黒板を書き写し終わり、教室の掃除も無事に済んだ。
残るは、死の宿題を取りに行くのみ・・・。
名前は、掃除終わるのを待っていてくれた平助と共に、職員室に赴いた。
ドアをノックしてから中に入り、土方先生の机まで行くと、当の本人はまだ居ないようだった。
「あれ?先生まだ居ないね。」
キョロキョロと辺りを見回してみるが、職員室内には見当たらない。首をかしげていると、横から声がかかった。
「何、名前ちゃんってば俺に会いに来てくれちゃったわけ!?感動だな〜!」
「んなわけ無いだろ、新八。」
「そうだよ、新八っつぁん。」
「永倉先生、原田先生・・・。」
両手を握られて、上下にブンブン振り回されながら、二人の先生に挨拶をする。
「いつまで握ってんだよ。」
「いつまで振ってんだよ!」
原田先生と平助の二人から腕を解かれて、永倉先生が悲しそうにする。そのジャージ姿のお尻のポケットには、赤ペンチェックだらけの新聞紙が差してあった。
先日、それが競馬新聞だと、本人から意気揚々と告げられて、名前は呆気に取られたばかりだ。
「で、二人は土方先生に呼ばれてきたの?」
「あ、はい。そうです。」
「土方先生、どこ行っちまったんだ?左之さん知ってる?」
「左之先生、知っていますか?だろ、そこは。」
「いいじゃん、左之さん、そんなの気にしないだろ?」
「まぁ、気にはしねぇが・・・。」
椅子の背もたれに寄りかかり、大きく伸びをする原田先生。背が高くて、土方先生とはまた種類が違う美男子だ。厳しさの中にある美しさと例えられる土方先生に対し、優しさの中にある甘さと例えられる原田先生は、そこはかとなく漂う雰囲気が艶やかで、危険な恋の香りがする・・・!と、これまた女子の間では大人気である。
「さっき、校長に呼ばれてたからな。嬉しそうにすっ飛んでったぜ。」
「土方先生は、校長一筋だからなぁ〜。」
永倉先生が、机の上に浅く腰掛けて、しきりに笑いを堪えている。
「昨日さ・・・、校長が・・・っくくくっ。」
「あぁ、あの話か。あれはちょっと流石に、土方先生が可哀想になったな・・・。」
可哀想・・・と言う割りに、二人の顔はニマニマ、ニヤニヤしている。永倉先生に関しては、すでに笑い声が漏れ聞こえている。
名前と平助は顔を見合わせて、首をかしげた。
「昨日、何かあったんですか?」
「そこまで言って、教えてくれないなんて無しだからな!」
「いやぁ、それがさ・・・っぶは!!ははははは!!だ、ダメだ!!!っはははははは!!わ、わ、笑っちまって!!左之、任せた!!」
永倉先生が、お腹を抱えて大爆笑を始めてしまって、原田先生が苦笑いで後を引き受けてくれた。
「校長が、昨日土方先生に、一緒に言って欲しい場所があるって、頼みに来たんだよ。で、校長の頼みを断るわけもねぇから、どこかも聞かないで二つ返事でOKしちまったんだけどよ。」
原田先生も、ところどころ笑いながらだけれど、淀みなく説明してくれる。
「で、どこに行ったんだ?」
「まぁ、焦るなって。今、文化祭の出し物を各クラスで候補を挙げてきているだろ?」
「はい。うちのクラスも、少しずつ候補が絞れてきてますよ。」
「うん。で、だ。どっかのクラスが、喫茶店をやりたいって言ってるんだ。」
「お、良いじゃん!喫茶店、うちのクラスもやりたいな〜。」
「え、今更新しい案なんか出しても、もう無理だよ。」
「問題は、そこじゃないんだって。」
一頻り笑い終えた永倉先生が、脱線し始めた二人に水を差した。
「その喫茶店が、メイド喫茶だって言うんだ。で、校長が、どんなものなのか、事前調査をしたいから、一緒に行ってくれって言ってきたってわけだ。」
「め、メイド喫茶!!?校長と土方先生が!!?」
「そ、それで、本当に行ったんですか!?」
「そぉれがさぁ〜、いっくら聞いても、教えてくれないんだぜ!でも、教えてくれないってことは、絶対に行ってるよな!俺も行きたかったな〜!!絶対に、土方先生よりも役に立てるぜ!」
「いや、新八は行っちゃダメだろう。変にはまって帰ってこられても迷惑だ。」
「そうだよ。新八っつぁん、絶対に好きだろ、そういうの。」
「え・・・、そうなんですか・・・?」
