぇから、俺も知らねぇ。」
「ふぅん…。」
面白そうに、にやりと口元を歪める沖田先輩に少しだけ嫌な気配を感じて身構えると、意に反して素直に紙を返してくれる。
「こんな頭の悪いことをする教師が居たなんてね…。それは公表出来ないはずだね。」
沖田先輩の納得した様子に首を傾げると、沖田先輩が暗い笑顔を向けてくる。
「だって、僕に斬られちゃうから…。」
何も無い腰に手を当てて、まるで刀が有るように横なぎに一閃する。
その手の動きだけで、風を切る音が唸る。
「なぁんてね。ま、せいぜい二人で話し合ってよ。名前ちゃんが遅くなれば遅くなるほど、僕のクラスは有利になるからね。」
両手をひらりと天へ向けると、沖田先輩は立ち去っていった。
一体何をしに来たのだろう…。
「総司のやつ、偵察か?」
原田先生が呟く声に顔を上げると、視線に気づいて笑顔を返してくれる。
「大丈夫だ、名前。お前には、奥の手、家族が居るだろう?」
「…ぁ、あ!」
目を見開いて頷く名前の頭に手を乗せて、そっと撫でると軽くウィンクする。
「はい!有難うございます!」
笑顔でお礼を言うと、原田先生が頷き返してくれる。
名前は再び走り出して、今度は生徒たちの席へと急ぐ。
一年生の席の中、冷めた視線で競技を眺めている人物へと走り寄ると、驚いて居るのもお構いなしに手を握って立たせる。
「何か用?」
自分が今、借り物競争中だと知っていて質問してくる、双子の兄を見つめて、名前は早口で捲し立てた。
「良いから、薫、来て!」
「何で?」
「薫が必要なの!」
グイグイ引っ張って無理やりに連れて行こうとする名前の手から紙を抜き取ると、それを見る。
「ふぅん…、それで…か。」
一瞬、物凄く面白くなさそうな顔をする。
名前が最初に走って行った方向に目を向けてギッと睨みつける。
向こうも、遠いのにも関わらず視線に気付いて見てくるのに、内心感心する。
「まぁ、協力しないでもないけど…。」
ボソッと呟く薫を振り返って、相変わらず頑張って引っ張りながら名前が文句を言う。
「だったら、薫も一緒に走って!」
「嫌だよ。名前は他のクラスだろ。勝たせたくはないんだから。」
「そんなぁ!」
「せいぜい、頑張って引っ張ることだね。」
わざと脚に力を入れながら引っ張られている薫を振り返って見るが、名前の方を向いていない。
どこを見ているのかと思ったら、どうも教師席らしい。
自分もそちらを見ると、原田先生が笑顔を向けてくれる。
「あいつ・・・。」
ボソリと、毒の篭った呟きを吐き出す薫に不思議そうな視線を向けると、ふぃと視線を反らす。
「もっと頑張って引っ張らないで良いの?」
「こ、これでも頑張ってるんだけど・・・。」
救いなのは、薫のクラスの席と、ゴールが近いと言う事だ。
何とか数分間かけてゴールまで辿り着くと、引っ張っている方も、脚に力を入れて突っ張っている方も、くたびれてしまっていた。
「じゃ、紙見せて。」
係りの人に紙を見せると、二人を交互に見比べて、そっと頷いてくれた。
「二着です。」
そう告げられて、2と書いてある旗を渡された。
「はぁあ、じゃ、帰るよ。」
薫が腕を振り払うと、席に戻って行った。
「あ〜、くたびれた・・・。」
ボソッと、でも聞こえるように呟いて去っていく兄に感謝をして、そっと原田先生を伺い見る。
腕を組んで、日除けのテントのポールに凭れかかりながら、そっと微笑んでくれる。
それに微笑み返して、残りの人たちのゴールを待つための場所へと移動をした。




[*prev] [next#]

-top-



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -