名前は、体育祭が終わってから原田先生に呼ばれて裏庭に来ていた。
「原田先生?」
そっと声をかけると、見えづらい校舎と木の陰から顔を出して手招きされる。
「こっちだ。」
走り寄ると、腕の中にすっぽりと収められる。
「ど、どうしたんですか!?」
学校では、なるべく二人で会わないようにしているし、こんなにくっついたりはしないのに・・・。
今日の原田先生は大胆で、ドキドキする。
「もしこんなところを誰かに見つかったら・・・。」
辺りを思わず伺うと、キョロキョロ動く頭を固定されて、顎を指で持ち上げられる。
長身の原田先生が、覆いかぶさるように腰を曲げて・・・、そっとキスをしてくれる。
学校での行為に、いつもよりも心臓が早く鳴り響いている。
「原田先生!?」
「ん〜?」
どこか悪戯っぽく微笑むと、もう一度キスをされる。
「どうしたんですか、今日は!」
顔を赤く染めて尋ねる名前に、原田先生が耳元に口を寄せてそっと囁く。
「いや・・・、お前が「最愛の人」って言われて、真っ直ぐに俺のところに来てくれたのが、嬉しかっただけだ。」
借り物競争の紙を見た瞬間、原田先生しか頭に浮かばなかったのだ。
『最愛の人』
その言葉は、自分にとって間違いなく原田先生しかいない。
「すいません、ご迷惑じゃなかったですか?」
不安そうに伺い見る名前に、思わず声を出して笑ってしまう。
「今、嬉しかったって言ったばかりなのに、迷惑なわけ無いだろう。」
いつだって控えめな名前に、原田先生の愛しさは募るばかりだ。
「でも、学校には内緒にしなければ・・・。」
「俺は、別にバレたって構わねぇんだが・・・な。」
「だ、駄目ですよ!」
自分は、学校側にバレテも構わないと言うのに、名前はその度に駄目だと言う。
職を失っては・・・と思っているようだけれど、別に職なんかいくらでも探せるし、既に教師数人には知られているのだから・・・と思う。
それでも、名前が嫌がることはしたくない。
「分かってるよ。」
そう言いながら、頬に手を添えて、再びキスをする。
「今夜、お前ん家に行っても良いか?」
「・・・はい。」
視線を俯けて控えめに答える名前をギュッと抱き締めると、不意に足音が近づいてくる。
「やべぇ、名前、お前先に行け!」
「は、はい!」
名前を腕から放すと、そっと肩を押して先に戻らせる。
自分は陰に潜んで様子を伺っていると、声が聞こえてきた。
「名前・・・。」
「薫!?ここで何しているの?」
「それはこっちの台詞だよ。こんな所に用は無いだろう?」
「う、うん。ちょっと立ち寄っただけ・・・。」
「・・・・・・へぇ・・・、この辺ってさ、よくカップルが隠れてこそこそ、ナニしてるような場所・・・なんだよねぇ・・・。それ、知ってて来たの?」
「え・・・・・・?」
「風紀の取り締まり強化場所なんだ。まさか、そんな所で最愛の妹に会うなんて・・・、兄として残念だよ・・・。」
原田先生は、二人のやり取りに冷や汗をかいていた。
まさか、風紀の取り締まり指定になっている場所だとは知らなかった・・・。
生徒たちの格好のこっそりナニ・・・場所だとは知っていたが・・・。
既に、風紀に知られて居たか・・・。
流石は斎藤だ・・・。
思わず唸ると、「誰か他に居るの?」という薫の言葉にビクリとする。
息を呑んで、唸り声どころか、呼吸の音さえ聞かれないように気配を消す。
「居るわけないって。誰も居なかったよ?」
すかさず名前がフォローする。
「そう・・・?まぁ、いいけど・・・。」
薫の声は、思い切り不審だと告げているが、それに気付かずに名前が先を続ける。
「ね、行こう。」
「・・・まぁ、名前がそう言うなら・・・。」
不服そうに言う薫だが、その気配は原田先生の居る場所へ棘のように投げつけられている気がする。
もしかしたら、完全にバレているのかもしれない。
「あぁ、そうだ。名前、今夜は一緒にご飯を食べよう。」
「え?」
「良いだろう。最愛の兄の言うこと、聞いてくれるよね。借り物競争では、協力したんだし。」
「え、うん。でも・・・。」
「まさか、先約なんか無いよね?だって、名前はさっきまでは誰とも約束してなかったし。」
「あ・・・、う、うん・・・。」
あぁ、これは完全にバレている・・・。
含み笑いをしながら話している薫に、原田先生がガクリと肩を落とした。
「でも、名前が僕のことを最愛の人に選んでくれるなんて、思っても居なかったから凄く嬉しかったよ。」
最初から、聞かれていたらしい・・・。
今日は諦めるしかない・・・。
この、名前が愛しくて可愛くて抱き締めたくて抱きたくてナニがしたくて・・・、逸る心がとても残念で悲しいと告げている。
気付かれないように・・・って、気付かれているけれど・・・。
そっとケータイを取り出して、メールを作成する。
その文面に涙を流しながら送信した。
少し遠くで着信音が鳴ると、ますます涙が零れる。
「あ、うん。じゃ、今日一緒にご飯食べようね。早く着替えて帰ろう。」
名前が薫に伝える言葉に、心臓が槍に貫かれたような衝撃が走る。
遠ざかっていく二人の気配、完全に消えてから原田先生は校舎に背を預けて、ずるずると座り込んだ。
「畜生・・・、俺があいつを利用したこと、恨んでやがるな・・・。」
今日は新八と呑んだくれてやる!
涙で滲むケータイの画面に、「呑むぞ!」とだけ入れると、悲しいかな、男にメールを送信したのだった・・・。




[*prev] [next#]

-top-



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -