店のドアを開けて外に飛び出ると、横の植え込みの前にしゃがみ込んで顔を覆った。
最悪だ。もうダメだ。
何がダメって、こんな風に飛び出してきてしまった事が一番ダメだろう!
みんなの雰囲気をぶち壊したに違いない…。
恥ずかしい…。
さっきの人も、きっと大迷惑だっただろうし…。
店のサンダルのまま出てきちゃったし…。
「おい、大丈夫か?」
バッグも無いし、このまま帰れない…、みんなの前に戻るのが恥ずかしい!!
「おい!」
いっそ、このまま帰って、バッグは持って来てもらって…、ダメだ、ケータイがバッグの中だ!連絡も出来ない!
「おい!お前だよ!」
考え込んでいると、肩に手を置かれて揺すられた。
「は、はい!?」
慌てて顔を上げると、思い切り抱きついてしまった人が自分の肩に手を置いて見下ろしている。
「あ…、あ!!はい!すいません!本当にごめんなさい!!」
立ち上がり、再び深く頭を下げると、男の人が頭を掻いて渋い顔をしてみせる。
「いや、お前は悪くねぇから、気にするな。悪いのは総司だ。」
「でも、抱きついちゃったのは、私ですから。」
言ってて恥ずかしくなってしまって、俯くと、男の人が頭に手を置いて、わしわしと撫でてくれる。
「総司の悪戯はタチが悪い。あんまりお前が気にする必要はねえ。」
「でも…。」
「俺が気にしてねぇんだから、良いんだよ。ほら、戻るぞ。」
男の人が先に店に入ろうと、扉を開ける。
「え、でも、帰るんですよね?」
「総司を懲らしめたらな。」
振り返って、にやり…と笑うと、人差し指を折り曲げて名前を呼ぶ。
その様子に、何故かぞくりとした。
怖いのでは無く…、今まで出会った事のない、大人の色香と言うのだろうか…。
後ろをついて歩きながら、ドキドキ鳴り響く自分の胸の正直さに少しだけ呆れた。
座敷に戻ると、何時の間にか席替えが終わっていた。
入り口側の席、自分が座っていた場所と、明日香ちゃんが座っていた場所が空いている。
どうやって席替えしたらそうなるのか…??
ちょうど良い分配が出来なかった様で、何だか偏っている席と、みんなを見渡しながら…苦笑した。
「こっちです!!」
恵理奈が戻って来た男の人の手を引いて隣りに座らせる。
と、言う事は、自分はここですか…。と、元々の席にそっと座り込む。
手前に座っている総司さんの視線が…怖い。
「名前ちゃんさ…、土方さんを勘違いしちゃダメだよ。」
「へ?勘違い?」
「何ー?総司、どう言う意味?」
隣りをしっかりと陣取った明日香ちゃんが、総司さんに寄り掛かりながら話に入って来る。
その手に持っているジョッキに驚いて、思わず立ち上がって奪い取ろうとすると、明日香ちゃんが先に身を引いた。
「明日香ちゃん!お酒はダメだってば!」
「チョーうざいんですけど!名前ちゃんのそう言うとこ、キライ。」
「キライで結構!未成年なんだから、こういう場所では控えてって言ってるでしょ。」
「優等生って、これだからヤなんだよねー。」
後ろの壁に凭れ掛かりながら明日香ちゃんが言うと、総司さんが自分が持っていたグラスを置いて、店員さんを呼んだ。
呼ばれた店員さんに、ジンジャエールを頼むと、土方さんにはウーロン茶を頼んだ。
「何?総司、私はこれで良いんだけど?」
「ん?僕がジンジャエール飲むんだよ。未成年だから。」
総司さんの言葉に、女子一同、言葉が止まる。
「当たり前の事を今更しておいて、偉ぶってんじゃねえ。ったく、平助も斎藤もだ。酒なんか飲んでんじゃねえよ!」
土方さんが、お箸で各人を指しながら言うのに、更に女子が固まる。
「えー!だって、今日は新八っつぁんが良いって…。」
「うむ。タダ酒を飲ませてくれる約束だ。」
二人の言葉に、新八っつぁんが顔を引き攣らせてブンブンと横に振り出した。
「いや、あれだせ?ほら、だってよ!せっかく朱美ちゃんが誘ってくれたのによ!」
「俺は止めたぞ。」
新八っつぁんの慌てふためく様子に、左之さんがしれっと裏切る。
「さ、左之!裏切り者!」
その様子を見ながら、紗枝が斎藤さんから一歩興味を失ったのが分かった。
奈々も、平助さんから興味を引いた。
「マジ?総司って、未成年?」
「そうだよ。」
「いくつ?」
「内緒。」
「そこまで言って、内緒も何も無いだろう!」
平助さんがすかさず突っ込んで来るけれど、総司さんは視線で黙らせた。
ちょうど店員が入って来て、ウーロン茶とジンジャエールを置くと、土方さんがウーロン茶を二つ追加する。
恐らく、斎藤さんと平助さんの分だろう。
「お前は?何飲むんだ?」
土方さんに聞かれて、自分のグラスが空になっているのに気付いた。
恐らくは、明日香ちゃんが飲んだのだろう…。
「私も、ウーロン茶。」
「かしこまりました。」
店員が去って行くと、またみんなが話し出す。
先ほどまでとあまり変わらない盛り上がりだけれど、どこか熱が下がったような印象に変わった。
「なんだ、お前も未成年か?」
「違います。大学四年生、22歳です。」
「ふぅん。就活中か。」
「…はい。」
その言葉に返事が遅れた事に気付いて、土方さんがニヤニヤ笑って来る。
「決まってねぇのか。」
「ぅぐっ…、はい。」
「何がしてぇんだ?」
「き、教師を…。」
「ほぅ…。」
少し驚いた様に呟く土方さんを見て首を傾げると、総司さんがつまらなそうに鼻を鳴らした。
「土方さん、進路調査じゃ無いんだから、色気の無い話しないでよ。…まぁ、土方さんに色気のある話が出来るとは思わないけどね。」
焼き鳥の串をぶらぶら揺らして、総司さんが土方さんを挑発する。
「てめぇにも出来るとは思わねぇが?」
「まっ、土方先生よりは、上手かな。」
総司さんの言葉に、思わず土方さんに視線がいく。
「先生?」
「そっ。うちの学校の先生。」
総司さんが、心底嫌だと告げる様な声で言うと、土方さんが顔をしかめる。
「そっか。名前ちゃん、うちの学校においでよ。沢山遊んであげるからさ。」
新しい焼き鳥を名前の口元に突きつけて、総司さんが目を猫の様に細めると、土方さんが焼き鳥を奪い取って口に運んだ。
「土方先生に渡した訳じゃ無いんだけど…。」
「学校は勉強と仕事をする場所だ。堂々と遊ぶ宣言してんじゃねえよ。」
恵理奈も、明日香ちゃんも、総司さんと土方さんの話に入っていけずに、隣りの平助さんと新八っつぁんへと身体を向けてしまった。
二人に挟まれて、名前は戸惑い、店員さんから渡される料理をみんなへと配るぱしりに集中しようかと、思ってしまった。




[*prev] [next#]

-top-



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -