その意味、教えてあげる

今日の授業の最後は、国語。
教師は勿論、鬼…、もとい。
「おい、名字!何ボーッとしてやがるんだ!俺の授業でよく不抜けた態度をとれるな。」
「へ!?」
いきなり名指しされて驚いて顔を上げると、土方先生の顔が間近にあって、再び驚いた。
土方先生の顔は整っていて、切れ長の瞳にサラサラした黒髪、前髪が長くて顔に掛かっていて、それを掻きあげる仕草が堪らなく色っぽい!!と級友たちが騒いでいるのをよく耳にする。
しかし、その顔は今盛大に顰められている…。
整った顔立ちのせいで、迫力は満点だ。
「お前、今の話聞いてなかっただろ。」
「いえ、聞いてました。けど…。」
「けど…、何だ?」
「黒板写すのに必死で…。」
「必死で?で?あんな間抜けな面をしてたってわけだ。」
「わ、わたし!間抜け面してましたか!?」
真っ赤になった頬を両手で挟んで、土方先生に向けて問いかける。
すると、土方先生は名前の顎に指をかけて上向かせると、自分の顔を近付けて名前の顔を左右に振りながらじっくりと眺めた。
そして、一言。
「よく出来た間抜け面だな。」
名前は、顔だけでなくみみまで真っ赤に染め上げた。
恥ずかしさから、涙まで滲み出て来ている。
「先生、酷い…。」
蚊の鳴くような声で抗議するが、土方先生がそれ位で申し訳なく思う訳もなく、ニヤリと妖艶に笑うと、
「どちらにしても、だ。聞いていても頭に入ってなければ意味は無い。だが、酷いことをした様だから、特別に宿題を出すだけで許してやる。」
と、死の宣告をして教卓へと去って行った。
やり取りを、くすくす笑いながら聞いていたクラスメイト達が、宿題と聞いて一気に静かになる。
みんな、この宿題とやらがどれだけ酷いかを知っているからだ。
そして、少しでも授業の流れを乱すと容赦なく宿題の波は広がっていくのも、知っている…。
しかし、ここで待ったをかける声が上がった。
「先生!そんなのおーぼーだよ!!」
「何だぁ?平助。この俺に意見しようってのか?」
「そりゃ、意見だってしたくなるさ。名前はさ、一生懸命黒板を写してただけじゃん。要は、勉強してたってことだろ。それなのに宿題出すなんて、おーぼー以外の何者でもないよ!!」
「ほぉう・・・。」
平助の言葉に、土方先生が片頬だけを持ち上げて笑った。その笑顔は傲岸不遜そのもので、教室内の温度が一、二度下がる・・・ともっぱら噂されている。
「俺に意見したいんだったら、『横暴』くらい、漢字で書けるんだろうな?」
ビクリっ!!と平助の肩が揺れる。目は泳ぎ、口調も途端にしどろもどろになる。
「あ、あれ・・・だろ?えっと・・・、おう、おう、黄に・・・、爆発の爆!!?」
眉間に皺を寄せて、土方先生が腕を組んで平助を見据える。
そして、ゆっくりと歩み寄り、小さくしたうちをする。
「ちっ、平助の癖に、良いところかすってんじゃねぇよ。・・・惜しかったな。」
「お!?マジで!やったー!」
「って、言うとでも思ったか!この大馬鹿者!!!」
「ぃいってええぇぇぇぇぇ!!!」
ガンッッと音がしそうなほど勢いよく拳を平助の頭に落として、土方先生が更に捲くし立てる。
「横に、暴風の暴だ!!人のこと庇ってねぇで、自分のことをキッチリやりやがれ!!大体、何なんだ、その制服の着方は!ズボンの裾を膝まで折り上げるな!!」
「だって、さっき体育だったからあっついんだよー!」
「暑くたって我慢するんだよ!心頭滅却すれば、火もまた涼し。って言うもんなんだよ。」
「火は、どんな状態で居ようと、熱いじゃん!そんなこと言って、先生だってネクタイ緩すぎると思う。もっとキツく締めなよなぁ!」
「俺はいいんだよ、俺は!」
「何でだよ〜!」
「教師様だからだよ!!」
「そんなの、横暴だよー!!」
「教えてもらったからって、漢字で答えてんじゃねぇ!」
二人のやり取りをハラハラしながら見守るクラスメイトたち。しかし、これを良い機会だと捉えて、黒板を書き写す作業を心置きなくし出す者もいる。
土方先生の機嫌が悪いときは、授業が終わるまで黒板を書き写させてもらえず、休み時間が潰れることが多い。そして、今日はこの後は下校だけになるが、それならそれで、さっさと帰ったり部活に行ったりしたいのが心情だ。
分かっている。分かってはいるが・・・。
自分がした失敗を庇うために矢面に立ってくれている平助を見ると、名前はそんなクラスメイトに少しだけ薄情さを感じてしまうのだった。
「とにかくだ!名字と平助、お前らは宿題な。」
「え〜〜〜!!!」
その時、無常にもチャイムが鳴り響いた。
土方先生は再び舌打ちすると、頭を掻いて、教卓へと戻った。
「授業が終わっちまったじゃねぇか。名字と平助、ホームルーム終了後、職員室まで宿題を取りに来い。じゃ、今日の授業は終わりだ。」
そう言って、教卓に両手の平をパンと音を立てて置くと、「面倒くさいホームルームもこれで終了。真っ直ぐ帰れよ!帰りに問題なんか起こしやがったら、分かってんだろうな!?」
と、脅しをかけて、教室を後にした。
名前は、土方先生が居なくなるとすぐに席を立って、平助の席へと駆け寄った。
「ごめんね、平助君!私のせいで、平助君まで宿題になっちゃって・・・。」
「いいっていいって。気にするなよな。だいたい、土方ってちょっと酷すぎるんだよ。」
「でも・・・。」
尚も言い募ろうとする名前に首を振って、優しく微笑みを向けてくれる。
なんて頼もしい幼馴染なんだろう・・・と、心が温かくなる。
今朝、また平助の寝坊のせいで遅刻したことは帳消しにしてあげよう・・・と思うのだった。




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