「何なら、名前ちゃんが俺のためにメイド服着てくれてもいいんだぜ!」
「絶対に駄目!!駄目駄目駄目駄目駄目!!」
にじり寄る永倉先生から名前を庇いながら、平助が永倉先生に向かって唾と一緒に言葉を投げる。
「うわ、汚ぇ!!お前唾飛ばすなよ!」
「あ、おい、こら、そこら辺にしておけって!」
原田先生が仲裁に入ったが時既に遅く、二人の頭に鈍い衝撃が走って、蹲った。
「職員室で何騒いでやがんだ!この馬鹿共が!!」
背後から現れた土方先生にビックリして、名前は少しだけ飛び跳ねた。
「平助、お前はここに喋りに来たのか?反省して、厳粛に宿題を受け取るという姿勢は無いのか!」
「あるある!あります!!」
「だったら!」
教卓の上から、プリントを二枚持ち上げると、平助のほうに差し出した。
「宿題持って、さっさと帰れ!!」
首をすくめて、プリントを受け取ろうとすると、スルリと上へ逃げていく。それを目で追うと、そこには沖田先輩が立っていた。プリントを眺めて、平助を見て、馬鹿にしたように鼻で笑い飛ばした。
「へぇ、平助君・・・。君、また何か仕出かしたんだ。名前ちゃんまで巻き添えにして、可哀想に・・・。」
沖田先輩は長身の腰を屈めて、名前の肩に背後から顎を乗せてくる。そのまま耳に息を吹きかけられて、「ひぇ!!」と思わず変な声を出してしまった。
と、土方先生に腕を引っ張られて、沖田先輩の顎が肩から外れる。
「総司、お前も似たようなもんだろうが。授業中に居眠りばっかりしやがって。お前も、宿題取りに来たんだろう。」
「嫌だなぁ、土方先生。僕は別に宿題なんて望んでいませんよ。ただ、僕は昨日のメイド喫茶、楽しかったですか〜?って聞きに来ただけですよ。」
今まで四人で話していた話題が、第三者から本人にぶつけられて、名前たちはビックリして二人を交互に見比べた。
涼しい顔をして・・・いや、どこか黒さを秘めている顔をしてニコニコにやにやとしている沖田先輩に対して、思い切りあからさまに怒りを顔に表している土方先生。
「総司!!お前、どこからその話を!!?」
「いやだなぁ、校長先生に決まってるじゃないですか。本当は僕が校長先生と行こうよって話していたのに、校長先生ってば、先にトシと行って、どんな場所か確認してからじゃないと連れて行けないし、喫茶店の許可も出せない!の一点張りで・・・。」
飄々と話している沖田先輩に掴みかからんばかりに前のめりになっている土方先生を、原田先生が後ろから羽交い絞めにして押し留めている。
「総司!!原因はお前だったのか!!」
「原因って、嫌だなぁ〜。僕は純粋に校長先生と喫茶店に行きたかっただけだよ。でも、どうせならクラスの出し物の研究もしたいな〜って、頼んだだけじゃない。土方先生を連れて行って、なんて、一っ言も頼んでいないよ。むしろ、僕が怒ってもいいと思うよ。僕が校長先生と行きたかったのに!!」
「で、行ったのか、行ってないのか?」
永倉先生が、ボソリ・・・と呟くと、土方先生のこめかみに浮いている青筋が、更に太くなった。
「お前ら、そのプリント持って、さっさと出て行け!!!」
ビシッと、ドアを指差して怒鳴られて、名前と平助は逃げるように走り、沖田先輩は悠々とした足取りでゆっくりと職員室を後にした。
沖田先輩にプリントを持たれているので、先に帰ることも出来ず、ドアの外で待っていると、沖田先輩はヒラヒラとプリントを揺らしながら優雅にドアを潜り抜けてきた。
「はい、名前ちゃん、平助君。宿題だよ。」
沖田先輩が持っているプリントは、二枚しかない。
「あれ?沖田先輩は、宿題は?」
「ん〜?さぁ。渡されていないし、免除・・・じゃない?」
沖田先輩は、ニヤリ・・・と笑って、頭の後ろで両手を組み、ゆったりと歩き去っていった。
「なぁ、今日土方先生が機嫌が悪かったのって、もしかしてメイド喫茶のせい?」
「そう・・・なのかな・・・。本当に行ったのかな・・・。」
二人の興味の対象が少し違うことはお互い気づかず、顔を見合わせて首を傾げあった。




[*prev] [next#]

-top-



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -