名前は校庭に戻ると、物凄く目立つ緑のテントへと走っていった。
「先生!山南先生!新聞持っていませんか!?」
声をかけながら、バサリと入り口を捲くると・・・・・・。
中に横たわる生徒二人と、頭に氷を乗せて休む永倉先生に遭遇した。
永倉先生は経緯を知っているだけにあまり驚きはしなかったけれど・・・・・・、他の生徒二人は、一体・・・。
どうも、競技で負った傷とは思えないような、殴られた痕が数箇所あり、二人とも手には紙を握っている。
「おや、名字君じゃないですか。どうしました?あなたも怪我ですか?」
山南先生が笑顔で近づいてくる。
その顔に視線を向けてから、思わず寝ている二人に視線が戻ってしまう。
「ああ、彼らは無謀にも果敢に挑戦してしまった結果の惨事です。気にしないで上げてください。」
「え・・・?え、ええ。」
何に無謀に果敢に挑戦したのか、気になる部分ではあるけれど・・・、今はそれどころではない!
「あ、あの、山南先生、今日は学校に新聞を持ってきていませんか?」
「新聞ですか?そうですね、保健室に行けば、今日の分も先日分も、有ると思いますが。」
「それ、頂いてもいいですか!?」
希望に輝いた瞳を山南先生に向けて言うと、山南先生は快く頷いてくれた。
「ええ、勿論です。その手に持った紙、おそらく借り物競争でしょう。学校行事には協力しなければ。」
笑顔で言うと、後ろに向かって手招きをする。
「山崎君、一緒に行って、保健室を開けてあげてください。」
「はい。」
返事をして、すくと立ち上がる人影に、名前は少し驚いた。
狭いテントの中に、まさかもう一人居るとは思っていなかったのだ。
まるで影のように潜んでいて、急に現れたかのような印象だ。
「名字君、急ぎましょう。」
身体半分だけテントの中に潜らせている名前の横をすり抜けて、山崎先輩が出てくると、先に歩き出してしまう。
「あ、待ってください!山南先生、有難うございます!」
急いでお礼を言ってテントから身を翻す。
「さぁ、ではこの回復薬を飲んでください。一気に傷が治りますから。まぁ、少し昼間に眠くなったり、血がほしくなったりしますが・・・・・・。」
テントの中から山南先生の声が聞こえてきたが、山崎先輩を追いかけている名前の耳には、届かなかった・・・。
「山崎先輩、すいません、迷惑をかけてしまって・・・。」
「いえ、迷惑などと思っていないので気にしないで欲しい。それよりも、急ぐぞ。」
「はい!」
少しだけ遅く走ってくれている山崎先輩の後を追いかけて、名前は少しだけ心配になって校庭を返り見た。
ゴールしたような人が数名見えたけれど、まだ探し回っている人も居るのか、依然として競技が進んだ様子が無い。
生徒たちも、どうしたのかとどよめいているのが伝わってくる。
校舎の中に再び戻り、保健室へと急ぐと、山崎先輩が鍵を開けてくれる。
保健室は、中に人が勝手に入らないように、いつも鍵がかけられている。
色々な薬品が置いてあるかららしいが・・・、怖い噂も聞いたことがある。
勝手に入ると、赤い液体を無理やり飲ませる鬼が潜んでいるとかなんとか・・・。
あまりにも信憑性に欠けるために、信じては居ないのだけれど・・・。
「あの、山崎先輩は、保健室に勝手に入っても良いんですね。」
「え?あ、ああ。俺は保険委員だから。」
保健室らしからぬ種類の沢山の本が詰まっている本棚の横から、新聞紙を一冊取り出すと、手渡してくれる。
「保健室は、開放しているとベッドを狙って勝手に入り込んでくる輩が多くて・・・。それで、いつも鍵を掛けさせて貰っている。」
「そうなんですか。」
確かに、教室の机に突っ伏して寝るよりは、保健室のベッドで寝たほうが気持ちがいいだろう。
「さ、もう行こう。」
本がぎっしり埋まっている壁から離れて山崎先輩が名前の背中を押す。
ぎっしり埋まっているのに、一箇所だけ本が抜かれている、そこに目が行ってしまい・・・、何故だかギクリとした。
微かに入る灯りに反射する、赤い液体が見えたような・・・・・・。
勝手に入ると、赤い液体を無理やり飲ませる・・・鬼・・・?
「どうした?」
押した手の感触から、名前が緊張したのが伝わって、山崎先輩が心配そうに声をかけてくる。
そして、次の瞬間にはパッと手を放して後ろに飛び退く。
「い、いや!そんなつもりは!!さ、触ったのは別に、無理やりとか、お、押し倒すとか、そんな意図は全く!」
「・・・え?どうしたんですか、山崎先輩?」
「いや!いやいやいや!!な、なんでもない!なんでもないんだ。気にしないでくれ。全く、やましさなど何も有りはしない!ただ、早くそれを持ってゴールしなければと、そう思って!」
山崎先輩の突然のうろたえ様に虚を突かれながら、名前は頷いた。
「あ、はい。じゃ、有難うございます。これがあればゴール出来ます!」
新聞を掲げ持って、名前は頭を下げると保健室を後にした。
「はぁ・・・・・・。いや、俺がベッドを使うなど・・・・・・!!!な、何を考えている!不肖山崎、土方先生と山南先生に尽くすために保険委員をしているだけであり!!」
真っ赤に染め上げた顔を手で覆って蹲る山崎先輩に気付かずに、名前は校庭に戻ると、無事にゴールへと辿り着いた。
紙と持ち物を見比べての審査も無事に通り、静まり返っていた校庭に再び喝采が起こる。
結果は三着と、少し微妙な順位ではあったけれど、学校行事にも参加できて、クラス順位にも少し貢献できた。
その後は、みんなの応援を頑張り、無事に一日を終えることが出来た。
楽しい学校行事はあっという間に終わる。
後夜祭をぼうっと眺めながら、この幸せな時間を噛み締めるのであった。




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