「へぇ、総司って、頭良いんだ!」
隣で明日香ちゃんが楽しそうに笑っている。
奥のみんなも何とか楽しそうに会話が続いているらしく、斎藤さんは静かに飲んでいるようだけれど、紗枝とは合っているのか、ポツリポツリと頷いている様子が伺えた。
いいな・・・。
目の前の誰も居ない席を見ながら、ピーチサワーに目を落とした。
甘い・・・・・・。なのに、この状況は苦い・・・。
「どうしたのさ、名前ちゃん。」
総司さんが少し身を乗り出して聞いてくれるが、明日香ちゃんが牽制するように少し背中を向けて総司さんに話しかける。
「名前ちゃんは、いつもこんな感じ。気にしなくて良いって。」
「そうなの?」
「そう。合コンでいつもあぶれちゃう可哀想な子。」
「あぶれちゃうんだ。へぇ。そいつら見る目無いね。」
「・・・?そうですか?」
総司さんの意外な言葉に目を瞬かせて見つめるが、こちらを見る瞳が細められて、奥がギラリと光った。
「うん。こんなに弄り甲斐がありそうなのに・・・。」
「そうそう!名前ちゃんてば、いじめ甲斐があるんだよね。」
「いじめじゃなくて、弄り・・・だけどね。」
「何か違うの?」
「多分、全然違うと思うよ。」
「・・・・・・総司の言うこと、たまによく分かんないんだよねー・・・。」
「そう?」
明日香ちゃんが唸るのを面白そうに見ている総司さんの視線が、先ほどからこちらに注がれている・・・。
捕食者の餌食になっているような・・・・・・。
総司さんは、格好良いと思うけれど、ちょっと怖い・・・。
堕ちたら、真っ逆さまに急降下して、地面に激突して痛そう・・・、どころか死んじゃいそう。
しかも、いじめじゃなくて、いじりって言った・・・。
どういう意味?どういう意味なの!?
「わ、私・・・・・・、トイレ。」
立ち上がると、総司さんの視線から逃げるように部屋を飛び出した。
トイレに行って、一回呼吸を落ち着けると、鏡でぎこちなく固まっている顔の筋肉を解すために口を開けて閉じて、少し揉み解す。
「あ〜・・・、駄目だ。今回も、無理だ。他の人・・・他の人はどうなんだろう?でも、なんかみんな良い感じだしなぁ・・・。」
最後に来る「らしい」人に期待をするしか無い。
じゃなきゃ、総司さんに捕食されて頭からバリバリ食べられて・・・、骨までしゃぶられて、ぽいっ!かもしれない・・・。
そんなイメージまで湧いてしまうほどに、総司さんの視線は危険な臭いがプンプンしていた。
トイレを出て個室に向かおうと角を曲がると、少し急いで歩いている人にぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
「いや、こっちこそ、悪い。」
少しだけ視線を投げて謝ってから、その人は足早に去っていってしまう。
さり気ないけれど、きちんと謝れる人は、それだけで素敵だと思ってしまう。
しかも・・・・・・顔が良い。
やっぱり、男って顔も大事だよなぁ。
明日香ちゃんじゃないけど、「男は身体の相性と顔」という言葉は、実は本当かもしれない・・・などと、下らない事を思ってしまった。
いかんいかん・・・。
飢えてる女は、きっとドン引きされるから!
・・・・・・あれ?じゃ、なんで朱美や明日香ちゃんはドン引きされないんだろう・・・。
奈々も、何だかんだいつも飢えてても、上手くいってる。
紗枝はそこまで固執してないし、恵理奈に至っては、芸能人並じゃないと身体が反応しない〜とか何とかホザイテ・・・じゃなくて、のたまって・・・でもなくて、言っていた。
駄目だ、口まで悪くなってきた。
相当、この状況に耐えられなくなってきているんだ・・・。
あ〜、席替えしないかな〜・・・。
俯いてぼたぼたとサイズの合わない店のサンダルで歩いて居ると、前から「帰る!!」という言葉が聞こえてきて、ドガッ!!と何かがぶつかってきた。
「ったっ!!?」
「うわっ!」
自分のミュールなら何とか堪えられただろうけれど、サイズの合わないサンダルから足が滑り落ちて、更には、サンダルを踏まれてしまっていた名前は、そのまま尻餅をついてしまった。
「痛たた・・・。」
「悪い、居るとは思わなかった。」
自然と差し出された手を握って立ち上がると、改めて顔を見上げて、あ・・・とお互い声を上げる。
先ほどぶつかった人だ。
ならば、この人が最後の人か。
ヤバイ・・・、運命の鐘の音が聞こえてきてる・・・・・・。
ん?でも、帰るって言ってなかった?
・・・・・・あ、鐘が落ちて砕け散ってる・・・。
「土方さん、もう捕食したんですか?相変わらず、早いなぁ・・・。」
握られている手を、土方さんの後ろから圧し掛かるようにくっついて、総司さんが引き剥がした。
「名前ちゃん、騙されちゃ駄目だよ。この人こそ、真の捕食者だから。」
「なんだ、何の話をしてやがる?」
「ふふっ、僕と名前ちゃんだけの秘密。」
「はぁ?くだらねぇ・・・。」
吐き捨ててその場から去ろうとする土方さんを、総司さんが名前の両手を挟むように握って捕まえる。
「捕食者の捕食成功。」
「え?総司さん?」
「総司!?」
総司さんは、そのまま土方さんを間に挟んで、名前の手をぐいぐいと引っ張っていく。
自分の身体が土方さんにべったりとくっついてしまって、身体中が恥ずかしさで染まっていく。
「ご、ごめんなさい!すいませんっ!あの、放して!」
土方さんを見上げて謝るが、不機嫌そうに後ろへと引っ張られる様子から、許してはくれなさそうな雰囲気を感じ取って、顔が今度は青くなる。
そのまま座敷に戻されて、総司さんが最後に思い切りキツク引っ張ると、土方さんの足が座敷の段差にぶつかって、そのまま後ろに座り込んで、名前がそのまま胸に縋りついて抱き締めているような状況になってしまった。
「総司!てめぇ!!」
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!!!・・・・・・あ、あの、手を放して下さい!!」
未だに手を引っ張られて、ぎゅうぎゅうと土方さんにくっ付けられてしまっては、心臓が保たない!!
助けて欲しいのに、見ている全員で笑っているだけで、誰も助けてくれない・・・。
土方さんに謝るために見上げている顔すら、反らされて見てもらえずに、許してはもらえないのだと・・・、そう思ったら、恥ずかしいやら情けないやらで、涙が出てきてしまった・・・。
ふと、黙った名前の様子に気付いて土方さんが見下ろしてくると、驚いたように目を見開いた。
「お、おい!?」
その土方さんの声の変化に気付いて、総司さんがやっと手を放してくれる。
「ごめんなさいでした!!!」
慌てて身体から退くと、勢い良くお辞儀をして、店を飛び出した。
「あ〜あ、帰っちゃった。」
「いや、帰ってくるっしょ。バッグも有るし、店のサンダルだし。」
明日香ちゃんの言葉にみんな少しだけ安心したが、土方さんは面倒くさそうに腰を上げて、出口へと歩いて行った。




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